酢の研究4

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。
塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。
そこで、今年は塩に続き、さまざまな調味料を研究することにし、砂糖、みりん、甘味料、料理酒などの身近な調味料を改めて見直し、比較研究をしてきました。
そして、7月からは「酢」をとりあげています。

6.酢の研究④
今月は「酢」の研究の4回目、最終回です。総まとめとして、さまざまな酢を使った料理を作り、みんなで試食することにしました。
その前に、いつものようにお勉強。資料をもとに“酢を使う料理の特徴や効果”を学び、再確認しました。

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<酢の効果>

酢のものやドレッシング以外にも、酢を料理に使ったり、下ごしらえに使うと、どんな効果があるのでしょうか。

◎肉をやわらかくする

肉をマリネしたり、酢を加えて煮込むと、たんぱく質分解酵素によって、肉がやわらかくなります。

◎脂っこさをやわらげる

酢豚、手羽先や鶏モモ肉の酢煮…など、脂身の多い肉の調理に酢を使うと、酢が油の粒子を分解するため、脂っこさをやわらげる働きがあります。

◎塩のとり過ぎを防ぐ

酢やかんきつ類の酸味には、塩味を引き立てる効果があるため、酸味を上手に使うと、少なめの塩でも料理の味がひきしまり、塩のとり過ぎを防げます。

◎魚の臭みをとる

魚を酢で洗ったり、酢締めにしたりすると、魚の臭みのもと(トリメチルアミン)に作用して、臭いをもとから断ちます。

◎変色を防ぎ、白い仕上がりに

酢には酸化酵素の働きを抑え、変色を防ぐ働きがあるため、アクの強い野菜を酢水につけたり、酢を加えた湯でゆでると白く仕上がります。

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次に、酢は酢でもワインビネガーの場合はどうなのでしょうか。食ラボメンバーの間でも、身近にありながら案外使い分けがむずかしい、米酢との違いがわかりにくい・・・・という声もあったため、その特徴や効果を学ぶことにしました。ワインビネガーはワインからつくられる果実酢なので、米やさまざまな穀類から作られる酢とは味も、特徴や効果も違います。
たとえば米酢と比べると、酸度は高く、フルーティーなぶどうの香りとキリッとした味わいが特徴。
また、糖質が少なく、カロリーも低いので、ヘルシーなお酢といえます。

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ワインビネガーには白と赤があります。白ワインビネガーは、果皮や果肉、種子などを除き、果汁のみを熟成させる白ワインからつくられ、フルーティーでさわやかな酸味、すっきりとした口あたりが持ち味です。魚料理のソースをはじめ、野菜や魚介類のサラダ、マリネやピクルスに合います。白だからやはり魚料理向けかと思いきや、そうは限りません。鶏肉や鴨などの肉料理には白ワインビネガーを用いることも多いからです。

一方、赤ワインビネガーは黒ぶどうや赤ぶどうを原料に、果実を丸ごとアルコール発酵させた赤ワインからつくられ、赤い色とコクのある味わいが特徴。肉料理のソースをはじめ、シチューやカレーなどの煮込み料理の隠し味に使うと、赤ワインの風味が料理を引き立ててくれます。またドレッシングに使うと、鮮やかな赤が料理のアクセントになります。魚料理でもサーモンや青魚には赤ワインビネガーが合います。

◎赤ワインビネガーにはポリフェノールが豊富

ぶどうを皮ごと搾汁してつくられる赤ワインビネガーには、赤ワイン同様にポリフェノールが豊富に含まれます。ポリフェノールといえば抗酸化力。老化を進める活性酸素を除去し、動脈硬化の原因になるコレステロールの酸化を防いだり、心筋梗塞や脳卒中の予防にも効果のあることがわかっています。

◎血糖値の急上昇をおさえる

血糖値の急激な上昇スピードを数値化したものは「GI値」といい、糖尿病予防にはできるだけGI値の低い食品を選ぶことが大切といわれています。
調味料のGI値を比較すると、砂糖(上白糖)109、塩 10、しょうゆ 11、みそ 33。酢のGI値は米酢8に対し、ワインビネガーは2と、驚くほど低いのが特徴です。

◎疲労回復や高血圧予防に効果的

ほかの酢にはなく、ワインビネガーならではの成分に「酒石酸」があります。酒石酸には疲労回復や整腸作用があり、酒石酸カリウムは体内のナトリウムと結びつくので、高血圧予防にも効果があります。

<酢を使った料理>

「エビの香味揚げ 甘酢あん」と「白菜と乾物の漬物風」、さらに「里芋としめじ、ブドウのサラダ」、「マコモダケと姫リンゴのサラダ」を作ってくれたのは長島さん。
香味揚げは、酒としょうが汁で下味をつけたエビに衣をつけて揚げ、黒酢を使った甘酢あんをからめたもの。卵と多めの片栗粉(大さじ4~5)で硬めの衣を作り、これを開いたエビにつけて揚げます。玄米黒酢、うす口しょうゆ、紹興酒、砂糖、エビのナムプラーのほか、しょうが、にんにく、赤唐辛子、これを合わせた甘酢あんでエビをサッと煮からめます。エビの大きめの衣がポイントですね。甘酢あんがほどよくしみておいしい。

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次に「白菜と乾物の漬物風」。白菜とたけのこは細切りにし、白菜は2%の塩でしんなりさせたら水けをしぼり(洗わない)ます。乾物(干ししいたけ、きくらげ、ザーサイ、干しエビ)は戻しておき、細切りにして、白菜やたけのことともに油で炒めます。そして玄米黒酢50cc、しょうゆ、酒、砂糖を合わせて熱し、熱々をジャ~ッとかけてあえればできあがり。見るからに食欲をそそる一皿。そのままおかずで食べてもよし、ご飯にのせたり、麺とあえてもよさそう。「これは私も大好きで、それこそどんぶりいっぱいでも食べられてしまいます」と長島さん。その通り、食べ始めると止まらなくなる味でした。

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「里芋としめじ、ぶどうのサラダ」。里芋はカドがとれ、ねっとり感が残る程度にゆでてつぶし、ゆでたしめじと、そしてぶどうをサッとゆでて加え、ディルを加えたりんご酢とオリーブ油のドレッシングであえます。えっ、里芋?えっ、ぶどう?と最初は思いましたが、これが合うんです。じゃが芋では出ないねっとり感とぶどうやりんご酢の自然な甘みがなんともいいハーモニーをかもしだしていました。

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「マコモダケと姫リンゴのサラダ」は、乾いりして塩をふったマコモダケと、姫リンゴを、玄米酢、オリーブ油、パセリ、つぶした松の実、塩、こしょうのドレッシングであえるだけ。姫リンゴ独特の食感とマコモダケが、こちらもおもしろい取り合わせでした。

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次に、「緑の野菜寿司」とバルサミコ酢を使った「バルサミコ酢豚」を作ってくれたのは、飯塚さん。
緑の野菜とはクレソン、ルッコラ、セロリ、きゅうり、ミント。すし飯にはちりめんじゃこを混ぜ込み、松の実を散らしたものです。
少々苦みのある洋野菜のルッコラやクレソン、セロリが、すし飯と意外なほどよく合って驚かされます。
さらにミントの香りもいいアクセント。すし飯に混ぜ込んだちりめんじゃこや松の実とも不思議なくらい違和感がありません。
すし飯の酢は、今回は柿酢と米酢を使いましたが、白ワインビネガーなどを使っても合う気がしました。
また、上にパルミジャーノ・レジャーを削ったり、EX.バージンオリーブ油を少々ふりかけても合いそう・・・・といった感想も寄せられました。それにしても、個性的な洋野菜やハーブにまで違和感なく合ってしまうのが寿司飯。“寿司”というのは実にふところが広いですね。

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「バルサミコ酢豚」の具は、豚肉、玉ねぎ、パプリカ、れんこん。黒酢を使った酢豚はすっかりおなじみになりましたが、バルサミコ酢を使う酢豚は初めてというメンバーばかり。今回は少々ぜいたくなマルピーギのバルサミコ酢だったこともあって、「黒酢より甘みとコクが強いので、砂糖を使う必要がまったくなかったんです」と飯塚さん。
酸味が強めのバルサミコ酢を使う場合は煮詰めて酸味をとばしてから使うことをおすすめします。

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「ズッキーニのスカペーチェ」、「かぼちゃのアグロドルチェ」、「いわしのサオール」と、白ワインビネガーを使ったイタリアの代表的な前菜3種を作ってくれたのは秋元さん。
スカペーチェはもともとナポリの郷土料理。フランスでいうところのエスカベシュ、スペインのエスカベーチェと同じで、小魚を揚げてからビネガーでマリネする料理です。
ナポリあたりでは魚だけでなく、なすやズッキーニなどの野菜でもよく作り、このズッキーニのスカペーチェも代表的な野菜料理の1つ。
輪切りにしたズッキーニを揚げ、揚げたてを白ワインビネガー、オリーブオイル、ミント、塩、みじん切りにんにくを合わせた中につけます。
ミントの風味がさわやかなアクセント!さらに、バルサミコを少々加え、コクと甘みを出したのが、今回の秋元流スカペーチェです。
お気づきでしょうか。この料理、ほんとは夏の料理です。今は、もう秋~~♪なのですが、ビネガー料理3種の比較のために、特別に作ってもらいました。

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続いて、シチリアでよく食べられるアグロドルチェ。アグロドルチェは甘酸っぱいという意味で、シチリアの調理法の1つ。
一般に、調理に砂糖を使わないイタリア料理ですが、珍しく使うのがアラブの影響を受けたシチリア。
このアグロドルチェも、砂糖を少々加えたワインビネガーでマリネするのが特徴です。
スカペーチェ同様、こちらもミントの葉がさわやかなアクセントになっています。
今回は揚げたかぼちゃをマリネしましたが、ほかにカポナータを作るときも砂糖を使うそうです。

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3つめは、ヴェネツィアの郷土料理サオール。南蛮漬けにも似ていることから、日本でもよく知られていますが、実はこの2つは似て非なる料理。
揚げた魚を合わせ酢に漬け込むところは同じですが、南蛮漬けに使う玉ねぎは生で加えるのに対し、サオールは大量の玉ねぎを弱火で20分くらいひたすら炒め、その玉ねぎとレーズンで甘みを出すのがポイントです。また、南蛮漬けの合わせ酢には砂糖も加えますが、サオールには使いません。米酢よりワインビネガーのほうが多少酸味が強いとはいえ、玉ねぎとレーズンの自然の甘さで酸味もやわらぎ、酸っぱさはほとんどありません。サオールはもともとはヴェネツィアの漁師料理で、漁に出るときに持っていった保存食だったとか。作ったその日より、翌日の方が味がしみてさらにおいしくなるそうです。

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「ズッキーニのスカペーチェ」、「かぼちゃのアグロドルチェ」、「いわしのサオール」、3つとも揚げてからマリネするところは共通ですが、その味つけや、ワインビネガーの酸味を調整する工夫は地方によってちょっとずつ違うところが、実におもしろかったです。そして、これらの料理は、米や穀類から作る酢より、やっぱりワインビネガーの方が合うなぁと感じました。

「鶏手羽と大根の酢煮」と「ドライフルーツのりんご酢漬け」を作ってくれたのは牧野さん。
焼きつけた手羽元、大根、つぶしたにんにくを穀物酢、砂糖、水で汁けがなくなるまで煮たそうです。
“酢煮”は昔からある人気の定番煮物。名前の通り、酢を多めに加えて煮るので、酢の働きで肉が軟らかくなるのと、肉の脂っこさをやわらげる働きもあります。さらに、一緒に似た大根も、鶏肉のうまみをしっかり吸って、やわらかくおいしく煮えます。「酢で煮て軟らかくなった肉は、お箸でもかんたんにほぐれますよ」と牧野さん。
上にのせたのはパクチーですが、お好みで万能ねぎでもいいそうです。

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もう1品は、ドライフルーツ(レーズン、イチジク、マンゴーなど)にりんご酢をひたひたに加えて一晩つけこんだもの。そのままでも食べられるドライフルーツですが、酢につけこむとふやけて軟らかくなるのがいいですね。「ただつけこむだけの簡単さ。そのまま食べたり、ヨーグルトやアイスクリームにのせてもいいですし、カレーの薬味にするのもおすすめです」と牧野さん。

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というわけで、酢の研究の最終回。メンバー作の酢の料理は、どれもおいしく、そしてオリジナリティにあふれていました。そして今回、イタリアの地方料理でワインビネガーの使い方を学べたのもよかったです。非常にためになりました。