発酵、発酵食の研究7

『発酵、発酵食をもっと知ろう!』

今年は「発酵、発酵食」がテーマ。さまざまな角度から“発酵や発酵食品”そして“発酵食品を使った料理”を研究しています。今回は、植物性の発酵食品の「納豆」と、納豆の仲間の「テンペ」を取り上げました。また、「日本各地のご当地汁」シリーズ。今月は山形県庄内地方の“枝豆汁”。夏の郷土汁に、枝豆(だだ茶豆)をさやごと入れるみそ汁があるので、今回はそれを作ってみんなで試食しました。

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市販されている国産「テンペ」2種。

◎健康にいい発酵食品の代表格、納豆
納豆は、大豆に納豆菌を付けて発酵させた食品。納豆菌は、空気中や土壌、植物などに広く飛散している枯草菌の変種で、蒸した稲わらに、ゆでた大豆を入れて発酵させます。稲わらを蒸すと他の細菌やカビは死滅しますが、強い納豆菌だけは残るため、この性質を利用して作ったのが納豆で、医師300人が選んだ健康食材の第1位にも選ばれたとか。

※枯草菌(こそうきん) 土壌や植物に普遍的に存在し、空気中に飛散している常在細菌(空中雑菌)の1つ。乾燥や熱に非常に強く、天日干しをしても真空状態でも生き残り、プラスマイナス100℃の環境にも耐えることができます。
※納豆菌 かつては、蒸した大豆を稲わらで包み、保温することで、稲わらに付着している納豆菌が増殖、発酵して納豆を作っていましたが、雑菌などが入る可能性も多く衛生的でないことや、安定した生産量が期待できなかったため、納豆菌そのものを開発。純粋培養した納豆菌を用いる方法を確立しました。
現在、三大納豆菌として知られるのは「宮城野菌」「成瀬菌」「高橋菌」。中でも宮城野菌は多くの納豆メーカーで使われていますが、発見されていない納豆菌もまだまだあるといわれています。味やニオイ、ネバネバ具合、栄養成分量などは菌によって異なるため、現在でも新しい納豆菌の発見や、その違いをいかした商品開発が行われています。

◎大豆にはなかった成分が加わる納豆
納豆の原料である大豆は“畑の肉”と呼ばれるほど植物性たんぱく質が豊富に含まれるのをはじめ、ビタミンB1・E・も豊富。そのほかにもビタミンB2、B6、K、食物繊維、葉酸、ポリフェノールの一種である大豆イソフラボン、大豆サポニン、レシチン、植物ステロールなども含まれます。
ただでさえ栄養豊富な大豆ですが、発酵して納豆になるとさらにパワーアップ。ビタミンKの量は約55倍も増え、ビタミンB2は約6倍、B6や葉酸も増えることがわかっています。また、納豆菌による発酵で、血栓を予防するナットウキナーゼをはじめ、アンチエイジング効果のあるポリアミン、老廃物の排出を促進するポリグルタミン酸など、大豆にはなかった有用成分が新たに生まれます。

“納豆菌”の驚くべきパワー
近年、健康によい食べ物の両横綱に“ヨーグルトと納豆”を上げる専門家も多いですが、ヨーグルトに用いる乳酸菌が、胃酸に弱く、生きたまま腸まで届くことが難しいとされているのに対し、納豆菌は生きたまま腸まで到達することがわかっています。納豆菌には善玉菌のエサになる食物繊維や、大豆オリゴ糖も豊富。これらが善玉菌を増やしたり、ジピコリン酸という成分が悪玉菌を抑制する働きもします。

納豆の効果的な食べ方、効果半減の食べ方
驚きのパワーをもつ納豆ですが、そのとり方によって効果が倍増したり、逆に効果を台なしにする“もったいない食べ方”もあります。たとえば、血液をサラサラにして血栓を予防する成分“ナットウキナーゼ”の効果は食後12時間ほど。一方、夜中から明け方に発生することが多いのが、血栓が原因で起こる心筋梗塞。そこで、「納豆は朝食べるより、夜食べる方がいい」といいといわれるのはこのためです。
※納豆は炊き立てのご飯にのせ、ぐるぐるかき混ぜて食べる、という人が圧倒的に多いと思いますが、実は“ナットウキナーゼ”も“ビタミンB群”も熱に弱いため、健康効果を期待するなら、ご飯と納豆は別々に食べるほうがよさそうです。

インドネシアの納豆“テンペ”
テンペ(インドネシア語 tempe)は、インドネシア発祥の伝統的発酵食品。納豆菌を用いて発酵させる納豆に対し、テンペは煮た大豆にテンペ菌(ハイビスカスやバナナの葉などにつくクモノスカビ)を付着させて作ります。また、大豆以外にも落花生や穀物から作られるテンペもあります。

インドネシアでは、テンペは生食せず、塩水やサンバルなどに漬けて調味してから油で揚げたり、炒めたり、煮込み料理にしたり、火であぶってからサラダに加えたり、昔からさまざまな料理に用いられてきました。

本場インドネシアのテンペは、大豆の薄皮を取り除いてから作っていますが、日本製のテンペは、国産大豆を丸ごと用い、大豆のうまみや有効成分(食物繊維など)を残しています。また、雑菌のいない国内産のテンペ菌で発酵しているため、納豆と同様にそのまま食べたり、そのまま料理に使うことができます。

ベジタリアンやビーガンからも注目のテンペ
テンペの表面は白い菌糸でおおわれ、ブロック状になっています。味は淡白でクセがなく、納豆独特のニオイもほとんどなく、糸も引きません。近年は、ベジタリアンやビーガンから注目され、サンドイッチの具にしたり、焼く、揚げる・・・など肉の代用品として料理に用いられる機会も増えています。

<今月のご当地みそ汁>
◎山形 枝豆のみそ汁

「だだちゃ豆」といえば、庄内地方特産の枝豆の品種。茶色のかったさやの色と、独特の風味があり、うまみや甘みが強いことでも知られます。庄内地方では、これを塩ゆでにして食べるほかに、昔からよくみそ汁の実にしても食べてきました。驚くのは、枝豆は必ずさやごと入れること。
また、さやが茶色くなるくらいまで煮込むこと。さやからうまみが出るので、だしは不要。汁はほのかにカニのような風味がするのだそうです。山形の家庭ではおなじみの汁で、地域によっては、さやだけでなく、茎や葉も一緒に煮込んで食べるところもあるそうです。

<今月の料理ラボ>

◎テンペ2種の味比較

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どちらのテンペも、ゆでた国産丸大豆を国産のテンペ菌で発酵させたもの。左のテンペの賞味期限は冷蔵保存で1週間程度。右は発酵後に加熱殺菌してあり、未開封なら常温で7~8か月保存可能。色が茶色いのは加熱殺菌によって変色したからと、パッケージに表記あり。

左のテンペは、ゆで大豆の香りや味わいがありますが、納豆独特の味やニオイはまったく感じられません。右の加熱殺菌したテンペの方が、納豆に近い味がします。どちらが好きかは好みでしょうか。食ラボでも評価が分かれました。

◎揚げテンペと空心菜のスパイシー炒め/久保田作
インドネシアで昔からよく食べられているテンペ料理の1つ。きつね色に揚げたテンペと空心菜を炒め合わせたもの。

材料(6人分):テンペ3枚(300g)、空心菜2束、A(赤唐辛子斜め切り3本分、にんにくのみじん切り1かけ分、バワン・メラ適量)、鶏ガラスープ(中華だし小さじ1、水1カップ)、ケチャップマニス(なければオイスターソース)、塩
作り方 下準備:テンペは大きめの拍子木切り。フライパンに多めの油を熱し、きつね色に揚げ、油をきっておく。空心菜は4㎝幅に切る。
①フライパンにサラダ油とAを入れて弱火で炒め、香りが立ったら揚げテンペを加え、空心菜も加えて強火で炒め、中華スープ、ケチャップマニス、塩で調味する。

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「バワン・メラはインドネシアのエシャロット。なければ玉ねぎ(薄切り)を素揚げして使ってください。ケチャップマニスはインドネシアの甘しょうゆ。手に入らない場合はオイスターソースで代用できますよ」と久保田さん。

スパイシーな味つけがテンペや空心菜とよく合い、暑い夏場にぴったり!ただ、拍子木切りにしたテンペを先に揚げておいたのですが、炒める段にバラバラになってしまいました。インドネシアのテンペとは違い、日本製のテンペは、製品によってはやわらかいようです。

◎テンペのヘルシーカツ/久保田、牧野、飯塚、長島作
テンペにクリームチーズを塗り、衣をまぶしてトンカツ風に揚げたもの。テンペは塩水に1時間程度漬け、下味をつけてから調理する。
材料(6人分):テンペ3枚(300g)、クリームチーズ50~60g、付け合わせ野菜(サラダ菜、トマトなど)、レモン、A(水11/2カップ、塩小さじ1)、衣(小麦粉適量、溶き卵2個分、パン粉適量)、揚げ油
作り方 下準備:テンペは4つ割りにし、Aに1時間程度漬ける。
①テンペの水気をふきとり、半分の厚さに切り、間にクリームチーズを厚めに塗る。
②衣を順につけ、油でカラッと揚げ、野菜やレモンとともに器に盛りつける。

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テンペに塩をふるだけでは下味がつかないので、インドネシアでは、あらかじめ塩水に漬けておき、下味をつけるのだそうです。テンペの間に塗ったクリームチーズがきいています。香ばしく揚がった、“畑のカツレツ”でした。

◎テンペの包み揚げ※ついでにもう1品/牧野、長島作
細長く切ったテンペを、春巻きの皮(カットしたもの)で棒状に包んで揚げる。

◎テンペのディップ ※ついでにもう1品/鈴木、飯塚作
テンペとクリームチーズ(ヘルシーカツ用の残り)に、ナッツ類、タイム、塩、こしょうを加えてすり鉢に入れ、すりつぶしてディップにする。

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日本製テンペは、加熱せずにそのまま食べられるというので、ディップにしてみました。ヘルシーカツ用に使ったクリームチーズの残りに、ナッツや調味料を加えてすりつぶすだけ。パンにやクラッカーにのせて食べてもいいですね。

◎今月のご当地みそ汁 山形 とうもろこし汁/久保田作
材料(5~7人分)だだちゃ豆200g程度、水1ℓ、塩適量、みそ100g程度
作り方 下準備:枝豆はさやごと塩でもみ、水洗いしてザルに上げておく。
①鍋に分量の湯を沸かし、沸騰したら枝豆を入れ、中火でゆでる。ゆで上がったらみそを溶き入れ、弱火にし、沸騰させないようにして数分煮る。

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今月のご当地みそ汁は、先月に続き山形の“枝豆汁”。先月の“輪切りのとうもろこしをそのまま入れたみそ汁”にも驚きましたが、枝豆をさやごと入れるみそ汁も、みな初めて(もちろん汁を飲むときは、さやは食べませんが・・・)。さやからいいだしが出るので、かつおや昆布などのだしは不要。先月のとうもろこしといい、枝豆といい、野菜から出るうまみがみそ汁のおいしいだしになっているんですね。

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テーマ「発酵と発酵食の研究」の7回目は、「納豆」を取り上げました。“畑の肉”と呼ばれ、ただでさえ栄養豊富な大豆が、発酵食品の納豆になると、栄養価が驚くほどパワーアップするほか、納豆菌による発酵で、ナットウキナーゼをはじめとする有用成分が新たに生まれることも知りました。

そして今月の料理ラボは、ビーガンやベジタリアンからも注目され始めている、納豆の仲間の「テンペ」の味比較や調理&試食を行いました。国産大豆を使った日本製「テンペ」は、大豆の産地や納豆メーカーも熱い視線を送る、新たな発酵食品の1つ。いわゆる納豆臭さがないので、納豆好きの人はもちろん、苦手な人もテンペなら大丈夫。シンプルに大豆の味がして、そのまま食べてもおいしく、食ラボでも好評でした。ディップにしたり、変わり揚げにしたり、調理の幅もまだまだ広がりそうです。