「スパイス,ハーブの研究」1スパイス・ハーブの歴史

今年のテーマは、以前から取り組みたかった「スパイス、ハーブ」。普段からよく使う身近なものから、知ってはいても使う機会がないもの、なかなか使いこなせないもの。それこそ、数えきれないほどあるスパイス、ハーブですが、その中からいくつかにしぼって、じっくり勉強していこうと思います。初回はまず全体の概要から。知っているようで案外知らない「スパイスとハーブの違い」と、「スパイス、ハーブの歴史」をみんなで学びました。

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<今月の座学>
◎スパイスとハーブはどう違うのか
植物学的にいえば、スパイスもハーブも同じです。芳香性植物であり、有用植物(食用、薬用など、人の生活に役立つ植物)という分類に入ります。

ただ、ヨーロッパでは昔から次のように区別されてきました。こしょう、クローブ、ナツメグ、シナモン、唐辛子・・・のように、ヨーロッパ以外が原産地で、もともとヨーロッパには自生していなかったものを“Species=種、商品”という意味のラテン語から「Spice(スパイス)」と呼んでいました。そして、これらスパイスは、原産地の東南アジア地域や中南米からはるばる陸路や海路でヨーロッパに運ばれるため、通常は乾燥した状態(ドライ)で持ち込まれました。

一方、古くからヨーロッパの山野にも自生していたのが、オレガノ、バジル、ローズマリー、タイム、セージ、ローレル、パセリ・・・などで、これらを“Herba=草木”という意味のラテン語”から「Herb(ハーブ)」と呼ぶようになりました。ハーブは料理やお茶など、食用に用いるだけでなく、ガーデニングやアロマテラピーの世界まで拡がっているのも特徴です。

<スパイス、ハーブの歴史>
◎神事や祭事で、”浄化“の役割を担っていた
古代エジプト(紀元前3000年~)では、王を始めとする高貴な人々の遺体をミイラにしましたが、その理由は、死後、魂はその肉体に再び還り、復活するという考えからでした。そのため、強い防腐作用をもつシナモンその他を体内に詰め、遺体が朽ち果てるのを防ぎました。また、紀元前2500年頃の中国では、スパイスを加えた酒や飯(香酒、香飯)が神に供えられていました。漢の時代(紀元前200年~)には、宮廷の官吏が天子に政事を奏上する際、クローブを口に含んで口臭を消し、吐息を清めたとされています。ほかにもさまざまな国の寺院や教会で、空気を清める香煙として、山椒、クローブ、シナモンなどが火にくべられました。

◎人の病の治療、快癒に用いる“薬”になった
医学の祖といわれるギリシャのヒポクラテスは、紀元前400年頃にはハーブを病の治療や快癒に用い、役立てていました。彼は400種もに及ぶハ-ブを研究し、効能や処方を残しています。病気を科学的にとらえ、現代医学に通じる医学の基礎を築きました。ローマの医師ディオスコリデス(紀元前70~50年頃活躍)も、スパイスやハーブを、鎮痛や消炎・・・といった症状別に分類した薬物誌「マテリア・メディカ」を著しました。このほか、インドの「アーユルヴェーダ」や中国の漢方なども、古くからスパイスやハーブを医療用に用いてきたことが知られています。

◎食文化の発展とともに、“食用”にも使われた
中世以降は食文化の発展とともに、肉の保存や調理に必要とされるようになりました。けれども、東南アジアでしかとれないこしょう、クローブをはじめとするスパイスは、シルクロードの長い道のりや危険な航海を経て運ばれることもあって、当時のヨーロッパでは“金”に匹敵する大変な貴重品で、今では考えられない高値で取り引きされました。

◎地中海の商業都市は、スパイス交易で繁栄
11世紀の十字軍遠征以降、東西貿易で莫大な富を得たのは、イタリアのベネツィアやフィレンツェなど地中海の商業都市でした。アジアの絹織物や陶磁器とともに重要な商品だったのがスパイスで、ベネツィア人はこしょうのことを、「富をもたらす天国の種子」と呼んだほど。フィレンツェを繁栄させたのも、メディチ家などによって盛んに行われたスパイス交易でした。

◎新航路の発見で、ポルトガルやスペインが繁栄
地中海が中心だったスパイス交易は、オスマン・トルコの勢力が増すと、思うように進まなくなり、ヨーロッパ各国はなんとか原産地からもっと安価に買い入れようと、アジアへの新しい航路の発見に躍起になりました。ポルトガルのヴァスコ・ダ・ガマはアフリカの喜望峰をまわってインドに到着。スペインの支援を受けたマゼラン艦隊は世界一周をなしとげ、香料諸島と呼ばれたモルッカ諸島から、当時そこでしか採れなかったクローブとナツメグを持ち帰りました。その結果、ポルトガルとスペインは大きな利益を得たのです。 

◎各国間のスパイス争奪戦はさらに激化
数あるスパイスの中でも、当時、世界4大スパイスといわれたのは、こしょう、クローブ、ナツメグ、シナモンでした。これらは、ヨーロッパでは特に入手が困難だったスパイスだったからです。こしょうの原産地はインド、クローブとナツメグはインドネシアのモルッカ諸島、シナモンはセイロン島でした。スパイスの交易は大きな利益が見込まれることから、のちにイギリスやオランダも加わり、争奪戦はより激しくなっていきました。イギリスはスペインの無敵艦隊を破ってインド洋やカリブ海へ進出。1600年にイギリス東インド会社を設立し、勢力を拡大していきました。1602年、オランダも東インド会社を設立し、モルッカ諸島に進出。植民地を支配しました。かつてヨーロッパの人々が遠く思いを馳せた神秘のスパイスアイランズは、スパイス争奪戦の舞台となり、住民を巻き込み、激しい抗争が繰り返されました。

◎長きにわたるスパイス抗争は19世紀に終焉へ
18世紀後半、フランスはモルッカ諸島でしか産出されなかったクローブやナツメグの苗木を密かに盗み出し、当時植民地だったモーリシャスやマダカスカルなどで移植に成功。その後、移植地は南米や西インド諸島などへ拡大しました。すると、スパイスの栽培地が広がったことで、スパイスの価値や価格が下がり、スパイスをめぐる事態は大きく変わることになりました。また、オランダとイギリスの競争も、結果的にスパイス価格の低下をもたらしました。1949年にはインドネシアがオランダから正式に独立。長きにわたったスパイス抗争は、19世紀にようやく終焉を迎えました。

<今月の料理ラボ>
●チキンカレー&ナンby「DEEP JYOTI(ディープ・ジョティ)」
●アルジィーラ(ジャガ芋のクミン炒め) 
●サルガムカレー(かぶのカレー炒め) 
●ライタ(きゅうりとトマトのヨーグルトサラダ) 
●グリーンサラダ ハーブドレッシング
●ガジェルハルア(にんじんのミルクデザート)&マサラ・チャイ

◎チキンカレー&ナンby「DEEP JYOTI」
メンバーはみな年末~年始ともに各家庭で大忙しだったので、今回は少し早い「女正月」。シンプルなサイドディッシュとサラダは手作りして、メインのカレーは、インド料理レストラン「ディープ・ジョティ」のチキンカレーをテイクアウト。ナンと一緒に楽しみました。シンプルですが、しっかりスパイスの効いた辛口カレーはうまみたっぷり。体も温まり、スパイスの薬効で、年末年始の疲れも吹き飛ばしてしまいましょう。

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◎アルジィーラ(じゃが芋のクミン、ターメリック風味)/久保田作
材料(4人分):じゃが芋5~6個、ヨーグルト300㏄、香菜適宜、クミンシード小さじ2、ターメリック小さじ1/2、塩小さじ1、植物油大さじ2
作り方:(下準備)じゃが芋はゆでて(または電子レンジにかけ)、皮をむき、食べやすい大きさに切る。
①鍋に油とクミンシードを入れて中火で熱し、香りが立ったらターメリックを加えて炒める。
②①にヨーグルトを加え、沸いてきたらじゃが芋を加え、1~2分煮て味をからめ、塩で味を調える。皿に盛り、あれば香菜を飾る。

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じゃが芋料理というと、まずはグリンピースとの炒め物(サモサの中身のような)を連想することが多いですが、クミンやターメリックなどで風味づけするのは同じでも、これはヨーグルトを使う点が新鮮。ヨーグルトを最後に加えてサッと煮からめることで、じゃが芋の自然の甘みがひきたつ、やさしい味に。温ポテトサラダ風の料理になりました。

◎サルガムカレー(かぶのカレー炒め)/久保田作
材料(4人分):かぶ5個、クミンシード小さじ1、おろししょうが、おろしにんにく各1かけ分、ターメリック小さじ1/2、塩小さじ1、植物油大さじ2、水200㏄
作り方:(下準備)かぶの実は皮をむいて縦8等分し、葉は3㎝幅に切る。
①鍋に油とクミンシードを入れて中火で熱し、しょうが、にんにくを加え、香りが立ったらかぶを加えて炒める。さらにターメリック、塩を加えて炒める。
②①に分量の水を加え、フタをして弱火で5分ほど蒸し煮する。
③かぶがやわらかくなったらフタをとり、強火にして汁気が飛ぶまで炒める。

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かぶの実と葉を使うシンプルな炒め物。寒い時期に作るインドの家庭料理(お惣菜)だそうです。今回は辛み(レッドチリなど)を使いませんでしたが、クミンやターメリックのほか、しょうがやにんにくを使うので、体を温める料理なんだな~ということがわかります。日本の家庭料理にも通じる、あっさりした味わいでした。

◎ライタ(ヨーグルトサラダ)/秋元作
材料(4人分):ヨーグルト500㏄、きゅうり1本、ミニトマト7~8個、おろしにんにく1かけ分、塩小さじ1、こしょう少々
作り方 下準備:きゅうり、ミニトマトは5mm角程度の大きさに切る。
①ボウルにヨーグルトと塩を入れ、なめらかになるまで混ぜる(泡だて器などを使ってもよい)。きゅうりとトマトを入れて混ぜ、こしょうをふる。

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 インド料理店でもおなじみのヨーグルトサラダ「ライタ」。野菜やフルーツを小さめに切ってヨーグルトとあえ、塩やスパイスを加えたものです。今回の具は、シンプルにきゅうりとトマトだけ。スパイスは、他がクミンなどを使うものが多いので、塩と黒こしょうだけにしました。辛いカレーで口の中がカーッ、ヒリッヒリッになったときでも、これを一口食べると、急に辛さがおさまる“お助けサラダ”です。

◎グリーンサラダ ハーブドレッシング/秋元作
野菜は、柴海農園(千葉県)のサラダ用有機野菜セットを利用。ルッコラ、ケール、赤軸ほうれん草、パーマグリーン、わさび菜、赤水菜、山東菜、ミニにんじんなどが組み合わせてあります。鮮度よく、どれも香り高い野菜ばかりで、食ラボのみんなのお気に入り。これをオリーブオイル、ワインビネガー、塩、黒こしょうに、生のローズマリーを加えたドレッシングであえました。

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◎ガジェルハルア(にんじんのミルク煮デザート)/鈴木作
材料(4人分):にんじん500g、牛乳700㏄、砂糖1/2カップ、バター大さじ4、グリーンカルダモン5粒、ナッツ(カシューナッツ、クルミ、アーモンドなど)
作り方 下準備:にんじんは皮をむいてせん切りに。カルダモンはつぶして皮を取り除く。ナッツ類は刻む。
①鍋に牛乳とにんじんを入れて沸かし、弱火にして1時間ほど煮る。ときどきかき混ぜ、焦がさないよう注意しながら、牛乳を煮詰める。
②牛乳量が少なくなり、にんじんもやわらかくなったら、カルダモン、砂糖、半量のバター、ナッツ類を加える。※ナッツ類は、飾り用に少し残しておく。
③残りのバターを加え、へらなどでつやが出るまでかき混ぜる。器に盛り、残しておいたナッツを飾る。

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カロテン豊富なにんじんを牛乳でゆっくり、やわらかくなるまで煮て、甘み(砂糖)とバターのコクを加えたデザート。グリーンカルダモンの風味がポイント。インドでは主に冬に食べるデザートで、体を温めるためにも、温かい状態で食べるのだとか。にんじんは牛乳の中で1時間ほど煮るだけ。やさしい甘さに、カルダモンの香りやナッツ類の食感も加わります。インドのお母さんの作るデザートのようで、気持ちまであったまりました。

◎マサラ・チャイ
試食後に、マサラ・チャイをみんなで楽しみました。紅茶、牛乳と、ティーマサラ(チャイ用ミックススパイス)をゆっくり煮出して作ったものです。チャイ用のティーバックも多く市販されていますが、「アンビカ」特製のティーマサラ(パウダー)はすぐれものです。ミックススパイスの種類は、しょうが、カルダモン、シナモン、黒こしょう、クローブ、ナツメグ、ローリエなど多岐にわたっている上、香り高くスパイシー。飲んだそばから体が温まりました。
★Ambika(アンビカ) 台東区蔵前にあるインド産スパイスや調味料の専門店。インド料理店への卸が主だが、小売りもしている。

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「スパイス、ハーブの研究」の初回は、インド料理店からテイクアウトしたカレー&ナンに合わせ、インドの家庭で食べられているような、シンプルな副菜やデザートを作りました。辛くない料理ばかりですが、スパイスの効果で、体が芯から温まりました。

また、スパイスとハーブの違いや歴史を座学。人類は紀元前の昔からスパイスやハーブには、病を治したり、癒したりする力があることを知っていて、実際にそれを役立てていたことを学びました。料理に用いるようになったのは、中世以降。食文化の発展とともに、食材の保存や下ごしらえ、調味に用いるようになりました。

そこで食ラボでも、料理をおいしくするスパイスやハーブの使い方に加え、急激な気候変動で体調をくずす人が多い昨今、自分や家族の体調を整えるためにはスパイスやハーブをどう使えばいいのか?そんな答えも探しながら、進めていこうと思います。