発酵、発酵食の研究4

『発酵、発酵食をもっと知ろう!』

さまざまな角度から“発酵や発酵食品”そして“発酵食品を使った料理”を研究しています。4回目は、先月に続いて「みそ」を取り上げました。

みその種類は、大きく分けると、米みそ、麦みそ、豆みその3種類。この中から今回は「豆みそ」にスポットをあて、座学、試食とともに、料理を作って試食しました。また、「日本各地のご当地汁」シリーズの3回目は“愛知(三河地方)の煮みそ”。
その汁ができた背景や気候風土などを学び、作って試食しました。

_DSC8365_1
左から、名古屋八丁赤だし(イチビキ)、八丁味噌(まるや)、八丁味噌(カクキュー)

<豆みそとは・・・>
◎大豆だけを原料につくられる“豆みそ”
愛知、三重、岐阜などの中京地方において、大豆に豆麹と塩を加え、熟成させつくられているみそのこと。「豆みそ」は総称で、八丁みそ、三州みそ、三河みそ、名古屋みそなど、いろいろな名前で呼ばれています。
熟成期間が3年前後と非常に長く、大豆だけを原料とするため、独特の風味と濃厚なうまみがあります。
※ “赤だし”は、もともと中京地方の豆みそで仕立てたみそ汁のことでしたが、その後、豆みそに米みそや調味料を混合した「調合みそ」でつくるみそ汁を“赤だし”と呼ぶように。「調合みそ」の商品名が“赤だし”というものも登場しました。

◎場所はみそづくりに適していたが、気候は不利だった
三河国岡崎藩(今の愛知県岡崎市)にあった城は岡崎城。ここは徳川家康の生地でもあります。ここから西へ八丁(870m)離れた八帖村(今は八帖町)で2軒の店(カクキュー、まるや八丁みそ店)がみその製造を始めたのが“八丁みそ”の起こりです。
このあたりは矢作大豆と呼ばれる良質の大豆の産地だったことや、矢作川の良質な伏流水にも恵まれていたこと。さらには、水陸交通の要所だったため、大豆や塩を入手しやすく、みそづくりに適した場所だったといえます。
一方で、このあたりはいくつかの川が入り組んでいたため、湿気が強く、食品保存には不利でしたが、それを逆手にとり、みそづくりにおいては水分を減らして保存性を高め、天然醸造で二夏二冬(2年以上)長期熟成させた結果、八丁みそ特有の味や風味が生まれました。さらにこのみそは長期保存もきくため、三河武士の携行食や兵糧食にも重宝しました。

◎高温多湿に耐え、長期保存できる技法を生み出した
この地方の夏は高温多湿で知られていたため、他の地方のみそと同じ製法でつくると、みその酸敗(脂肪類が酸化してすっぱくなること)が起こりやすかったため、蒸した大豆を玉にして、全量を「豆麹」とし、
大豆に麹菌を安全に生育させる“味噌玉製麹”という技法でつくられました。さらに、保存性を高めるため、みそ樽の上にのせる重石の重量を上げるなどしてみその水分を減らし、夏場の高温多湿に耐え、長期保存できるみそをつくりあげました。
※豆みその桶の重石は、みそ6tに対し約3t(他地域は、みそ重量の約1/3程度)。

<豆みその製法>
make_fig01
「愛知の豆みそ公式サイト」より引用

<みその栄養>
◎すぐれた大豆の成分に加え、発酵でさらに栄養アップ
みその栄養は、米みそ、麦みそ、豆みそによっても多少異なりますが、共通する主原料の大豆は“畑の肉”といわれ、良質のたんぱく質やミネラルを含みます。とくに注目したい大豆の成分が、体内でエストロゲン(女性ホルモン)と同様の働きをする「イソフラボン」や、強い抗酸化作用があり、コレステロールや中性脂肪を減少させる「大豆サポニン」、コレステロール減少に役立ち、記憶力や集中力を高める「レシチン」で、豆みそはこれらを最も多く含むみそといえます。また、発酵によって、大豆由来のアミノ酸が増え、新たにビタミン類が多量に生成され、栄養的にさらにすぐれたものになっています。

◎決して多くないのが、みそ、みそ汁の塩分
みそに含まれる塩分量は5%~13%。みそ汁一杯の塩分量は1.1~1.3g。他の料理と比べても塩分は決して多くはありません。さらに汁の具に、カリウムを含む野菜や食物繊維の多い野菜や海藻類を用いれば、塩分の体内吸収を防いだり、体外へ排出してくれます。
※1日の塩分摂取量の目標値 男性8.0g未満、女性7.0g
※ 米みそ(辛口)、麦みそ(辛口)の塩分量11~13%、豆みそ10~12%、
img_health_cont02
※みそ健康づくり委員会「みそ汁の力を知る」より引用

<今月のご当地みそ汁>
◎煮みそ(愛知)
愛知県・三河地方に昔から伝わる伝統的な家庭料理で、豆みそを使う料理。鍋料理もあれば、野菜を豆みそで煮含めた煮物や、みそをだしと砂糖で甘めに煮た、文字通りの“煮みそ”もある。家ごとに入れる材料も違う。

<みそで料理を作る>
豆みそを使った料理を作り、みんなで試食しました。

◎みそカツ/牧野作
材料(10人分):豚ロース(トンカツ用)肉10枚、キャベツ、ベビーリーフ各適量、みそだれ(作りやすい分量:豆みそ200g、砂糖60g、みりん、酒各120cc、はちみつ大さじ2、だし汁1カップ)、卵3個、小麦粉、パン粉各適量、塩、こしょう各適量、揚げ油

作り方
下準備:豚肉は筋切りし、塩、こしょうをする。キャベツはせん切りにする。
①鍋にみそだれの材料を入れ、火にかける前に、だし汁でみそをゆるめながら混ぜ合わせる。弱火にかけ、木べらで混ぜながら、とろりとするまで練る。
②①の肉に小麦粉、溶き卵、パン粉の順につけ、油で色よく揚げる。器に盛り、キャベツとベビーリーフを添え、みそだれをかける。
※みそだれの分量 参考:愛知県栄養士会HP

_DSC8293_1_DSC8403_1_DSC8505_2_DSC8514_1
_DSC8556_2

名古屋など愛知県で食べられている名物料理の1つが、“みそだれ”のトンカツ。豆みそに砂糖やみりん、はちみつなどの甘みを加え、甘めのたれです。
「豆みそは非常に硬いので、先にだし汁や砂糖などとよく混ぜ合わせてから、火にかける方がよさそうです。その方が均一に混ざりやすいと思います」と牧野さん。
こうして仕上げた“みそだれ”は、とろりとして、トンカツソースより甘め。けれどもこの甘さが意外なほど肉に合い、キャベツなどの野菜にもよく合って、食ラボメンバーにも大好評でした。

◎変わりみそ田楽 ピンチョス風/飯塚作
一口サイズに切ったこんにゃくと、一口サイズの野菜(ペコロス、芽キャベツ、ミニトマト)に、田楽みそをつけて食べる、ちょっとだけおでんのような“みそ田楽”。
材料(10人分):こんにゃく2枚、芽キャベツ、ペコロス、ミニトマト各10個、A(だし汁5カップ、しょうゆ大さじ1、酒大さじ3、塩小さじ1/2)、田楽みそ(作りやすい分量:豆みそ200g、砂糖160g、酒11/2カップ、みりん大さじ2)

作り方
下準備:こんにゃくは塩でもみ、網目状に切り込みを入れ、一口大に切る。芽キャベツとペコロスはゆでておく。
①鍋にAとこんにゃくを入れて煮る。こんにゃくを取り出し、芽キャベツ、ペコロス、ミニトマトとともに串を刺し、鍋に戻して弱火でしばらく煮る。
②小鍋に田楽みその材料を入れ、よく混ぜ合わせた後に弱火にかけ、木じゃくしでとろりとするまで練る。①を取り出して器に盛り、②を添える。

_DSC8244_1_DSC8491_1_DSC8502_1_DSC8308_1
_DSC8559_1

みそ田楽なのですが、具をだし汁で煮るところはおでん風。だし汁で煮ることで、こんにゃくに味がしみておいしくなりました。「今日は、一口大の具を串に刺し、スペインのピンチョスのように、縦に盛り付けました」と飯塚さん。
一口大&串刺しは、食べやすいうえ、盛り付けもとってもモダン!このままパーティ一などにも出せそうですね。

◎今月のご当地みそ汁 愛知(三河地方)の「煮みそ」/久保田作
「煮みそ」は、豆みそメーカー「カクキュー」のサイトにある作り方を参考にして作りました。
※参考:カクキューHP

材料(10人分)
大根1/2本(500g)、にんじん大1本(350g)、里芋6個(350g)、こんにゃく1枚、九条ねぎ1束、厚揚げ5個、豆みそ250g、砂糖62g、だし汁(水2ℓ、昆布、かつお削り節各適量)、サラダ油大さじ2

作り方
下準備:大根とにんじんは1㎝厚さの輪切り&半月切り。里芋は輪切り。こんにゃくは一口大にちぎって熱湯を通す。厚揚げは斜め半分に切り、熱湯をかけ油抜きする。ねぎは5㎝幅に切る。分量の水と、昆布、かつおで、だしをとっておく。
①ボウルに豆みそを入れ、だし汁1カップ程度を加え、ゆるめておく。
②鍋にサラダ油を熱し、厚揚げとねぎ以外の野菜を入れて炒め、砂糖と残りのだし汁を加え、中火で煮る。
③②の具材がやわらかくなったら①と厚揚げを加え、しばらく煮て、最後にねぎを加える。

_DSC8253_1_DSC8270_1_DSC8284_1_DSC8352_1_DSC8540_1

“煮みそ”は、冬場は鍋料理として食べるほか、みそ味の煮物も、“煮みそ”と呼ぶようです。今日の“煮みそ”は汁ものにしました。こげ茶色をした汁の色に、最初はちょっと引いてしまいましたが、飲んでみればしょっぱくなく、ほどよい甘さとコクで、あとをひくおいしさ。「厚揚げがよく合いますよね。大きく切って入れたのも正解でした」と久保田さん。

_DSC8415_1_DSC8439_1_DSC8459_1_DSC8448_1

テーマ「発酵と発酵食の研究」の4回目は、「豆みそ」をとりあげました。豆だけを使ってつくる豆みそは、みその中でもとくに栄養豊富だということも再確認しました。

そして、今月のご当地汁は「煮みそ」。愛知(三河地方)などで昔から食べられてきた豆みそ仕立ての具だくさん汁です。一見しょっぱそうでしたが、飲んでみるとさっぱりとした甘さとコクがあり、また飲みたくなる、味わい深い汁でした。