油の研究9

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。そこで、「塩」に続き、さまざまな調味料を研究することになりました。
これまでとりあげたのは、「砂糖」「みりん」「酒(料理用)」「酢」など。さらに昨年は1年間にわたってさまざまな「だし」をとりあげました。そして、今年のテーマは「油」。さまざまな油について研究しています。
9回目は、前回に続き「米油」を取り上げました。

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<米油、こめ油>
前回のおさらい(詳しい説明は8回目にあります)
◉国産の原材料で作る油として、人気上昇中
◉当初の名前は「米糠油」、作り始めたのは昭和の始め
◉業務用に使われることが多く、一般家庭には長年普及しなかった
◉加熱に強い、くせがない、和食にも合う油として人気に
◉米油のすぐれた栄養価も注目されています
◉ほとんどは“溶剤”を用いた製法、「低温圧搾法」の米油は非常に少ない

<米油で料理を作る>
先月、米油で料理を作る際、同じ料理を同じタイミングでサラダ油でも作って比較したところ、その差がわかって非常に興味深かったため、
今回は、気になっていたオリーブ油と比較してみることにしました。
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一番右がオリーブ油、それ以外は米油。だいぶ色が違う。

◎鶏ムネ肉のフリット 米油とオリーブ油で比較/秋元作
鶏ムネ肉は薄めのそぎ切りにしてから、肉たたきなどでたたいて2~3mmの薄さまでのばし、塩、こしょうする。
小麦粉をうすくまぶして揚げる。

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今回はイタリア風の鶏の揚げ物で比較しました。
「ムネ肉はたたいて薄く薄くしてから揚げると、少ない油で、手早く揚げることができるんです」と秋元さん。
少ない油ですむのは、家庭での揚げ物には助かります。さっそくオリーブ油と米油、2つの鍋(フライパン)で同時に揚げ始め、比べてみました。

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左が米油で揚げたもの、右はオリーブ油で揚げたもの

先にシュワシュワ~っと泡が出始め、パチパチッという元気いい揚げ音に変わったのは、先月同様、やはり米油の鍋でした。
やはり米油は、短い時間で温度が上昇するようです。

一方のオリーブ油の鍋は、少し遅れてシュワシュワ~っと泡が出始めましたが、間もなく元気よくパチパチという揚げ音に変わりました。
そして途中からは米油の勢いに追いつき、最終的にはほぼ同じくらいの時間に揚げ終わりました。
ということは、結果的にはオリーブ油の方が短時間に揚がるということでしょうか。

◎ズッキーニ、なすのフリット 米油とオリーブ油で比較/秋元・長島作
ズッキーニは4~5㎝幅に切ったあと、7~8mm厚さに切り、塩、こしょうする。なすもズッキーニの大きさ、厚さに合わせて切り、こちらはバットなどに並べ、塩をふってアクをとる
(日本では、なすを水につけてアクをとりますが、今回は塩をふってしばらくおき、アクをとるイタリア風で)。
ズッキーニ、なすともに水けをしっかりふきとり、小麦粉をうすくまぶして揚げる。

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左が米油で揚げたもの、右がオリーブ油で揚げたもの

揚げ始めの様子や、後半の様子は、鶏肉のフリットとほぼ同じ経緯をたどりました。
ただし今回、揚げ色はどちらも今ひとつ。はっきり比較しにくい結果に終わりました。
ただ、揚げているときから、オリーブ油はいい香りがし、食べ比べてみても、オリーブ油で揚げた方がやはり香りも味も上でした。

◎鯛のカルパッチョ 米油とオリーブ油で比較/秋元、塩川作
白身魚(今回も真鯛を使いました)の刺身は薄くそぎ切りにし、2枚の平皿(皿には、あらかじめにんにくをすりつけておく)に1枚1枚広げて並べる。
1皿には、塩をふり、レモン汁とオリーブ油を回しかけ、冷蔵庫で冷やしておき、食べる直前に取り出し、大葉(せん切り)をのせる。
もう1皿は、塩だけふって冷蔵庫で冷やしておき、食べる直前に取り出し、大葉(せん切り)をのせ、米油を弱火でじっくり熱してからこれに回しかける。

先月同様、今回も「鯛のカルパッチョ」で比較してみました。イタリア料理でもおなじみのオリーブ油を使うカルパッチョと、米油を使うカルパッチョです。イタリアンの方は、塩に加え、レモン汁とオリーブ油もふりかけて冷蔵庫でしばらく冷やし、味をなじませました。かけたオリーブ油は、トスカーナの「ジャッキ」のエクストラバージンオリーブ油。味も香りも極上のオリーブ油です。
オリーブ油と比べてしまうと、どうしても米油は香りやうまみが少ないため、今回も熱して、香ばしさを出してから、かけました。

2皿を食べ比べてみた感想は、やはりオリーブ油のカルパッチョの方がおいしいという意見が多かった気がします。ただ、先月もそうでしたが、今回も魚そのものが鮮度よく、おいしかったため、あえて風味の高い油や柑橘の果汁を用いなくても、米油と塩だけの方が、素材(真鯛)そのもののおいしさがわかる、という意見もありました。

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左が米油、右がオリーブ油を用いたもの

“油の研究”の9回目。先月に引き続き「米油」をとりあげ、今回は気になっていた「オリーブ油」との料理比較をしてみました。
今回、米油に対して使用したオリーブ油は、エクストラバージンオリーブ油。揚げた結果は、やはり風味も味もオリーブ油の方が上だったようです。

とはいえ、普段からオリーブ油を用いて揚げものをしている人は、食ラボメンバーの中にもいませんでした。
なぜかといえば、オリーブ油は高温の揚げ物には向かないといわれているからです。

オリーブ油にもいろいろ種類があり、精製オリーブ油(日本では、精製されたオリーブ油をブレンドした“ピュアオリーブ油”などがこれにあたります)なら比較的高温に強いようですが、
低温圧搾(コールドプレス)の、風味も味も極上のエクストラバージンオリーブ油になると、高温には弱く、一度揚げ物に使ってしまうと、急に酸化が進むので、
廃棄しなくてはならないといわれているからです(もともと価格が高い油を一度で捨てるのは、非常に不経済でもありますね)。
「だから、イタリア料理のお店でも、フリット(揚げ物)はオリーブ油でなく、ほかの油で揚げているお店がほとんどですよ」と秋元さん。

育ち盛りや食べ盛りの子供がいたり、毎日お弁当を作る家など、揚げ物料理の回数が多い家では、エクストラバージンオリーブ油を揚げ物に使うのは到底無理な話。
となると、揚げ物をどの油で揚げたらいいのかは、非常に迷うところ。今後も、食ラボでは家庭で使う揚げ油について考えていこうと思います。