『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』
もともと「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。そしてその第1弾が“塩の研究会”。塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。そこで、今年は塩に続いて、さまざまな調味料を研究することにしました。
6.酢の研究③
2 月の食ラボから、砂糖、みりん、甘味料、料理酒などの身近な調味料を改めて見直し、
比較研究をしてきました。そして、先月からは「酢」をとりあげています。
今月は「酢」の研究の 3 回目。バルサミコ酢をとりあげました。
前半は、資料をもとにバルサミコ酢の起源や歴史、製法を勉強した後、メンバーが持ち
寄ったバルサミコ酢の味比較を行いました。
イタリア語で Aceto は“酢”、Balsamico は“芳香がある”という意味の Aceto Balsamico
(アチェート・バルサミコ)は、イタリア中部のモデナ地区とレッジョ・エミリア地区で11世紀から作られている果実酢です。
トレビアーノ種という甘みの強い白ぶどうを木につけたままぎりぎりまで熟させ、収穫を遅らせてから
搾った果汁をゆっくり煮詰め、木の樽に仕込んで自然発酵させ、長期間熟成させたものです。
バルサミコを作る際の最大の特徴は、酢酸発酵して出来上がったビネガーを熟成させる過程で、
樽から樽へ6回から12回も移し替えられることです。しかも、樽は栗、桑、樫、トネリコ、桜と、
材質の違うものに移し替えてそれぞれの木の薫りを移し、水分の蒸発に合わせ、樽は少しずつ小さくしていきます。
このように手間暇と長い年月をかけて発酵・熟成させ、100kgのぶどうからでき上がるバルサミコは
わずか1~2kg。バルサミコがいかに貴重で、高価なのか、その理由がわかります。
中でも「トラディツィオナーレ(tradizionale)」と呼ばれるものは、昔ながらの伝統製法で
作られたうえ、添加物を一切加えず、90 項目以上の基準をクリアした最高級品。
熟成期間は12年以上と定められており、日本では100mlで数万円もする高価なものです。
トラディツィオナーレの次によいものとしては、材料や工程はほぼ同じながら、熟成期間だけが短い
6年もの・8年ものなどがあります。これらはトラディツィオナーレを名乗ることはできませんが、
ラベルには「アチェート・バルサミコ(Aceto Balsamico)」と表記できます。
それ以外にも、5年以下の熟成で、ぶどう酢に着色料・香料・カラメルなどを添加するなどして
大量生産された普及品も出回っています。これらの中にはバルサミコと表示され、
販売されているものもありますが、本来はバルサミコとは名乗れません。
一方、数年前から急に人気が出て、注目されたホワイトバルサミコですが、本来の黒いバルサミコと
どう違うのでしょうか。ホワイトバルサミコは、バルサミコとは製法が全く違います。
白ワインビネガーにぶどうの果汁やぶどう糖を混ぜたもので、熟成期間が短いか、まったく熟成させていないものです。
よって、バルサミコの製法をクリアしていないため、本来はバルサミコとは呼べず、表示もできません。
コクや深みは少なく、色は透明で、さっぱりした、少々甘みのあるビネガーといった印象でしょうか。
ただ、料理の色を変えずに、風味だけを加えることができるため、ドレッシングにして
サラダにかけたり、色をつけたくない料理に使うのはおすすめです。
次に、バルサミコの味を比べてみることにしました。今回、食ラボが新たに購入したバルサミコは
2種のみ。あとはメンバーの家で使用中のものや、イタリアから持ち帰ったものなので、
詳細情報や価格は不明のものもあります。
手前左からA、F。中列左からC、B、E。後列左D、後列右G。
A マルピーギ アチェート・バルサミコ・トラディツィオナーレ
25年熟成
B カヴィッキオーリ アチェート・バルサミコ
C ソルレオーネビオ オーガニックバルサミコ
8年熟成 4320円 (250ml、日欧商事)
D マルピーギ バルサモ・ディヴィーノ
6年熟成 4,860円(200ml、チェリーテラス)
E アチェート・バルサミコ ゴールド
648円 (100ml、フォムファム)
F レオナルディ アチェート・バルサミコ
G アドリアーノ・グロソリ アチェート・バルサミコ
熟成3年以内 770円(250ml、モンテ物産)
<ホワイトバルサミコ>
H マルピーギ バルサモ・ビアンコ
5年熟成 3,780円(200ml、チェリーテラス)
I ラ・プティット・エピスリー 白バルサミコ
2,160円(200ml、ラ・プティット・エピスリー)
試飲後の食ラボメンバーの感想は次の通りです。
A とろりとしてまろやか。非常に濃厚でコクがあり、甘い。いぶしたような樽の風味を感じる。
古く、枯れている味。時間や歴史を感じる。いつまでもなめていたい。
B 濃厚でまろやか。木樽の香りを感じる。コクがあり、プルーンのような味。
C とろりとして深い味。酸味は多少あるが、コクもあってまろやか。
D 甘みとコクがあり、酸味はほとんど感じられない。
E さらりとして軽い。軽めのプルーンのようで、巨峰に似た香りもあり。
F さらりとして、味もあっさりしている。酸味はほとんどない。
G さらりとしている。ツーンと酸味が立っている。
H エレガントな香りがある。かなり甘い(酸度は 4.5%と表示あり)。
I 何となく米酢に似た味わい。塩気もある。が、最後はマスカット系のぶどうの香りが鼻に抜ける。
左からH、I
◎料理の試食 バルサミコソース
今回は、普及品のGのバルサミコを煮詰め、料理のソースに使うことにしました。
料理は「鶏モモ肉の香ばし焼き」と「白身魚のポアレ」。
秋元さんがイタリア風に調理してくださいました。
肉も魚も必ず皮つきを求め、皮の部分がカリッカリになるよう、香ばしく焼くのが必須だそうです。
鶏肉は強めに塩をしてから、オリーブオイルをひいたフライパンに皮を下にしてのせ、中火にかけます。
「ここがポイントなのですが、平らなフライ返しなどで肉を強めに押さえながら焼いていきます。
このとき、途中で皮から脂や水気が出てくるので(これを残しておくと臭みのもとに・・・)、
そのたびに絶えずキッチンペーパーでしっかりふき取りながら焼きます」と秋元さん。
肉を押さえながら、皮がパリパリになるまで 20 分くらい焼いたら裏返し、今度は3分程度焼いて中まで
火を通し、最後に塩、こしょうで味を調えます。
そのまましばらく休ませてから取り出し、4~5切れに切ります。
白身魚(今回はタイを使用。ほかにスズキなど)は塩をしてから 10 分程度おき、水けをふきとったのち、
肉と同様にオリーブイルをひいたフライパンに皮目を下にして並べ、皮がカリッと香ばしくなるよう
焼きます。ただし、魚は押さえると身がくずれるので、そのままそっと焼くこと。
そしてバルサミコ。小鍋に入れ、弱火にかけて熱し、焦がさないよう鍋をゆすりながら1/3量になるまで煮詰めます。
料理によっては、最後に生クリームを加えてもいいそうですが、今回はバルサミコだけで
ソースにしました。そのままだと、ツンとした酸味が感じられたGのバルサミコも、
煮詰めることで酸味がとんでまろやかになり、甘みもぐんと増しました。
このバルサミコソース、シンプルに焼いた鶏肉や白身魚にとてもよく合いました。肉も魚も、
皮をカリッカリになるまで焼いたことで香ばしさや苦みが加わり、甘みの強いソースとの相性もいっそう増したものと思われます。