だしの研究13

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。
塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。
そこで、今年は塩に続き、さまざまな調味料を研究することにし、砂糖、みりん、甘味料、料理酒、酢などの身近な調味料を改めて見直し、比較研究をしてきました。
そして、昨年11月からは「だし」をとりあげています。

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だしの研究⑬
「だし」の研究の13回目。かつお節や昆布などの単体のだし、合わせだし…その他の研究や味比較をしてきましたが、今回のテーマは、先月に続き「魚醤」です。今回は日本の魚醤の中で「しょっつる」にスポットをあてることにしました。

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◉しょっつる 塩魚汁
秋田県など東北地方で作られる魚醤のことで、塩魚汁とも書きます。ハタハタなどの原料魚に塩を加えて漬け込んで作ります。
秋田県では、江戸時代の始めから、冬場に近海で大量にとれるハタハタを利用し、各家庭で盛んにしょっつるが製造されてきました。家庭では風味をよくするからと、麹を用いることも多かったようで、その場合は魚肉と塩、麹を8:1:1になるようにし、桶に塩と魚肉を交互に重ねていき、2~3年かけて熟成させていたようです。

原料魚にハタハタを用いた理由は、11~12月に、秋田沿岸で大量にとれたため。 さらにハタハタはほかの小魚に比べ、淡白で臭みが少ないことや、雌に比べ、雄は単価が安かったため、主にこれを用いました。
しかし、しょっつるは徐々に家庭で作られなくなり、1980年代にはほぼ工場生産に代わりました。業務用は、ハタハタの頭部と内臓、尾を取り除き、30~40%の食塩をまぶし、1年程度かけて熟成させ、最後に60℃以上に加熱したままビン詰めし、好塩性菌を殺菌して完成させます。

1990年代後半になると、原料魚のハタハタの漁獲量が激減する事態が起こりました。それに伴い、ハタハタ漁は一時全面禁漁に。そこでやむなくハタハタ以外の魚(アジやイワシ、サバ、コアミ、コウナゴなど)を用いたしょっつるも作るようになりました。近年になってようやく漁獲量が回復し、再びハタハタだけを用いた本来のしょっつるも作られるようになっています。

◉ハタハタ はたはた 鱩 鰰 雷魚 燭魚
スズキ目、ハタハタ科の魚。東北以北の大平洋側と山陰以北の日本海の、深さ200~400mの水域(砂泥底)に棲息しています。秋田県の県魚にもなっていますが、2015年時点の漁獲量は兵庫県がトップで、次いで鳥取県、秋田県は3位です。体長20㎝ほど。胸びれは薄い黄色で、体の割りに大きいのも特徴です。11~翌1月頃、秋田県の沿岸の水深2~3mの浅瀬に群れをなして押し寄せ、産卵します。

ちょうどこの時期は雪が降り出す季節で、雪の降る前に雷が鳴ることも多いため、ハタハタは「雷(かみなり)魚」とも呼ばれます。白身の魚で、脂質が比較的多いものの、味はあっさりしています。雌は産卵時期にあたるので卵をもっており、「ブリコ」と呼ばれて人気があります。しょっつる鍋に用いられるハタハタも、この子持ちの雌「ブリコ」です。一方、雄は子持ちの雌に比べると単価が安くなるため、しょっつるなどの魚醤用に用いられます。

秋田周辺では、ブリコ(卵)を持っている雌が珍重され、漁期の11月末~翌1月が旬となります。一方、鳥取など山陰では、漁期は9月~翌5月までで、産卵前の脂が乗った3~5月が旬とされ、このハタハタは「シロハタ」と呼ばれ珍重されています。
(参考&出典:小学館「日本大百科全書(ニッポニカ)」)

しょっつる、ハタハタを用いた料理
「しょっつる鍋」は、しょっつる(魚醤)を用いた秋田の郷土料理。主な具材は、生のブリコ(子持ちハタハタ)で、豆腐や長ねぎなどの野菜と一緒に煮込むもの。魚から出たうまみとしょっつる独特の風味がまろやかなコクに変わる、秋田の冬の定番鍋料理です。

また、秋田地方の正月用の魚はハタハタで、とくに「ハタハタ寿司」は正月料理としても欠かせません。“飯鮨”の一種で、下処理し塩漬けにしたハタハタを水に漬けて塩出しし、麹を混ぜた飯と、かぶやにんじんなどの野菜、昆布などとともに桶に詰め、重石をして3~4週間くらい漬け込んだもの。

一方、鳥取県加露地区にも、炒ったおからを酢や砂糖で調味し、塩出ししたハタハタとともに漬け込む「ハタハタ寿司」があります。こちらも飯鮨ですが、秋田地方と違い、漁獲量が増える旬は春。魚の皮も薄くなるこの時期のハタハタを用いて作る、春の“ホーエンヤ祭り”用の祭り寿司です。

ハタハタは白身の魚で、脂質が比較的多いがあっさりしているため、塩焼き、煮つけ、鍋物、田楽、てんぷら、みそ汁、粕汁など、幅広い料理に合います。卵(ブリコ)は、生のまま食べたり、みそ汁、粕汁などにするほか、干物や塩辛など加工品にもなります。

<「魚醤」を使った料理づくり>
「魚醤」を使った料理を作り、みんなでいただきました。今回使用した魚醤は、秋田のしょっつる(諸井醸造 130ml756円)です(写真の前列一番右)。

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◎しょっつる鍋/秋元、来栖作 

秋田県の郷土料理のひとつ。ハタハタと野菜の鍋料理。魚はブリコと呼ばれる子持ちのハタハタを使いますが、東京では手に入らないため、今回は代わりに生タラを使いました。ただ、タラでは脂ののったブリコのうまみが出にくいため、トビウオをたたいたつみれを加え、うまみを出すことにしました。

野菜は白菜、ごぼう、長ねぎ、豆腐、えのきだけ。さらに、同じ秋田の「だまっこ鍋」を参考にして、ご飯で“だまこ”を作ることに。炊いたご飯はすり鉢に入れてすりこぎでたたき、3~4㎝大に丸め、こんがりと焼きました。

鍋に、昆布でとっただし汁、料理酒、水を入れて火にかけ、沸騰したら生タラ、トビウオのつみれを加えます。そして野菜類とだまこを加えたら、しょっつるのみで味つけしました。

味つけに使った魚醤しょっつるの材料はハタハタ。さらに、しょっつる鍋のメイン食材はブリコと呼ばれる子持ちのハタハタ。しょっつる鍋は、まさにハタハタを味わう鍋といえます。残念ながら今回は、生タラと、トビウオのつみれで代用しましたが、味つけに使った魚醤しょっつるのうまみは絶大でした。生タラや白菜、長ねぎ、ごぼうなどの野菜ともよく合いました。さらに本来はしょっつる鍋には入らない“だまこ”ですが、入れてみたらこれがよく合うこと。しょっつるを吸ったご飯のかたまりはうまみ満載で、あとをひくおいしさでした。

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◎野菜のしょっつる浅漬け/秋元、来栖作 

魚醤しょっつるで野菜を漬け込み、浅漬けを作ってみました。今回使った野菜は、白菜、にんじん、大根。切った野菜は水けをふきとり、しょっつる、水、しょうゆ、酢、砂糖、赤唐辛子を入れたジップ付きの保存袋に入れます。袋ごと軽くもんでから空気を抜き、上から重石をしてそのままおくだけ。野菜を薄めに切れば、当日も食べられますが、翌日はさらによく漬かります。

漬け汁に、酢や砂糖を加えるからでしょうか。漬け込んだ野菜に、魚醤のうまみは浸み込みますが、独特の風味(臭み)はつかず、想像していたよリずっとさっぱりした仕上がりになりました。

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◎鰰(ハタハタ)寿司

市販品(200g1,296円 三浦米太郎商店謹製)
秋田県のアンテナショップ「秋田ふるさと館」に冷凍のハタハタ寿司があったので、購入しました。材料表にはハタハタ、米、米麹、食塩、砂糖、みりん、醸造酢、酒、ふのり、にんじん、ゆずと記載されています。下処理し塩漬けにしたハタハタを水に漬けて塩出しし、米と米麹、にんじんで漬け込んだ“飯鮨”です。

同じ飯寿司でも、クセの強い鮒ずしなどと比べれば、ハタハタが淡泊で臭みの少ない魚だからでしょうか。非常にさっぱりした味わいでした。

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“だしの研究”の13回目。今回は秋田の魚醤「しょっつる」をとりあげ、それを使った料理を作りました。関東地方では、ハタハタはなじみのない魚ですが、これで作った魚醤や、その魚醤で味つけをした鍋のおいしさはさすがの味。秋田を代表する鍋料理というも納得です。