酢の研究2

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

もともと「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。そしてその第1弾が“塩の研究会”。塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。そこで、今年は塩に続いて、さまざまな調味料を研究することにしました。

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6.酢の研究②
2 月の食ラボから、砂糖、みりん、甘味料、料理酒などの身近な調味料を改めて見直し、
比較研究をしてきました。そして、先月からは「酢」をとりあげています。
今月は、「酢」の研究の 2 回目。前半は、“黒酢”の勉強と味の比較研究を行い、後半はドイツ式、
オイルや酢の量り売りのお店で知られる「VOM FAS TOKYO(フォムファス東京)」さんが
食ラボのためにビネガーのセミナーを開いてくださいました。

まず前半は、資料をもとに黒酢の起源や歴史、製法を勉強した後、中国産の黒酢2種と日本産の黒酢2種の味比較を行いました。

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日本で黒酢がつくられたのは今から約 200 年前の江戸後期。現在の鹿児島県霧島市福山町が最初です。
一般の酢がつくられたのが4~5世紀といわれますから、ずいぶん遅いスタートです。
この地で黒酢づくりが始められ、根づいた理由は、当時の薩摩藩の政策と大きく関わっていました。
福山の港は重要な物流基地だったため、多数の米が集まったこと。
また、この地にはまろやかで美味しい湧き水もあり、気候や環境も黒酢づくりに最適。
当時の薩摩藩が力を入れていた薩摩焼きの容器も使用できる・・・等、
さまざまな条件が重なり、黒酢づくりに力を注いだといわれています。
この黒酢の材料は玄米。薩摩焼きの大きなカメに、混ぜ麹、蒸し米、地下水・振り麹を
入れて仕込み、太陽熱だけで自然に発酵させる“静置発酵法”を用いています。
さらに、発酵の状態を職人(醸造技師)が1つ1つチェックしながら 1 年~3 年長期熟成させて
できあがります。酢の色が黒くなるのは、アミノ酸と糖の化学反応によって色が褐色に変化するからで、
熟成期間が長ければ長いほど色が濃くなり、アミノ酸の含有量も増え、味に深みが
出てまろやかになります。

一方、中国の黒酢といえば、香醋(=酢)の名で知られます。
四大産地は山西省、江蘇省鎮江市、四川省保寧府、福建省で、黒褐色の酢ですが、
原料は主にもち米が使われます(地方によっては玄米、コーリャン、麦、雑穀などの場合もあります)。

日本の黒酢はカメの中に玄米、水、麹菌を入れた後、糖化、アルコール発酵、酢酸発酵の3工程が
カメの中で行われるのに対し、香醋はもち米から酒をつくり、もみ殻を加えて酒を吸わせ、
それをかき混ぜて発酵させ、褐色になったもみ殻を取り出し、水に浸して香醋の成分を抽出、
熟成させてつくります。このもみ殻を加えて発酵させるやり方は“固形発酵法”と呼ばれています。
また、香醋の場合、熟成期間で呼称が変わるのも特徴で、1年未満のものは陳醋と呼ばれ、
一般酢とされますが、3年以上熟成されたものは老陳醋と呼ばれ、お祝い時やお客を
もてなす場合などにふるまわれるとか。というわけで、黒酢といっても日本の黒酢と中国の黒酢では
原材料もつくり方も違うことがわかりましたが、味はどう違うのでしょうか。
4種類の黒酢を試飲したあとで、日本の黒酢1種と中国の黒酢1種で、シューマイのタレと黒酢酢豚を
比較してみました。

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黒酢 A
国産。鹿児島の醸造メーカーの製品。原材料は米。静置発酵法&2 年以上長期熟
成。360ml 1,620 円(500ml 換算 2,160 円)。

黒酢 B
国産。岐阜の醸造メーカーの製品。原材料は米。360ml 516 円(500ml 換算 715円)。

黒酢 C
中国産(江蘇省鎮江市)。香酢(香醋)。北京で購入したもの。原材料は米、小麦ふすま・・・他。
価格は不明。

黒酢 D
中国産(山西省)。老陳酢。固形発酵法&3 年熟成。日本のメーカーが輸入・販売し
ている。原材料はトウモロコシ、大麦、エンドウ、塩、山椒など。500ml 648 円。

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試飲、試食後の食ラボメンバーの感想は次の通りです。

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◎味の比較(そのまま試飲)

・黒酢 A
まろやかでツーンとこなく、おいしい。さわやかな味。かんきつ系の酸味を感じる。麹
のうまみが広がる。黒酢といえどもくせがないので、和食にも合う気がする。
ただ非常にお高いので、普段の料理には使いきれない。ドリンク用にいいと思う。

・黒酢 B
酸味はあるが、酢と思うと甘い。名前は中国っぽいが、国産なので安心感がある。
可もなく不可もない味。中国の黒酢のコクや個性は感じられない。素直な味で、
価格がこなれているので、普段の料理には使いやすそう。

・黒酢 C
酸味は強くないが、独特の味わい。しょっぱさと苦みが強い。
カラメルの味を感じてしまうが、カラメルを添加しているのか?
安物のしょうゆのような味がある。

・黒酢 D
苦みが強く、黒酢Cよりさらに独特の風味がある。コクや深みも感じる。
いろいろなスパイス(丁子その他、薬草系?)が入っているような複雑な味がある。
麦みそを食べたあと味のような感じもある。日本の黒酢Aとはまったく異なる味。
黒酢Bとも違う。

◎味の比較1 シューマイのタレで比較
・黒酢 B(国産)のタレ
色はほぼ中国の黒酢と同じだが、シューマイのタレとしてはさっぱりして、
くせがなく、黒酢っぽくなかった。物足りなかった。シューマイの味に負けていた。
今回は黒酢だけで食べたが、しょうゆやからしを加えたタレにすれば合うかもしれない。

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・黒酢 D(中国産)のタレ合う!今日のシューマイに非常によく合い、実においしい。
黒酢だけを味見したときに感じた苦みは全く気にならない。シューマイの味に負けないタレのコク!

◎味の比較2 黒酢酢豚で比較
・黒酢 B(国産)を使用
黒酢というより、三杯酢であえたような味になる。やさしい味わいになるが、野菜の青くささを感じた。
なすは苦みを感じてしまった。黒酢がまろやかな分、甘く感じてしまうので、
合わせ調味料の砂糖の分量を少なくするなど、調整した方がいいと思う。

・黒酢 D(中国産)を使用
普通の酢では出ない、独特のコクと風味が出て、これぞ黒酢酢豚という味になる。
黒酢の風味や味が、肉や野菜のクセを消していると思う。

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続いて後半の「フォムファス東京」さんのセミナーでは、さまざまなビネガーを紹介していただきました。
アップル、ラズベリー、クランベリー、カラマンシー、マンゴー、デーツなど、
果汁 100%から作られた各フルーツビネガーや、熟成期間の異なるバルサミコ酢、変わったところでは
ハチミツを原料にしたビネガーなどもあり、みな興味津々。計 14 種類ものビネガーをテイスティングすることができました。

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さらに、これらのビネガーを使ったサラダやディップ、チキンソテーなどの試食では、料理に使うヒントを教えてもらいました。
たとえば、細長くすりおろしたにんじんをビネガーやオイルであえるサラダのキャロットラペ。
このビネガーをアップルビネガーにしてみると、あまずっぱいフルーツの風味がにんじんとよく合い、
ワンランクUPの味に。また、チキンをソテーしたあと、フォレスト(野生)ラズベリーのビネガーをふりかけるだけで、
チキンの味がガラリと変わりました。
ハーブ類とはまた違う、フルーツビネガーならではの華やかな香りや風味が加わるからでしょうか。
今までは、フルーツビネガーと聞くとどうしても“飲むビネガー”のイメージが強かったのですが、
普段の料理にも、もっと気軽においしく使えそうです。

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