「残したい!伝えたい!日本の味!我が家の味!」⑩

『残したい、伝えたい、日本の味!我が家の味!』

食ラボで研究中の家庭料理シリーズ。
10月は、“味噌汁と味噌料理”をとりあげました。

今回、食ラボ研究員に披露してもらったのは、
①思い出の味やふるさとの味
②我が家の味や人気の味

今回もさまざまな味噌汁や味噌を使った料理が集まりました。

集合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まずは“思い出の味、ふるさとの味”から。
岩崎さんのふるさと、新潟・上越地方の冬の名物汁といえば、何といっても「スキー汁」が有名だそうです。明治44年、オーストリアの将校でアルペンスキーの名手だったレルヒ少佐が日本で初めてスキーを伝えたのが新潟・上越地方で、その後多くのスキー客がこの地を訪れるようになったため、スキー場や旅館で出される汁がスキー汁と呼ばれるようになったとか。豚肉、豆腐、大根、にんじん、長ねぎ、じゃが芋または里芋、突きこんにゃくと、具材も味つけも豚汁とほぼ同じですが、具材の切り方が独特で、スキー板に見立てる大根とにんじんは短冊切り。こんにゃくはシュプールに見立てて突きこんにゃくを用い、豆腐はもちろん雪の象徴だそうです。なんとも楽しいふるさとの味です。

スキー汁

 

 

 

 

 
スキー汁
 
さらに「野沢菜漬けの粕入り味噌汁」もおなじみです。野沢菜の産地は長野ですが、新潟でも“かぶ菜”と呼んで、初冬には塩漬けを作っているそうです。茎の部分は漬物として食べますが、葉の部分は刻んで味噌汁の具にすることも多いとか。見かけは一見地味ですが、漬物と粕が入ることでうまみが倍増した、味わい深い味噌汁です。

野沢菜漬けの粕入り味噌汁

 

 

 

 

 
野沢菜漬けの粕入り味噌汁
 
季節が違うため、残念ながら今回は作れませんでしたが、新潟のもう1つの名物汁が「夕顔と鯨の味噌汁」。こちらは夏場のものだそうです。岩崎さん、飯塚さんのご実家には、夏になると必ずあるのが夕顔。関東で夕顔といえば干ぴょうになる野菜というイメージですが、新潟では普通に生野菜として食べているそうです。その夕顔とともに具に入れるのが、なんと鯨肉。脂の多い部位を塩漬けにした塩鯨。これを塩出しして汁に加えるのだとか。鯨を加えてコクを出す、あるいは夏バテ防止のためでしょうか。「青っぽくさっぱりした夕顔の味と鯨の脂身がよく合うんです。東京の野菜売り場で夕顔を見かけることがほとんどないので、余計懐かしく思い出します」とは飯塚さん。初めて聞くふるさと汁の話に、他のメンバーからは「ぜひ、食べてみたい」という声が・・・。そこで来年の夏には、ふるさとの食材を使ってこの汁を披露してくれることになりました。地方には、まだまだ知られていない珍しい料理やおいしい食材が残っているんですね。

所変わって、広島、岡山出身の西日本組、久保田さんと池田さん。まず、味噌汁のだしは瀬戸内海の煮干しと決まっていたそうですが、味噌も、昔はこの地方ならではの白い味噌。といっても京都の白味噌とは違い、麦から作る粒味噌だそうですが、昔ながらの麦だけの白味噌は、近年は地元でも手に入りにくくなっているそうです。白味噌でも米味噌だったり、合わせ味噌を使う家も増えてきているようです。
具はさまざまだったそうですが、「たとえば菜っ葉の味噌汁だとすると、そこによく1人に1個ずつ、落とし卵のように卵が入っていることも多かったです」というのは池田さん。「ほかにあれこれおかずがなくても、朝の味噌汁に卵を落とせば栄養もとれるから安心。親はそう思ったのではないでしょうか」。

菜っ葉と落とし卵の味噌汁

 

 

 

 

 
菜っ葉と落とし卵の味噌汁
 
一方、池田さんのご主人のふるさとは福島県。結婚後はそちらの味噌汁もおなじみになりました。実家の味噌の味とはまったく違ったものの、こだわって三春の味噌屋さんから購入していたという味噌はおいしいなぁと思ったそうです。また、凍み豆腐と長ねぎ、あるいは芋がらと長ねぎというように乾物の入った味噌汁があり、初めてで驚いたそうです。

芋がらと長ねぎの味噌汁

 

 

 

 

 
芋がらと長ねぎの味噌汁
 
大岩さんのお母さまは、東京・京橋生まれの江戸っ子。だからでしょうか。具がごちゃごちゃ入った味噌汁は好まず、少なめ。組み合わせも、豆腐とわかめ、油揚げに小松菜、あさりまたはしじみ・・・というように、ほぼ決まっていたそうです。味噌は信州味噌。だしはかつお節と煮干し。煮干しは前の晩から鍋にはった水につけておき、毎朝、かつお節を削って作っていたそうです。「母の削るかつお節の音が、朝のイメージでした」
同じく東京・麻布?生まれの鈴木さんのお母さま。こちらも、お母さまの作る味噌汁の具はだいたい決まっていたそうです。「母が一番好きな組み合わせは、豆腐となめたけ(小さめのもの)。これが定番で、あとは季節によって、夏はみょうが、秋はなすやきのこ、せいぜいそれに油揚げを加える・・・くらいでした」。そんなお母さまの味噌汁を思い出し、今日作ってくれたのが「豆腐となめたけ」、「なす、しめじ、油揚げ」の味噌汁。だしは昆布と焼き干しで、焼き干しは一晩水出ししておき、朝、昆布とともに10~15分煮て、沸騰直前に昆布だけ取り出します。味噌は香ばしくて好きという麦味噌(赤)を使っています。

豆腐となめたけの味噌汁

なす、しめじ、油揚げの味噌汁

 

 

 

 
 
豆腐となめたけの味噌汁             なす,しめじ,油揚げの味噌汁
 
秋元さんの場合、ご実家は昭和34年築当時から洋間しかなかったというモダーン住宅。昔から“朝はパン食”だったため、味噌汁をほとんど飲まずに育ったのだそうです。なんてハイカラな暮らしだったのでしょう。夜もだいたいお澄ましかスープ。お味噌の出番は自然と少なかったそうですが、お母さまのご実家が京都だったため、京都の白味噌を使ったスープはときどき登場していたとか。それが今日披露してくれた「白味噌入りのポタージュ」。昔を懐かしんで、秋元さんご自身もたま~に作るそうです。さいの目切りにしたさまざまな野菜をベーコンとともに煮て、牛乳と白味噌でなめらかなポタージュにしたもの。野菜はにんじん、かぼちゃ、ブロッコリー、しめじ、大根、れんこんと、和野菜も入っているところがおもしろく、白味噌と牛乳も相性抜群!当時のハイカラな暮らしが思い浮かぶ味噌味のスープですね。

白味噌入りポタージュ

 

 

 

 

 
白味噌入りポタージュ
 
味噌を使った料理の一つ、“味噌漬け”。昔から肉や魚の味噌漬けが知られますが、お正月に、白味噌を使って秋元さんのお母さまがよく作っていたものに「鰆や鮭の味噌漬け」、「卵の黄身の味噌漬け」があったそうです。ガーゼをかぶせた味噌床に、黄身や魚の切り身を漬けて一晩以上おくだけ。黄身はねっとりと固まり、切り身には味噌のうまみがしっかりしみ込みます。日本酒にも実によく合うそうです。

鰆の味噌漬け

卵の黄身の味噌漬け

 

 

 
鰆の味噌漬け                  卵の黄身の味噌漬け
 
お正月といえば、今回池田さんの作ってくれた「里芋の味噌煮」も、ご実家のお母さまがお正月に作っている料理の一つ。里芋をいったんゆでこぼしてからアクをとり、かつおだし、砂糖、みりん、白味噌(広島)でやわらかくなるまで煮て、最後にゆずをぎゅっとしぼるのだそうです。お母さまの味ですが、今では池田さん自身がしっかり受け継いで作っています。

牛すね肉と里芋の味噌煮

 

 

 

 

 

里芋の味噌煮
 
味噌を使ったシンプルなあえものを披露してくれたのは岩崎さんと池田さん。岩崎さんのご実家では、ごまあえというと“ごま味噌あえ”が多かったからだそうです。今回もゆでたほうれんそうを、黒の練りごまとすりごま、砂糖、味噌(越後味噌)あえた「ほうれんそうのごま味噌あえ」を作ってくれました。

ほうれんそうのごま味噌あえ

 

 

 

 

 
ほうれんそうのごま味噌あえ
 
池田さんの「チシャ(サニーレタスで代用)の酢味噌あえ」は、チシャをいり白ごまと酢、味噌であえたもの。砂糖を入れないあえ衣で作るのでさっぱりした味に。こちらはご実家のおばあさまの味でもあり、お父さまが大好きなあえものなのだそうです。

チシャ(サニーレタスで代用)の酢味噌あえ

 

 

 

 

 
チシャ(サニーレタスで代用)の酢味噌あえ
 
続いて“我が家の味&人気の味噌料理”
飯塚家の場合、味噌料理はご家族にも人気で、普段からいろいろ作るそうですが、今回はその中から「牛すね肉と里芋の味噌煮」、「鶏ひき肉の松風焼き」、「焼き干しだしの豚汁」を作ってもらいました。
「牛すね肉は家族みんな好きなので、一度にたくさんゆでて冷凍&常備しておき、いろいろな料理に使っています。今回は里芋と合わせましたが、ほかの野菜と合わせたり、豆腐と合わせたりもします。あと、すね肉は揚げて牛カツにし、味噌味のソースで食べてもおいしいですよ」と飯塚さん。すね肉は、しょうがとともに大きめの鍋でアクを取りつつ1時間くらいゆでます。そのゆで汁の一部に西京味噌と信州味噌、しょうゆ、酒を加え、そこに肉を一晩つけておきます。翌日肉を取り出し、一口大に切ります。里芋は蒸し器で蒸すか、レンジ加熱してやわらかくし、肉とともにつけ汁の入った鍋に入れて温め、味を含ませればできあがり。「今日は里芋に粉山椒をかけましたが、切りゆずをかけてもおいしいです」

牛すね肉と里芋の味噌煮

 

 

 

 

 
牛すね肉と里芋の味噌煮
 
「鶏肉の松風焼き」は鶏肉好きの息子さんの大好物。運動会のお弁当などに作って持たせるのだとか。鶏ひき肉に西京味噌、うす口しょうゆ、酒、砂糖、卵を加えてよく混ぜたら流し缶に入れ、けしの実をふってオーブンへ。180℃で約30分焼けばできあがり。食べるときに山椒をふります。

鶏肉の松風焼き

 

 

 

 

 
鶏肉の松風焼き
 
「焼き干しだしの豚汁」は、野菜がいろいろ入るので、野菜が不足気味のときや、栄養をとらせたいときによく作るといいます。具は、豚肉、にんじん、大根、ごぼう、白菜、玉ねぎ、こんにゃく。味噌は信州味噌や秋田味噌を。「うちの場合、昆布と焼き干しでだしをとるのと、夫の好みもあって、具はすべて細かく切るようにしています」

焼き干しだしの豚汁

 

 

 

 

 
焼き干しだしの豚汁
 
一方、冬場、泥付きの長ねぎがたくさん手に入ったときによく作るという味噌汁と常備菜を紹介してくれたのは久保田さん。風邪防止もかねて作るというのは「長ねぎゴロゴロ味噌汁」。煮干しとかつおぶしでだしをとり、長ねぎの白い部分は1.5~2cm長さのぶつ切りに、油揚げは色紙切りにします。先に、だし汁にねぎだけ入れ、やわらかくなるまで煮ます。ここに油揚げを加え、みそを溶き入れます。今は秋田や富山をはじめ、さまざまな地方の味噌を合わせ味噌にして使うことが多いそうです。

長ねぎゴロゴロ味噌汁

 

 

 

 

 
長ねぎゴロゴロ味噌汁
 
そして常備菜は「ねぎじゃこ味噌」。ねぎの青い部分をみじん切りにしてフライパンに入れ、サラダ油をひたひたに注いだら、焦がさないよう弱火でひたすらじくじくと炒め煮にします。ねぎの色が変わり、やわらかくなったら中火にし、じゃこと赤唐辛子を加えて炒め、味噌、酒、砂糖を加えて調味し、最後に空炒りしておいた松の実を加えればできあがり。油でじっくり炒めることで、ねぎが香ばしく甘くなり、お酒のつまみにもご飯の友にもぴったり。多めに作っておけば冷蔵庫で保存も可能。先ほどの味噌汁では使わなかった長ねぎの青い部分を使うため、長ねぎを丸ごと使いきることができる、賢くてエコな“しまつな料理”。なるほど、こういったこともぜひ見習いたいですね。

ねぎじゃこ味噌

 

 

 

 

 
ねぎじゃこ味噌