油の研究8

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。そこで、「塩」に続き、さまざまな調味料を研究することになりました。
これまでとりあげたのは、「砂糖」「みりん」「酒(料理用)」「酢」など。さらに昨年は1年間にわたってさまざまな「だし」をとりあげました。そして、今年のテーマは「油」。さまざまな油について研究しています。
8回目は、「米油」を取り上げました。

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<米油、こめ油>

◉国産の原材料で作る油として、人気上昇中
米油の原材料は、玄米を精米するときに出る“米糠”。現在JAS(日本農林規格)の基準を満たしたサラダ油の原材料(菜種、大豆、とうもろこし、ごま、サフラワー(紅花)、ひまわりの種、綿実、米(米糠)、ぶどうの9種類)のうち、現在は菜種、大豆、ごま、サフラワー、ひまわり、綿実・・・をはじめ、ほとんどは海外からの輸入に頼っていますが、米だけは国産の原材料でまかなわれています。米なら遺伝子組み換えの原材料を用いる心配がなく、まずその点が安心できるポイントでもあります。

◉当初の名前は「米糠油」、作り始めたのは昭和の始め
米から油を搾りたいという思いは江戸時代からありましたが、米糠に含まれる油分の割り合いは低く、20%未満(ちなみに、ごまは50%以上)。昔ながらの圧搾法で油を搾り出すのは、そう簡単ではありませんでした。しかし、農水省が率先して研究に取り組んだことで、民間の米糠油の製造所は増え、昭和16年頃には100以上、戦後の昭和25年には300弱まで増えましたが、総生産量はあまり増大しませんでした。

◉業務用に使われることが多く、一般家庭には長年普及しなかった
米糠油は、加熱に強く、揚げ物などに用いても酸化しにくい長所があり、昔からせんべい、ポテトチップ、かりんとうなどの加工食品の業界を中心に多く使われてきました。
ところが、家庭向けには一向に普及しないまま。長年、一般スーパーなどでも扱いがありませんでした。
その理由の1つは、総生産量の少なさです。原材料の米糠の劣化が早すぎて、米の精米で出た米糠を保存しておけないこともあり、米の生産地に近い場所に油の製造所がなくては不便なことや、
少量ずつ油にしなくてはならないため、工場の規模を拡大しにくいことも関係していました。
※“米糠油”という名前も、評判はよくなかったようです。

◉加熱に強い、くせがない、和食にも合う油として人気に
その後、“米糠油”という呼び方から“米油、こめ油”に変わったことで、イメージアップ。国産の原材料ということをウリに、家庭向けの米油を製造・販売するメーカーも増え、近年、新たに注目されるようになりました。
以前より、油自体の品質も向上。味はくせがなく、和食を始めオールマイティに使え、炒め物や揚げ物にも向き、さめてもおいしいというもの。最近では、日常使いの油を、サラダ油から米油に替えるご家庭も増えています。

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米油のすぐれた栄養価も注目されています
米油は、脂肪酸のバランスがよいことでも知られています。飽和脂肪酸の割り合いは、ほかの植物油よりやや多いものの、不飽和脂肪酸の「オレイン酸」や「リノール酸」の割り合いはほぼ同じくらい。さらには、抗酸化作用のある「ビタミンE」や、ビタミンEの50倍もの効果があるといわれる「トコトリエノール」、コレステロール値を下げる働きのある「植物ステロ-ル」も豊富。そして、ほかの植物油には含まれない、米油ならではの成分が「γ-オリザノール」。米糠に含まれるポリフェノールの1種で、強力な抗酸化力を発揮し、更年期障害や胃腸神経症などの改善に効果があるといわれています

ほとんどは“溶剤”を用いた製法、「低温圧搾法」の米油は非常に少ない
「低温圧搾法(コールドプレス)」は原材料に圧力をかけて搾る方法で、原材料が持つ風味や栄養素が保たれます。
それに対して「溶剤抽出法」は、溶剤を使って油を溶かし出す方法。圧搾法より速く大量の抽出が可能ですが、高温処理をしなくてはならず、風味はなくなり、品質も落ちてしまいます。
※溶剤(=ノルマルヘキサン)・・・ガソリンに多く含まれている石油系の物質。油脂の洗浄や脱脂にも使われている。
風味や栄養面からも、「低温圧搾法」がいいことは確かですが、米油の場合、原材料の性質上からいっても、低温圧搾法での搾油は非常にむずかしいようで、めったに見かけません。
ごく少数ですが、中には加熱処理を最小限に抑えた「スチームリファイニング」という方法で、溶剤を用いずに精製した米油や、完全に低温圧搾法で抽出した米油もあります。

<米油の味比較>
米油数種の風味や味を比較しました。

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(写真左から、「こめ油(日清オイリオ)」「米油(ボーソー油脂)」「玄米油(オリザ油化)」、「こめ油つや姫(三和油脂)」)

◎こめ油(日清オイリオ)/426円(600g入り)
透明で、少し黄色みのある色。さらっとして、クセのない味。油くさいニオイがない。が、味や風味もない。
◎米油(ボーソー油脂)/424円(600g入り)
透明で、4つの油の中では、もっとも無色に近い色。「こめ油(日清オイリオ)」より、さらにクセがなく、さらさらしている。油くさいニオイはないが、多少米糠の風味が感じられる。
◎玄米油(オリザ油化)/583円(600g入り)
透明で、一番黄色みの濃い色。多少油っぽいニオイと風味があり、4つの油の中では一番重いイメージ。
◎こめ油つや姫(三和油脂)/1,728円(180g入り)                       
色は透明で、少し黄色みのある色。さらさら度合いは「こめ油(日清オイリオ)」や「米油(ボーソー油脂)ほどではないが、うまみが感じられる味。生で使うなら、ドレッシング用などにいいと思う。
原材料や製法にこだわっているが、その分価格が高いので、揚げ油などにはとても使いきれない。
※食味にすぐれた山形県ブランドの米「つや姫」を原材料に使用。今日試飲した4つの米油の中では、唯一「スチームリファイニング」製法で抽出している米油。

<米油で料理を作る>

米油を比較した後、これを使った料理を作り、みんなで試食しました。

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◎鶏から揚げ(しょうゆ味、塩味、)米油とサラダ油で比較/牧野作
鶏モモ肉は大きめの一口大に切る。ポリ袋にしょうゆ、酒、しょうが汁、おろしにんにくを入れ、鶏肉を加えてもみ、30分~半日冷蔵庫に入れて味をなじませる。
別のポリ袋に、しょうゆの代わりに塩を用い(他の調味料は同じ)、塩味ベースを作り、鶏肉を加えてもみ、味をなじませる。
しょうゆ味ベ-スの肉は汁けをよくきり、片栗粉をしっかりまぶして揚げる。
塩味ベースは、あまり汁けがないので、そのまま片栗粉をしっかりまぶして揚げる。

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左列がサラダ油で揚げた様子、右列が米油で揚げた様子

おなじみのから揚げを、米油とサラダ油の2つの鍋(フライパン)で、同時に揚げ、比べてみました。
すると、揚げ始めてまもなく、米油の鍋に入れた肉の周囲からシュワシュワ~っと泡が出始め、続いてパチパチッという元気のいい揚げ音に変わりました。
サラダ油に比べ、米油は、油の温度の上昇時間が速いのでしょうか。その後も早めに香ばしい色がつき、最終的に揚げ時間も短かい、という結果が出ました。
また、透明に近い色の米油でも、加熱すると黄色みが強くなりました。

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左の皿がサラダ油で揚げたもの、右の皿が米油で揚げたもの

◎グリーンアスパラ1本揚げ 米油とサラダ油で比較/牧野作
アスパラに小麦粉を薄くまぶし、米油とサラダ油の2つの鍋(フライパン)で、同時に揚げ、比べてみました。結果は、から揚げとまったく同じ。米油の方がより速く揚がり、より香ばしく、カリッと揚がりました。

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◎鯛のカルパッチョ/塩川作
白身魚(今回は真鯛を使いました)の刺身は薄くそぎ切りにし、平皿(皿には、あらかじめにんにくをすりつけておく)に1枚1枚広げて並べる。塩をふり、冷蔵庫で冷やしておく。食べる直前に取り出し、あさつき(小口切り)と大葉(せん切り)をのせ、
米油を弱火でじっくり熱してからこれに回しかける。レモンを添える。

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オリーブ油をかけることが多い魚のカルパッチョですが、今回は米油を熱してかけてみました。米油はさらっとしてクセがないとはいえ、オリーブ油に比べれば際立った風味はほとんどなく、
正直、あまり期待していませんでした。
ところが食べてみると、むしろ鯛そのものの味やうまみが引き立つ気がして、発見でした(ただし鮮度のいい刺身に限られると思います)。

◎グリーンサラダ 米油ドレッシング/塩川作
レタス、ミニトマトのシンプルなサラダ用に、米油を用いたフレンチドレッシングを作りました。米油2:酢1(米油に合わせ、酢も米酢を用いました)、塩、こしょう。

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さらっとしてクセのない米油は、ドレッシング用の油にも向いていると思います。今日はフレンチドレッシングにしましたが、しょうゆなどを加えた和風ドレッシングなら、和野菜を使ったサラダにも合いそうです。
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“油の研究”の8回目。今回は「米油」をとりあげました。
国産の「米糠」を原材料にして作られることや、米糠に含まれる栄養成分がすぐれていることから、1~2年前に急に注目され始め、人気が高まっている「米油」。
ただ、油の製法をよく調べてみると、現時点ではほとんどの米油が、サラダ油などの製法と同じように、溶剤を使用して抽出する“精製油”だということがわかりました。中にはごく少数ですが、化学的なプロセスをなくし、風味や栄養分をできるだけ残した「スチームリファイニング製法」で抽出した米油もありますが、揚げたり炒めたりの日常使いの油にするには、あまりに価格が高すぎて、一般家庭では使いきれないな、というのが正直な気持ちです。

数種の米油の味や風味を比較してみましたが、大きな差はなく、残念ながら際立った個性は感じられませんでした。さらっとしてクセがないという特徴も、精製油だからという結果でもあり、少々残念な点でした。
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とはいえ、サラダ油と同条件で揚げ物をして比べてみると、揚げる際の温度上昇や、揚げ時間、色づき方はあきらかに違いがあり、米油のほうがよりカリッと揚がる、という結果も出ました。今回作った「魚のカルパッチョ」や、サラダ用ドレッシングなどに、生で米油を使った場合も、際立った風味がないぶん、素材そのものの味やうまみがわかり、これらの結果はとても収穫でした。