『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』
「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。
塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。
そこで、今年は塩に続き、さまざまな調味料を研究することにし、砂糖、みりん、甘味料、料理酒、酢などの身近な調味料を改めて見直し、比較研究をしてきました。
そして、昨年11月からは「だし」をとりあげています。
8.だしの研究⑦
「だし」の研究の7回目。かつお節や昆布などの単体のだし、合わせだし…その他の味比較をしてきましたが、今回のテーマは「干しいたけ」です。
◉干しいたけの種類とは?
生のしいたけを乾燥させて作られる干しいたけは、干すことによって生のしいたけとはまた違ううまみが出てきます。そんな干しいたけには、3つの種類があります。
種類といっても、しいたけ自体の品種が変わるわけではなく、収穫したときの状態によって分類されています。
冬茹(どんこ)
カサの開きが七分以下で収穫したしいたけのこと。ふっくらとして厚みがあり、しいたけの形や食感を楽しむ煮物や鍋もの、天ぷらなどの料理に向いています。
どんこの中でも傘に白い亀裂が入り、肉厚のものを天白冬菇(てんぱくどんこ)と呼びます。どんこの中でも1%以下しかとれない貴重品で、干しいたけの最高級品とされています。
また、傘の表面に茶褐色の亀裂が入ったどんこは 茶花冬菇(ちゃばなどんこ)で、天白冬菇が雨露にあたったときにできます。
香信(こうしん)
カサが七分開きになってから採取したもので、どんこより厚みは少なく、大きく平たいのが特徴です。ちらし寿司や炒めものなど、細く切って使う料理に向いています。
香茹(こうこ)
どんことこうしんの中間で、どんこに近い厚みと、こうしんに近い大きさが特徴です。どんこに向く料理にも、こうしんに向く料理にも使うことができます。
◉3大栽培きのこの1つ「shiitake」
しいたけは今や、世界の3大栽培きのこの1つにも数えられており、「shiitake」または「shii-take」の名で世界に知られています。
栽培されている国も、日本以外では中国、フランス、アメリカ、オランダ、ブラジル、フィンランド…等で栽培され、販売されています。
◉「原木栽培」と「菌床栽培」の違いは?
枯れた木(原木)にしいたけ菌を植え付け、林の中で1年半~2年かけてゆっくり育てる、自然に近い方法で栽培するのが「原木栽培」です。
それに対し、おがくずにふすまや米ぬかなどと炭酸カルシウム、炭酸マグネシウムなどの添加剤を加えた培地(菌床培地)に菌を植え付け、栽培したものが「菌床栽培」です。
3~5カ月程度で収穫できますが、暖房などの温度管理が必要です。「菌床栽培」は短期間で収穫できるぶん、価格も安価ですが、味や香りはやはり「原木栽培」のほうが勝るといわれています。
◉干しいたけの方が、栄養もうまみ成分も驚くほど増加!
しいたけにはビタミンDやカリウム、食物繊維が豊富に含まれています。これらの栄養分は、干しいたけになるとビタミンDは約8倍に、カリウムは7.5倍に、食物繊維になると12倍にも増えることがわかっています。
このほかのも、コレステロール値や血圧を下げる効果のあるエリタデニン、がん治療に期待の成分レンチナンなども含まれています。
しいたけのうまみ成分はアミノ酸の一種であるグアニル酸で、昆布に含まれるグルタミン酸や、かつお節、煮干のイノシン酸と並ぶ成分です。
グアニル酸は細胞の核を形成するリボ核酸の一つで、新陳代謝を促進し、脳の活動にも欠かせない栄養素です。実はこのうまみ成分、生しいたけにはあまり多く含まれませんが、
干しいたけになると約10倍にも増加します。干して乾燥することによって細胞膜が破れ、酵素が自由に働けるようになるため、干しいたけをもどすときと、加熱する間にうまみが飛躍的に増えるからだといわれています。
<干しいたけ比較>
今回は、いくつかの干しいたけをもどし、その味を比べてみることにしました。
※③は菌床栽培、あとは原木栽培のものです。
①大分県産香信しいたけ 20g389円(10gあたり195円)
②九州産未選別干椎茸 30g537円(10gあたり179円)
③中国産乾しいたけ 40g321円(10gあたり80円)
④岩手県山田町産 乾しいたけ(どんこ)180g2,000円(10gあたり111円)
⑤岩手県山田町産 乾しいたけ(こうしん)150g1,600円(10gあたり107円)
①見た目は薄く、平べったい。短い時間でもどせそうなので、時間がないときは便利かもしれない。しいたけの香りが口に広がる。
②平べったく、薄い。未選別なので、形や大きさは不揃い。味や香りはあまりない。
③そこそこ厚みはある。形もそろっている。が、味は水っぽく、香りもえぐみもなく、さっぱりしている。
④肉厚で大きく、ずっしりしている。香りがすごい。甘みもある。少しピリッときて、のどにひっかかるくらいえぐみとうまみがある。
⑤④よりさらに肉厚で、こちらも大きく、ずっしりとしている。④と同様に、甘み、少しピリッとくる味、のどにひっかかるくらいえぐみとうまみがある。
あまりに肉厚で、丸1日(24時間)かけてもどしても、まだ完全にもどりきっていなかった。
干しいたけを使った料理を作り、みんなでいただきました。
◎干しいたけと、射込み高野豆腐の炊き合わせ/長島作
「切り目を入れた高野豆腐に鶏ひき肉あんを詰め、干しいたけとともに、だし汁(干しいたけのもどし汁、昆布)で炊き合わせました」。
うす味ながら、干しいたけのうまみが高野豆腐にしみ込んで、ほっとするおいしさ。
◎干しいたけと鶏肉、たけのこの中華風煮込み/久保田作
「一口大の鶏肉をごま油(先にしょうがを炒め、風味をつけておく)で炒めてからしょうゆ、砂糖を加え、もどした干しいたけ、ゆでたたけのこ、酒を加え15分程煮込むだけ」。
中華料理といえば、生より干しいたけ。干しいたけは、まだ日本で使われない時代から中国では使われていたというだけあって、そのうまみをいかした料理は鉄板ですね。
◎干しいたけとエリンギのオイスターソース煮/飯塚作
「もどした干しいたけと、エリンギ(縦に薄切りにしたもの)をサッと炒めてからしょうゆ、砂糖、オイスターソース、水で汁けがなくなるまで20分程煮ます」。
しいたけはオイスターソースでさらにうまみたっぷりに。エリンギはアワビ風の食感に仕上がると聞いていましたが、なるほど~。
◎干しいたけときゅうり、みょうがの酢漬け/長島作
蛇腹に切ったきゅうりとみょうがを塩で軽くしんなりさせ、ごま油でサッと炒めた干しいたけ(もどしてあったもの)とともに調味液(酢、砂糖、塩、しょうゆ)に軽く漬けたもの。
きゅうりを蛇腹切りにしたところや、ごま油で干しいたけをサッと炒めたところもさすが。料理センスが感じられる一品。シャキシャキ&さっぱり。夏ですね~。
◎干しいたけのステーキ
にんにく風味をつけたオリーブオイルでもどした干しいたけを焼き、バター&しょうゆで味つけしました。干しいたけが肉厚すぎたのか、じっくり焼いたのに、味がなかなかしみ込みにくく、少々うす味過ぎた感あり。来月、再度リベンジしようと思います。
◎干しいたけと豆腐のみそ汁
もどした干しいたけは、だしの役割をするだけでなく、みそ汁の具としても非常に優秀。しいたけの風味とうまみが際立っていました。
手前の列が山田町産の干しいたけ。後ろの列(一般スーパーで購入)のと比べると、大きさは一目瞭然!
“だしの研究”の7回目は「干しいたけ」。偶然にも仕事で岩手山田町に行ったメンバーの長島さんが、現地で採れた干しいたけを持ち帰ってくれました。するとこれが見たこともない大きさ&肉厚!あまりの立派さに、しばしみんなで見入ってしまいました。
山田町といえば、全国でも有数の干しいたけの産地。全国規模の品評会で14回も優勝している“しいたけ名人”を輩出している町です。そこで今回、長島さんは原木栽培の行われている山まで行って、実際の栽培の様子をしっかり見てきてくれました。栽培に適したポイントはいくつかあるそうですが、主なものは、山の斜度や日当たり具合(西日のあたらない場所)。そのほかにも、昼夜の温度差や山からの水、水はけも関係するそうです。勉強になりますね。