「スパイス,ハーブの研究」2こしょう

今年のテーマは「スパイス、ハーブ」。2 月は“こしょう”をとりあげることになりました。

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<今月の座学 「こしょう」>
◎中世ヨーロッパでは“金”に匹敵する貴重品だった(1月食ラボ資料より)
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コショウ科コショウ属の多年生のつる性植物。つるの長さは 5~9mになり、ここにぶどうの房のような穂が下がり、1つの穂に50~60個の実がなります。原産地はインドのマラバル地方(ケララ州)といわれていますが、現在はインド以外にインドネシア、マレーシア、カンボジア、ベトナム、スリランカ、ブラジルなどが主な生産地で、挿し木栽培が行われています。中国では“西方から伝来した香辛料”という意味で「胡椒」と呼ばれていました(中国から見て、西方や北方の異民族を指す字が「胡」)。日本には中国から伝わったので、そのまま「胡椒」という名前になりました。聖武天皇の77日忌(756年)に、東大寺に献納された遺品の1つ『東大寺献物帳』の中に胡椒の記載があったことから、それ以前に中国から伝わったことがわかります。当時は生薬として用いられ、調味料として用いられるようになったのは平安時代からです。

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※資料参考、画像引用:エスビー食品HP(www.sbfoods.co.jp)、
Wikipedia、全日本スパイス協会HP (www.ansa-spice.com

◎もともと生薬として用いられていた
中国から日本に伝わった当初、こしょうは生薬として用いられていました。独特の辛味や風味の成分は、アルカロイド(天然由来の有機化合物)の1つである「ピペリン」。からだを温め、血流を促進し、唾液や胃液を刺激して消化を助けたり、健胃、整腸作用があります。また、バクテリアを殺す働きもし、強い抗菌作用、殺菌作用があることも知られています。

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◎収穫時期や加工法の違いで、色も風味も変わる
こしょうは、収穫時期(熟度)や加工法の違いで、黒、白、青、赤の4種類に分けられます。
●黒こしょう(ブラックペッパー)
未熟果(緑色の実)を収穫し、長時間かけて乾燥させたもの。乾燥させる際、皮にシワがよるが、そのまま使用します。
●白こしょう(ホワイトペッパー)
完熟果(赤色の実)を収穫し、乾燥させたあと水に漬け(または流水で)、やわらかくした外皮をはがしたもの(中は白色の実)。
●青こしょう 生こしょう
未熟果(緑色の実)を収穫し、緑の実をそのまま塩漬けや塩水漬けにしたもの。オイル漬けやフリーズドライにしたものもあります。グリーンペッパーとも呼ばれ、タイやカンボジアではこの実を食材として料理にも使うこともあります。※グリーンペッパーというとピーマンや青唐辛子を指すことも多いため、近年は青こしょうを「生こしょう」と呼ぶことも多い。
●赤こしょう
完熟果(赤色の実)を収穫し、外皮をはがさずそのまま乾燥させたもの。黒こしょう同様、外皮がシワになります。ピンクペッパー、レッドペッパー、あるいは完熟黒こしょうとも呼ばれ、黒こしょうより辛味はマイルドで、風味も繊細です。※レッドペッパーは唐辛子を指すこともある。

◎こしょうに似た別種や近縁種とは?
●ピンクペッパー、ポアブル・ロゼ(仏語)
ウルシ科サンショウモドキ属のコショウボクの実を乾燥させたもの。こしょうとは別種なので、赤こしょうとは、味も香りも異なります。赤またはピンク色の外皮に包まれていますが(シワはない)辛みはなく、さわやかな甘みのあるのが特徴。色がきれいなので、料理の彩りに使われることも多い。
※色や形が似ている西洋ナナカマド(バラ科)やサンショウモドキの実がピンクペッパーと呼ばれることもあります。

●ピパーチ、島こしょう
スクリーンショット 2020-02-25 12.37.47コショウ科コショウ属、つる性植物のヒハツモドキ。こしょうの近縁種。長さ4mほどのつるに3㎝ほどの円筒形の実がなる。赤く熟す前の未熟果(緑色)を収穫し、乾燥させて作ります。原産地はインドネシア、マレーシア、タイなど東南アジアで、日本では沖縄・石垣島や与那国島などの八重山諸島に自生していたり、栽培されてきました。ヒハツがなまってピパーチと呼ばれるようになったといわれています。
別名は「島こしょう」。昔から沖縄料理には欠かせない香辛料で、通常のこしょうのように辛味があり、主成分もピペリンですが、シナモンと八角を混ぜたような独特な風味と、さわやかな甘さがあります。発汗作用や、健胃・整腸作用などがあることから、沖縄では昔から生薬としても用いられてきました。また、調味料以外にも、きざんだ若葉を炊き込みご飯に混ぜ込んだり、新芽を天ぷらにするなど、食材としても使用してきました。

●馬告(マーガオ)、山胡椒
スクリーンショット 2020-02-25 12.37.57台湾のタイヤル族(少数民族)が昔から使ってきた香辛料で、クスノキ科ハマビワ属の植物の実を乾燥させたもの。正式名は「山胡椒」ですが、こしょうとは別種で、日本の山胡椒(ヤマコウバシ=クスノキ科の木)とも異なります。2000m級の山に自生していて手に入りにくく、「幻の香辛料」とも呼ばれ、非常に高価。今、日本でもさかんに注目されているレアスパイスです。見た目は黒こしょうそっくりですが、パリパリとした食感に、山椒のようなピリっとした辛味と、レモングラスのような香りがするスパイスです。

◎こしょうの賞味期限はどのくらい?
製造方法や保管方法によっても変わってきますが、加工後約2〜3年といわれています。ただし、粒こしょうより、ひいたこしょうは香りが飛びやすくなり、乾燥させていない「生こしょう」も、乾燥させてあるものより、賞味期限は短くなります。

<今月のラボ こしょうの比較>

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生こしょう=青こしょう
●カリマンタン産 生こしょう(塩水漬け) 35g(瓶入り)1,200円(仙人スパイス)
●スリランカ産 生こしょう(塩漬け) 40g(瓶入り)1,200円(アパッペマヤジフ)
●カンボジア産 生こしょう(塩漬け) 25g(袋入り)1,058円(アカデメイト)※谷私物
黒こしょう(乾燥)
●マレーシア・サラワク産 マリチャ黒こしょう「ネッロ・ディ・サラワク」 
オーガニック 90g(袋入り)1,063円(ノンナ&シディ)
●インド産 RAJ黒こしょう 50g(プラ容器入り)382円(アンビカ)
赤こしょう(乾燥)
●タイ産 こしょう オーガニック60g(瓶入り)※長島さんタイ土産
●カンボジア・コッコン産 完熟こしょう※古島さん土産
白こしょう(乾燥)
●インド産 RAJ白こしょう 100g(袋入り)499円(アンビカ)
●スリランカ・マタレー産 白こしょうオーガニック 35g(瓶入り)702円(VOX)          
参考品(こしょうの仲間)
●馬告※日本でのネット購入は、30g(袋入り)1,000円くらい ※牧野さん台湾土産
●ピパーチ(島こしょう) みどり物産(石垣市)20g(瓶入り)500円くらい ※谷私物

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それぞれのこしょうを1粒ずつそのまま食べて、味を試食しました。試食の際は、用意した豆腐をときどき食べ、口の中の辛さをやわらげました。
<生こしょう(青こしょう)の感想>
・グリーンの実が塩水漬けになっているカリマンタン産の生こしょうは、小さなぶどうの房のよう。初めて見る姿に、みんな感激。食べると、プチっとやわらかく、塩けも辛みもきつすぎないので、このままいくらでも食べられそう、という声も多かったです。調味料としてだけでなく、食材として、料理に使えそうな気がします。
・塩漬けになっているスリランカ産とカンボジア産は、色は黒っぽく、塩けは少々強く、辛みもしっかりあるが、食感はやわらかい。
<黒こしょうの感想>
・マリチャは、辛味も風味も素晴らしい。これぞ黒こしょう!直球ど真ん中・・・という印象。ピリッときかせて、味をひきしめたい料理に使いたい。
・インド産の黒こしょうは、香りがほとんど感じられなかった。
<赤こしょうの感想>
・タイ産、カンボジア産ともに、黒こしょうに比べると、多少赤みを帯びている。やはり赤く完熟させてから摘み取ったのだろう。辛みも風味もまろやか。
<白こしょうの感想>
・黒こしょうに比べると、辛味も風味もずっとやわらかく、おとなしい。和食をはじめ、繊細な料理に合いそう。
<馬告、ピパーチの感想>
・馬告は、色も形も黒こしょうそっくりだが、風味は全く違う。黒こしょうというより山椒系のピリっと感があり、さわやかな柑橘系の香りも広がる。
・ピパーチは、ピリッとした辛味はあるものの、風味は黒こしょうとは全く違う。八角とシナモンのような・・・と言われる通り、八角風の苦みと、シナモンの甘さをあわせもつ、独特な風味。通常の和食にはむずかしそうだが、ソーキソバなどの沖縄料理にはやはり合いそうな気がする。

<本日の料理ラボ>
◎黒こしょうがピリッときいた「スパゲッティ カルボナーラ」/秋元作
<材料(6人分)>
スパゲッティ 300g、ベーコン(塊) 80g、ソース(全卵2個、卵黄1個分、生クリーム200cc、パルミッジャーノ・レッジャーノ100g)、白ワイン 30cc、オリーブオイル少々、塩、黒こしょう各適量
<作り方>
下準備:ベーコンは5〜6mm幅の拍子木切りにし、チーズはすりおろす。ボウルに卵を溶き、生クリーム、チーズを加え、混ぜ合わせておく。
①フライパンにオリーブオイルを少々入れ、弱火でベーコンを炒め、余分な脂が出たらペーパーで拭き取る。鍋にたっぷりの湯をわかし、塩を加え、パスタをゆではじめる。
②①のフライパンに白ワインを加え、ゆで上がったパスタの湯をきって(ゆで汁は適量残しておく)加え、ボウルの中身も流し入れたら、すぐに火を止める。全体をざっと混ぜ合わせ、パスタにソースをからませ(汁気が足りなければゆで汁を適量加える)、塩で味を調える。
③②を急いで器に盛りつけ、引き立て(粗びき)の黒こしょうをふりかける。

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「これは昔フィレンツェに住んでいたころに習った『Quatro stagione』 のピエロ(オーナーシェフ)のレシピです。もちろんほかにも、いろいろな作り方があります。たとえば、卵黄だけを使うレシピもありますが、それだと少々くどくなるので、私は全卵と卵黄を組み合わせたこのレシピがちょうどいい配合だと思っています。また、イタリアではパンチェッタ(塩漬け豚肉)を使いますが、日本では手に入りにくいので、ベーコン(塊)で充分。ベーコンを炒めたフライパンは温まっているので、ここに湯きりしたパスタと、あらかじめ合わせておいたソースを加えたら、すぐに火を止め、全体をザザっと混ぜ合わせます。ポイントはそれくらいで、簡単すぎるくらい簡単。タイミングよく進めれば、あっという間においしくできあがりますよ。あとは、一刻も早く食べること!」と秋元さん。 

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そして、 “カルボナーラ=炭焼き人風”は、何といっても黒こしょうが決め手。アツアツのパスタを器に盛ってから、最後にガリガリ~ッとひいた粗びき黒こしょうを、炭の粒のごとくふりかけました。今回、黒こしょうは、香り高い“マリチャ”を選びましたが、まろやかなクリーム味のパスタに、こしょうの辛さと風味がピリピリッと加わり、相性バツグンでした。

◎グリーンサラダ 生こしょう入りドレッシング
野菜は、前回と同じ柴海農園(千葉県)のサラダ用有機野菜のセットを利用。さまざまな野菜やハーブが少しずつ組み合わせてあります。鮮度よく、どれも香り高い野菜ばかりで、食ラボのみんなのお気に入り。今月はこれを、生こしょう(カリマンタン産)を加えたオリーブオイルオイルドレッシングであえました。

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カリマンタン産の生こしょうは、味も香りもマイルドなため、今回のラボでも「調味料というより、そのままいくらでも食べられそう」という感想が。そこで、丸ごと10粒ほどドレッシングの中に入れてみると、生こしょうが、調味料というより野菜やハーブの一部のように。ほどよい辛味とプチプチの食感もアクセントになりました。

◎生粒こしょう入り 豆チョコ
クーベルチュールチョコの中に、スリランカ産の生こしょうが入った豆チョコ。  
※自由が丘の「アパッペマヤジフ」の製品。瓶入り20g(13~14粒入り)887円

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豆粒大のチョコの中に、塩漬けの生こしょうが丸ごと1粒。カリッと噛むと、甘さの中にまず塩気が、次にこしょうの辛味が広がって、刺激的でおいしい。小さな小さな豆チョコですが、しっかり印象に残りました。ただ、1粒換算にすると60円以上は高い!

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今月は、さまざまなこしょうを集めて、こしょうそのものの味を比較したり、こしょうを使った料理を作りました。もとは同じ実でも、収穫時期や加工のし方で、味も辛さも風味も違ってくることを、座学と試食で実感。さらに今注目の「生こしょう」や、台湾の希少種「馬告」なども試食。さまざまなこしょうを比較できて、非常におもしろかったです。