発酵、発酵食の研究8

『発酵、発酵食をもっと知ろう!』

今年は「発酵、発酵食」がテーマ。さまざまな角度から“発酵や発酵食品”そして“発酵食品を使った料理”を研究しています。今回は、発酵食品の「酢」を取り上げました。また、「日本各地のご当地汁」シリーズ。今月は愛媛県宇和島地方の“さつま汁”。タイと麦みそをすりつぶし、タイの骨でとっただし汁でのばし、ご飯にかけて食べる汁で、全国的に有名になった宮崎の冷や汁にも似た、夏の郷土汁です。今回はそれを作って試食しました。

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食ラボメンバー作のマイドレッシング各種

<今月の座学>
●酢の健康効果、料理における酢の効果のおさらい
●酢やワインビネガー…等、使用状況の意見交換

◎食酢(酢酸)の健康効果
①疲労回復効果、代謝をアップする
②カルシウムや鉄の吸収をサポートする
③高めの血圧を下げる ※③~⑥は1日大さじ1杯(15ml)を継続摂取した際の効果
・塩分のない調味料として、安心して使える。
・減塩、適塩で調理した料理を、酢の効果でおいしくする。
④肥満気味の人の内臓脂肪を減らす
⑤食後の血糖値上昇を緩やかにする
⑥高めの血中脂質を下げる

◎料理における食酢の効果
①塩のとり過ぎを防ぐ 酢の酸味が塩味を引き立て、味がひきしまる。
②砂糖のとり過ぎを防ぐ(熟成した酢の場合)
③肉をやわらかくする
④脂っこさをやわらげる
脂身の多い肉の調理に使うと、脂っこさをやわらげ、さっぱり感じる。
⑤魚の臭みをとる
酢洗いや酢締めにすると、魚のトリメチルアミンに作用し、臭いを断つ。
⑥変色を防ぎ、白い仕上がりに
アクの強い野菜を酢水につけたり、酢を加えた湯でゆでると白く仕上がる。

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◎料理によって、数種の酢を使い分ける
ドレッシング、酢の物、煮込み料理、ドリンクなどに、食ラボメンバーは普段どんな酢を使っているのか、情報交換、意見交換をしました。それによると、酢の物を始めとする和食用には、主に米酢や玄米酢を中心に使い、中華料理には米酢や黒酢、サラダのドレッシングには主にワインビネガーやバルサミコ酢を使うという意見が多く集まりました。
ただ、米酢でもワインビネガーでも、メーカーが違えば味も違い、価格も違います。みんないろいろな酢を試した後、最終的には好みに合ったいくつかの酢を、料理によって使い分けていました。
りんご酢に関しては ”使う”人と、“使わない”という人にはっきり分かれました。そこで、参考までに、数種のりんご酢の作り方を学び、試飲してみることにしました。

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左から「美濃有機純りんご酢」(内堀醸造)、「樽熟りんご酢」(カネショウ)、「アップルスター」(フォムファス)、「健康酢」(宝福一)

①美濃有機純りんご酢(内堀醸造) りんご100% 360ml 588円
有機農法産(有機JAS認定)のりんご果汁から、アップルワイン(もろみ)をつくり、それを醸造してりんご酢にしています。すっきりとした甘さのりんご風味と、自然なおいしさの酢は、ドレッシングやマリネなどをはじめ、洋風料理によく合います。

②樽熟りんご酢 (カネショウ) りんご(青森県産)100% 500ml 865円 りんご酢の多くは、海外からの輸入りんご果汁をベースに造られますが、これは完熟の津軽りんごを、皮や芯を含め(りんごの成分を余すところなく)てすりおろし、発酵させる “すりおろし醸造”という独自の製法で作っています。酵母を加え、オーク樽で低温発酵させた後、180日以上長期熟成させることで、風味やコクが増し、まろやかな味になります。

③「アップルスター」(フォムファス) りんご100% 250ml 3,726円
ドイツの高品質醸造メーカー「フォムファス」の製品(2019年の春で日本における販売は終了)。ドイツアルプスで育ったりんごの濃縮りんご果汁を、通常の2倍使用。発酵後、オーク樽で1年以上長期熟成させて完成させます。りんごの風味に、凝縮したうま味とコクが加わった、濃厚な味わいが特徴。ドリンク用をはじめ、肉料理、魚料理のソースや、デザート用ソースにも。サラダ用のドレッシングにすると、味に深みが加わります。

④「健康酢」(宝福一) りんご、果糖 900ml 864円
りんごに果糖を加えた調味酢(合わせ酢)。もともとこの酢は、料理にも使え、さらに健康のために飲んでも飲みやすい酢としてつくられました。りんごのほのかな香りを生かし、食塩や人工甘味料は添加していません。ドレッシングやマリネに。また、甘酢代わりに、砂糖を加えずにそのまま使えるので重宝します。

今回の4種だけを比べても、製法も味もさまざまでした。①はさっぱりした、レモンに近い酸味がある。②はりんごの香りがし、さわやかな酸味がある。③プラムのような、熟成した甘みとコクがあり、そのまま飲んでも酸っぱくない。ローストポークなどのソースにもよさそう。バルサミコ酢代わりにも使える。
④はあっさりとした甘みがあり、酸味はほとんどない。

普段りんご酢を使わないという人は「りんご酢だと物足りない気がする」「料理の味がしまらない」という意見でした。確かに、使い慣れた米酢の代わりにそのまま使うと味が変わってしまいますが、洋風料理に使うと、可能性はまだまだ広がる気がしました。また、今回の料理ラボのように、少し甘みがほしいドレッシングなどに、砂糖を使わずにりんご酢を使うことで糖分を減らせるうえ、また違うおいしさが発見できました。

◎知る人ぞ知る、究極のワインビネガー情報
食ラボメンバーによるマニアック情報がこちら。イタリアの食文化・料理研究家である秋元さんが20年近く使い続けているワインビネガーが「CESARE GIACCONE(チェーザレ・ジャッコーネ)」。「チェーザレのワインビネガーに出会ったとたん気に入って、以来使い続けています。香りが素晴らしく、コクもあり、あとはいいオリーブオイルさえあれば、それだけで野菜がどこまでもおいしく食べられます」と秋元さん。かの辰巳芳子さんもおすすめのビネガーだそうです。

「CESARE GIACCONE」(チェーザレ・ジャッコーネ)
チェーザレ・ジャッコーネ氏はイタリア料理界の大御所。彼は、料理の素材とワインの相性にはワインビネガーの品質のよさが重要な要素であると考え、バローロ、バルベーラ、グリニョーロ、アルネイス、モスカートといったピエモンテ産の有名ワインを原料に、非加熱(酵母が生きている)&ノンフィルターでこだわりワインビネガーをつくりあげました。他国の有名シェフからも「Best all around vinegar(世界最高のビネガー)」とたたえられているビネガーです。
原材料:ピエモンテ産ぶどう(銘柄ワイン)輸入元:稲垣商店 ※合成保存料や添加物等は一切含まず。瓶内で酵母が生きているため、瓶はあえて完全密閉されていません。
白「ロエロ・アルネイス チェーザレ・ジャッコーネ」250ml2,700円(ネット購入参考価格)
赤「バローロ チェーザレ・ジャッコーネ」250ml3,650円(ネット購入参考価格)
※ほかにもバルベラ、モスカート…等、他品種を使用したビネガーも数種あり。

<今月の料理ラボ>

普段から“りんご酢も使う”というメンバーに、りんご酢を使ったドレッシング①②を作ってもらいました。③は究極のワインビネガーを用いたドレッシング。

◎マイドレッシング&グリーンサラダ

材料:グリーンカール、ベビーリーフ、パプリカ、セロリ、クレソン、ミニトマト
ドレッシング①(牧野作):りんご酢(内堀醸造「美濃有機純りんご酢」)大さじ2、EX.バージンオリーブオイル大さじ3、塩、こしょう各適量
ドレッシング②(飯塚作):りんご酢(宝福一「健康酢」)大さじ11/3、EX.バージンオリーブオイル大さじ5、にんじん1/2本、玉ねぎ少量(1/16個)、塩小さじ1/2、しょうゆ小さじ21/2
※人参、玉ねぎはミキサーにかけてなめらかにしてから混ぜ込む。
ドレッシング③(秋元作):白ワインビネガー(チェーザレ)大さじ1、EX.バージンオリーブオイル大さじ3、塩、こしょう各適量

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「普段、フレンチドレッシングには砂糖を少量加えて作るのですが、りんご酢を使い、砂糖を加えずに作る場合もあります」と牧野さん。「りんご酢は、酸味がやわらかい分、通常の割り合い(オイル3:ビネガー1)より、酢を多めにしたほうが味がしまりますよ」
飯塚さんのドレッシングは、にんじんと玉ねぎ入り。もともと甘みを加えてあるりんご酢(合わせ酢)を使用。野菜の自然な甘みとうまみが際立ちます。しょうゆも使っていますが、和野菜にも洋野菜にも合うそうです。
そして、噂の“究極のワインビネガー”を使った秋元さんのドレッシング。白といっても少々緑がかっていて、香りも素晴らしい。通常見かけるワインビネガーの、“ヒーッ”となる酸っぱさがないので、甘み等を加えなくても充分おいしいのだと思います。

◎りんごとカマンベールサラダ りんご酢ドレッシング
材料:りんご、セロリ、ルッコラ、カマンベールチーズ
ドレッシング④:りんご酢(美濃有機純りんご酢)大さじ2、EX.バージンオリーブオイル大さじ3、塩、こしょう各少々

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フランス北西部のノルマンディはりんごの名産地(りんごからできるお酒シードルやカルヴァドスもあり)。そしてこの地方発祥のチーズがカマンベール。ということで、りんごとカマンベールのサラダに、ルッコラやセロリといったほろ苦系の野菜も加え、りんご酢を使ったドレッシングを合わせてみました。りんご酢のやさしい甘みが、チーズやほろ苦野菜に非常によく合いました。クルミなどを加えてもいいですね。白ワインにも合いそうです。

◎滷肉飯(ルーローファン)風 豚バラ肉の黒酢煮込み/久保田

台湾の代表的なB級グルメの1つが「滷肉飯」。豚肉を台湾醤油、酒、砂糖、黒酢、干蝦、八角その他で甘辛く煮込み、汁ごとご飯の上にかけた丼もの。日本では“滷”の替わりに“魯”を用い「魯肉飯」と表記されることも多い。
「滷肉飯は、台湾では気軽で安い店で食べる“汁かけ飯”。今回はバラ肉の塊を使い、主菜用に平皿にどーんと盛り付けましたが、現地のお店では、肉はもっともっと小さく切って煮込んであり、ご飯の上にのせる量もぐっと少なめです」と久保田さん。

材料 (3~4人分):豚バラ肉(塊)300g、にんにく3かけ、卵3~4個、長ねぎ9㎝、小松菜1/4束(ごま油、塩各少々)、A(水500cc、酒、砂糖、黒酢各大さじさじ2、しょうゆ大さじ4、オイスターソース大さじ1、五香粉小さじ1/2~1、白こしょう小さじ1/4~1/2) ※写真は、約2倍量で作っています。
作り方:(下準備)卵はゆでておく。長ねぎは3㎝長さのぶつ切りにし、肉は2㎝幅に切り、Aは合わせておく。
①フライパンを熱して肉を入れ、中火で焼きつける。途中でにんにくと長ねぎも加えて焼き付け、香ばしく焼き色がついたら、肉だけザルに上げ、熱湯をかけて余分な油を落とす。
②大鍋にAと①の肉、にんにく、長ねぎを入れて熱し、沸騰したら中火で煮込む。30分ほどしたらゆで卵を加え、さらに30分煮込む。
③小松菜は5㎝幅に切ってゆで、水気をきってから塩、ごま油各少々入れたボウルの中でザッとあえる。
④②を汁ごと器に盛り付け、③を添える。
※台湾の滷肉飯と同じように、小丼に盛ったご飯にかけて食べるのもおすすめ。

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「調味料は、まず黒酢は不可欠ですが、台湾の甘しょうゆが手に入りにくいので、日本のしょうゆとオイスターソースで代用します。また、混合調味料の五香粉を加えると、一気に現地風の味と香りになります」と久保田さん。「もし残ったら汁ごと冷蔵庫へ。翌日はさらに味がしみておいしいですよ。3日くらいで食べきってください」。
豚バラ肉の甘辛煮込みというと、こってりした味かと思いきや、食べるとまるで違って驚きました。肩ロースで作る通常の焼き豚(煮豚)よりも、このバラ肉の煮込みの方がずっとあっさりしているのです。それでいながら、豚バラならではのうまみもしっかりあって、残暑厳しいこの時期でも、いくらでも食べられそうな気がしてきます。日本にも、酢を加えて肉や魚を煮る“酢煮”がありますが、これもやはり“黒酢”を加えて煮込んだ効果なのだと、改めて実感しました。

◎今月のご当地みそ汁 愛媛 さつま汁/長島作
愛媛県宇和島地方で、昔から食べられてきた郷土汁に「さつま汁」があります。 タイなどの魚とみそ、ごまをすり鉢であたってから香ばしくあぶり、タイの骨でとっただし汁でのばした汁をご飯の上からかけ、汁かけご飯にして食べるものです。みそは“麦みそ”(愛媛県は、麦みその原料の“はだか麦”の生産地)を使うのがポイント。また、薬味には青ねぎや白ごまに加え、“みかんの皮”を使うのも柑橘類の産地ならではのもの。食欲の落ちる暑い時期でも、さらっと食べられる汁です。

では、さつま芋を使わないのになぜ「さつま汁」というのでしょう。もともと薩摩藩から伝わったという説もありますが、別の説では、ご飯に汁がしみこみやすいよう、箸でご飯に十字の分け目を入れるのが、茶碗の〇に十文字で薩摩藩の紋になるため、この名になったのだとか。

材料(8人分):タイ1尾(約250g)、麦みそ120g、白ごま適量、薬味(みかんの皮1個分、青ねぎ、白ごま)、ご飯(または麦飯)8杯分
作り方 下準備:タイは3枚におろし、中骨は取り置く。みかんの皮は細切り、青ねぎは小口切りにする。
①タイを焼き、皮と小骨をとり、ざっとほぐす(ほぐし身は140g)。水5カップと中骨を鍋に入れ、弱火で熱し、だしをとる。みそはアルミホイルなどにのせ、香ばしくあぶる(焦がさないように注意)。
②すり鉢に①のタイのほぐし身、みそ、白ごまを入れてする。骨でとった①のだし汁を少しずつ加えてのばす。
③小丼にご飯をよそい、汁がしみこみやすいよう、箸で十字に分け目を入れたら②をかけ、お好みで薬味(みかんの皮、青ねぎ、白ごま)をのせる。

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「魚やみそをすり鉢ですってから、すり鉢ごと火の上に伏せ、あぶるのが本来の作り方ですが、家庭では、先に魚とみそを焼いてから、すり鉢ですった方が簡単ですよ」と長島さん。ということで、今回はこの方法で作りました。

作り方も食べ方も、全国的に有名な宮崎の冷や汁(アジを使うことが多い)にそっくりですが、宇和島のさつま汁は魚とみそが違います。タイと甘めの麦みそを用いた冷や汁はやさしく、上品な味わい。薬味のみかんの“皮”の香りも、なんともさわやかなアクセントになっていました。

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テーマ「発酵と発酵食の研究」の8回目は、「酢」を取り上げました。酢は、普段からおなじみで、欠かせない基本調味料。それゆえ、「酢」の健康効果や、料理の効果をおさらいするいい機会になりました。
料理における酢の効果の1つに、“脂っこさをやわらげる”というのがありますが、今回の「豚バラ肉の黒酢煮込み」では、まさにその効果を十二分に発揮。脂っこく、こってりしがちな豚バラ肉の煮込みが、酢の力で、コクがありながらも、さっぱり仕上がったのには改めて驚かされました。