だしの研究4

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。
塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。
そこで、今年は塩に続き、さまざまな調味料を研究することにし、砂糖、みりん、甘味料、料理酒、酢などの身近な調味料を改めて見直し、比較研究をしてきました。
そして、昨年11月からは「だし」をとりあげています。

7.だしの研究④
「だし」の研究の5回目。かつお節や昆布などの単体のだし、合わせだし…その他の味比較をしてきましたが、今回のテーマは「のり」です。
一般的にみれば、「のり」はだしとは言えないかもしれませんが、代表的なだしであるかつお節や昆布、
干ししいたけのもつうまみ成分をすべて併せもつ食品が「のり」で、だしの代わりにもなることから、今回取り上げることにしました。

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◉“海の緑黄色野菜”といわれる「のり」
のりはビタミンAやB12、カルシウム、鉄、葉酸など26種類以上の成分をバランスよく含む自然食品。さまざまな栄養素を含むため、海の緑黄色野菜とも呼ばれています。
また、昆布に豊富に含まれるグルタミン酸、かつお節のイノシン酸、干ししいたけのグアニル酸という、だしの3大うまみ成分をすべて併せもつ唯一の食品が「のり」。さらには甘み成分のアラニンやグリシン、香味成分のタウリンなども含まれます。のり自体にうまみ成分がたっぷり含まれるため、だしの代わりにもなり、“だしいらず”といわれています。

◉のりの生産地、4割が「有明湾」
主な生産地は、大きく分けると「有明海」、「瀬戸内海」、「伊勢・三河湾」、「東京湾」、「仙台湾」など。
中でも「有明海」は全国の生産量の4割を占め、都道府県別生産量では佐賀県が1位です。

◉江戸時代、のりといえば「浅草海苔」
江戸時代、のりは東京湾の名産品でした。養殖の発祥は墨田川河口で、品川や大森では、味も香りもいいといわれたアサクサノリ(品種)を用いて盛んに養殖がおこなわれ、いわゆる“江戸前”の「浅草海苔」は有名でした。ところが東京湾の埋め立てにより、のり生産は激減。昭和38年頃にはほぼ消滅。アサクサノリ自体も病気に弱く、養殖が難しかったことから、1997年からは絶滅危惧種に指定されています。これに変わり、現在、のりの養殖の多くはスサビノリ(品種)によって行われています。

◉“江戸前”の名を受け継いだのは・・・?
同じ東京湾であっても、以前は“上総のり”と呼ばれていたのが木更津、富津、行徳、船橋など千葉ののりですが、品川や大森産の“江戸前”のりの消滅後は、これらののりが”江戸前“の名前を受け継いでいます。

◉のりの養殖の母は、イギリス人の女性研究者
のりの養殖が始まったのは江戸時代でしたが、長い間、のりの生態についてはよくわかっておらず、養殖ものであっても、生産量は年によってまちまちで不安定でした。そのため、“のりの養殖は運まかせ”といわれ、のりは別名「運草(うんぐさ)」と呼ばれていたとか。

これを変えたのが、イギリス人の海藻学者キャサリン・メアリー・ドリュー(1901~1957)です。のりは雌雄同株で、春から秋までは糸状体(しじょうたい)という姿で、貝殻に付着して過ごすことを発見したのです。そこで、この糸状体を使って種付けすることになり、養殖の安定生産へとつながりました。

◉のりにも“旬”がある。収穫が始まるのは11月
9月~10月に、糸状体から放出された殻胞子をのり網に付着させ(採苗=さいびょう)、種のついたのり網を漁場に張り込み(育苗)、のりの芽はぐんぐん育ちます。2週間で約20㎝も伸び、11月頃から各地で摘み取りが始まります。この秋から冬に摘み取られたばかりの若いのりが「新のり」で、中でも最初の20㎝を収穫したものが「一番摘みのり」や「初摘み」と呼ばれます。新のりの収穫は、3月中旬(地域によっては4月中旬)まで続きます。

◉おいしいのりの見分け方
一般には色が濃く(といっても黒いだけではない)、つやのあるものがよいとされていますが、それに加えて、表面の小さな“のり肌”が立っていて、見た目がガサガサしているものほどよいとされます。また、香りもおいしいのりの重要な要素です。

◉のりには表と裏がある
かつて、のりをすだれにのせて天日干ししていた時代は、すだれ越しに太陽のあたったザラザラした面が表といわれた説もありましたが、現在は逆で、ツルツルしている方が表、ザラザラしているほうが裏というのが一般的です。

<のりの味比較>
◎今回は、新のりを中心に、7種ののりを味比べしました(先入観をもたないよう、ブラインドで行いました)。

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※最後の( )内は、全型1枚に換算した金額
①やきのり(有明産) 全型10枚540円(54円)

②焼寿司海苔(有明産) 三切30枚1,080円(108円)

③初摘(有明産・初摘み) 三切20枚430円(64.5円)

④有明(有明産・初摘み) 全型10枚720円(72円)

⑤江戸前(千葉東京湾産・初摘み) 全型8枚700円(87.5円)

⑥こんとび(有明産・初摘み) 全型10枚700円(70円)

⑦初代彦兵衛こんとび(有明産・初摘み) 全型5枚1,530円(306円) 

※①は「田庄」製。②は「三國屋」製。③は「佐藤海苔」製。④~⑦は「丸山海苔店」製。

◉食ラボメンバーによる味の感想は・・・
①色は青みが強い。薄め。味わい深い。磯の香りを感じる。少々ほろ苦さも感じる。
②一番黒く、しっかり厚みもある。磯の香りが強い。食べると最後に甘みが残る。
③やわらかくて薄い。色は青みが強め。口中で香りを感じる。
④青みが強く、薄め。歯切れは悪いが甘い。ほろ苦さも少々ある。
⑤薄く、所々穴があいている。色は青みが強い。多少苦みも感じるが、口中に香りが広がる。
⑥多少厚みはあるがパリッパリ。青のりの風味を感じる。甘みを感じ、香りも強い。
⑦少々厚めながら、パリッと噛み切れる。パリッパリ以上にシャキシャキッとした歯切れのよさがある。香ばしく、甘く、味わい深い。

“だしの研究”の4回目。今回は、さまざまな「のり」を比較してみました。せっかくなので、“新のり”の季節に・・・と思い、実現しました。

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のりは、ご飯やお寿司に、おにぎりやお弁当に使うなど、日頃から私たちの身近にありますが、
こうやって一度に7種類もののりを同時に比較するのはみんな初めてです。
4切(全型の1/4サイズ)に切った7種類ののりを大皿に並べ、みんないっせいにパリパリ、そしてまたパリパリ・・・(笑)。
一口にのりといっても、よく見れば色も厚みもそれぞれ違い、そして、味も風味もそれぞれ違って個性が感じられ、新鮮でおもしろい比較になりました。
それにしても、おなじみののりが、昆布に含まれるグルタミン酸、かつお節のイノシン酸、干ししいたけのグアニル酸という、だしの3大うまみ成分をすべて併せもつ優等生だったのにはあらためて驚きました。
最後は“だしいらずのだし”としてののりに注目し、シンプルな料理でしめくくりました。

◉のりを使った料理を、みんなでいただきました。

のりと青菜のおひたし

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のりのお吸い物(ちぎったのり、梅干し、しょうゆ、湯)

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変わりおにぎり
・豚肉と菜花(豚肉の西京漬けを焼き、菜花とともに混ぜ込んだもの) 長島さん作

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・奈良漬けとクリームチーズ 飯塚さん作

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