だしの研究5

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。
塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。
そこで、今年は塩に続き、さまざまな調味料を研究することにし、砂糖、みりん、甘味料、料理酒、酢などの身近な調味料を改めて見直し、比較研究をしてきました。
そして、昨年11月からは「だし」をとりあげています。

8.だしの研究⑤
「だし」の研究の5回目。かつお節や昆布などの単体のだし、合わせだし…その他の味比較をしてきましたが、今回のテーマは「煮干し」です。

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◉当初はかつお節や昆布の代用品だった煮干だし
かつて、イワシが豊富にとれた九州や四国の沿岸地方では、とれ過ぎたイワシの処分に困り、さまざまな利用法が考え出されました。中でも最大の産業になったのは干鰯(ほしか)の製造です。
鰯を干して乾燥させた後に固めて作った作物用の肥料で、戦国時代に作られたのが始まりといわれていますが、米作りが盛んになった江戸時代にも作物の肥料として利用されていました。
煮干が「だし」の素材として利用されるようになったのは、江戸時代中期以降のことです。
庶民の生活が徐々に向上し、だしを使った料理を作るようになったものの、かつお節や昆布は庶民にとってはやはり高級品。お正月やハレの日にしか使えなかったため、
日常使うだしとして、西日本を中心に煮干だしが使われるようになりました。煮干だしの需要に目をつけた大阪商人により、小イワシで作るいりこは中国、四国地方を中心に、
九州や北陸まで売られ、人気になりました。一方、東日本では、かつお節の代わりに、宗田節やさば節を用いることが多かったため、煮干だしが使われたのは明治以降からだといわれています。

◉魚類を煮て干したものはすべて「煮干」
「煮干」は、日本農林規格では“煮干魚類”に分類され、食品表示基準では“魚類を煮熱により、たんぱく質を凝固させて乾燥したもの”とされています。
つまり、魚類を煮て干したら、 すべて「煮干」となるため、魚の種類はさまざまです。一般的な煮干はカタクチイワシの煮干しですが、
生産量は少ないもののマイワシやウルメイワシの煮干もあります。また、近年一気に需要が増え、生産が追いつかないのがアゴ(トビウオ)の煮干ですが、
ほかにもアジの煮干やタイの煮干、サバやサンマの煮干もあります。さらには、製造工程で熱を加え(蒸す)、干したホタテ貝柱や干しあわび、ひじきなども煮干の仲間といえます。

煮干し1

煮干し2

煮干し3

煮干し4

煮干し5

煮干し6

煮干し7

<煮干の味比較>
◎今回は、7種の煮干を味比べしました。前の晩から水につけておき、“水出し”した煮干のだし汁を比べたあと、煮出した味も比べました。
②③⑤は、普段めったに手に入らない変わり種の煮干。⑥と⑦は焼干。煮てから干す煮干に対し、焼いて干すのが焼干だそうです。
④は、煮干しというより、かつお節の製法でサンマを加工した「サンマ節」ですが、煮干しと同様に煮出してだしをとることをすすめているため、今回は味比較に加えました。
(先入観をもたないよう、今回もブラインドで行う予定でしたが、だし汁の中に それぞれの魚が入ったまま比べたので、どの魚の煮干か一目瞭然でした(笑))。

比較1

比較2

比較3

①瀬戸内海産煮干(カタクチイワシ)
200g/527円
②サバ煮干(九十九里浜産)
300g/594円
③アジ煮干(舞鶴産)
300g/1,026円
④サンマ節
300g/896円
⑤タイ煮干(レンコダイ・島根産)
300g/1,404円
⑥アゴ焼干(長崎・平戸瀬戸産)
100g/1,620円
⑦イワシ焼干(カタクチイワシ・青森産)
500g/3,240円
※①は東急ストア、②~⑥は築地「伏高」で購入。⑦はメンバーの私物です。

◉食ラボメンバーによる味の感想は・・・
①昔から食べている、普通の煮干の味。懐かしい味。イワシらしい、力強さ、しっかりした味がある。水出しではそうでもないが、加熱するとやや臭みと苦みが出てしまった。

②水出しのだしの段階からすでに黄色味があり、にごっていて、脂が浮いている。ただ、意外にも臭みはなく、煮干としての鮮度を感じる。
サバの味噌煮やブリ大根系の料理を想像すると、根菜系の煮物に合うのではないか?

③味わい深く、おいしい。青魚の臭みはまったく感じない。青光しているので、やはり煮干自体の鮮度のよさもあるのだろう。
タイの煮干のだし汁よりは魚っぽく、うまみもある。南蛮漬けのように漬け込んだり、酢だけに漬けこんでもよさそう。船場汁にも合いそうな気がする。
火を通しただし汁も、変わらずおいしい。アジとはいえ、ひょっとすると澄まし汁でもいけるかもしれない。

④煮干しというより、やはりサンマ節。燻製香が強く、香ばしさがあるので、水出しすると、舌に燻製臭が残り、苦味も感じる。煮出すと、香ばしさは弱まる。
もし、やわらかくもどすことができれば、身欠きニシンのような使い方ができるかも。あとはこれを切って芯にし、昆布巻きにするとか。いずれにしてもやわらかくもどせれば・・・の話。

⑤水出しはとにかく上品でおいしい。海水と同じ3%の塩分がほどよく、このまま飲み続けられる。臭みはもちろんなし。ところが煮出したらあっさりして、
薄味になってしまい、なぜか臭みも少々出てしまった。アクもものすごく出た。タイのすまし汁はやめたほうがいいかも。タイ飯にしてみるのはどうか。
 
⑥水出しは上品な味。タイとはまた違った味わいのおいしさがある。コクがありながら、後味はすっきり。焼干になっているため、香ばしさも加わっている。
煮出すと香ばしさは弱まり、あっさりした味になるが、それでもおいしい。

⑦焼干の香ばしさが感じられる。だしの味は思った以上にあっさり。鮮度がいいのだろう、イワシ特有の臭みはなし。

“だしの研究”の5回目。今回は、さまざまな「煮干」を比較しました。西日本出身のメンバーにとっては煮物にみそ汁に、子供のころから慣れ親しんだ煮干だしですが、
それでも今回のタイやアジ、サバの煮干やサンマ節は初めて見たそうです。あまりにもレアな煮干しの姿に、みんなでしばらく見とれてしまいました。
タイやサンマ、サバの煮干は、近年“和風だし”がブームのラーメン業界ではひっぱりだこの食材だそうです。
そういえば、行列ができるラーメン屋の特集ではタイの煮干を使っている店、サンマを使っている店・・・などがとりあげられていました。また、アゴの煮干に関しては
某大手コンビニがおでんのだしに使い始めたことで、全国的に人気が急上昇。品不足気味になり、お値段もはねあがってしまったそうです。
では、こういった変わり種煮干を家庭で使う場合は、どんな料理に合うのでしょうか。食ラボメンバーもだしの味をみるまでは想像がつかなかったため、
今月の味比較の結果で、どんな料理に合うかをそれぞれが考えることに。そして来月は、いよいよタイやアジ、サバ、サンマなどのレアな煮干しを使って料理を作ってみることになりました。

◉今回は一般的な煮干を使って料理を作り、みんなでいただきました。

料理中料理中1料理中2

◎煮干入り 野菜のかき揚げ/久保田作
水で戻した煮干しを縦にさき、細切りにした野菜(さつま芋、にんじん、ごぼう)とともに
揚げたもの。広島生まれの久保田さん。子供の頃、家のかき揚げには煮干が入っていることが多かったそうです。根菜と煮干しの相性のよさを改めて実感!
◎大根のこっくり煮/飯塚作
輪切りにした大根を、煮干だしで煮たもの。煮干と昆布で煮ることもあるそうですが、 今回は煮干だけのだし汁で煮たそうです。
煮干のうまみとコクが、そのまま大根にしみこんでいます。味つけはしょうゆとみりんと酒。大根だけを煮るシンプルさもいいですね。
◎じゃが芋と玉ねぎのみそ汁 
じゃが芋や玉ねぎの甘さが引き立ちます。煮干だしのしっかりとした味に負けない具を選ぶのがコツですね。

料理1

料理2

料理3