発酵、発酵食の研究5

『発酵、発酵食をもっと知ろう!』

今年は「発酵、発酵食」がテーマ。さまざまな角度から“発酵や発酵食品”そして“発酵食品を使った料理”を研究しています。

5回目は、“乳酸菌と乳酸発酵”を取り上げ、座学とともに、乳酸発酵による漬け物の1つ「ザワークラウト」をみんなで作りました。また、「日本各地のご当地汁」シリーズの4回目は“沖縄のみそ汁”。沖縄には他の地域では見かけない「みそ汁定食」があるため、その定食で登場する“みそ汁”を作って試食しました。

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左から、手作りのザワークラウト2種(漬け込み後5日目、20日目)。右は市販品(瓶入り、原産国ドイツ)

<乳酸菌、乳酸発酵とは・・・>
◎人に有用な働きをする“乳酸菌”
ぶどう糖や乳糖など糖類(炭水化物)を分解して乳酸を作りだす菌で、細菌の一種。現在わかっているものだけで300種もあります。乳酸菌は、人にとって最も身近で、有用な働きをする細菌ともいえるでしょう。また、乳酸菌には植物性乳酸菌と動物性乳酸菌があります。植物性乳酸菌は、穀物や野菜などの糖分を養分とする菌で、動物性乳酸菌は主に乳糖を養分にしている菌です。

◎乳酸菌が関わる発酵“乳酸発酵”
乳酸菌が糖から乳酸を作ることをいいます。乳酸発酵によってできる食品の代表がヨーグルトやチーズ。ほかにもザワークラウト、キムチ、漬け物、なれずし、甘酒、泡菜、メンマ・・・などが知られます。
また、みそやしょうゆ、日本酒の生産過程にも、麹菌のほかに乳酸菌が関わっています。
※漬け物類のうち、ぬか漬け、キムチ、ザワークラウト、泡菜などは植物性乳酸菌による発酵食品ですが、浅漬けや砂糖漬けは発酵食品ではありません。

◎乳酸菌で腸内環境を整える
人の腸内には非常の多くの細菌(腸内細菌)が棲みついています。その種類は数百種、数は100兆個といわれ、その勢力バランスが腸の健康状態に大きな影響を与えているといわれています。このうち、「善玉菌」の代表が乳酸菌やビフィズス菌、「悪玉菌」の代表がウェルシュ菌で、「善玉菌」と「悪玉菌」はその領土を拡げようと、絶えず戦っています。
※多種多様の腸内細菌の群れは、植物が群生している様子に似ていることから、“腸内フローラ”と呼ばれています。

ビフィズス菌は乳酸菌の仲間で、もともと健康な母乳栄養児の糞便から発見されました。ビフィズス菌は病原性細菌や大腸菌などの増殖を防ぎ、腸内環境を整えると考えられていますが、腸内のビフィズス菌の数は加齢とともに減少してしまうこともわかっています。乳酸菌は、摂っても腸の外に毎日排泄されてしまうため、腸内環境を改善し、整えるためには、毎日摂り続けることが大切です。

◎乳酸発酵の漬け物① 泡菜(パオツァイ)
中国・四川地方に昔から伝わる、野菜の塩水漬け。塩水に漬けることで、野菜についていた乳酸菌の働きで自然に乳酸発酵が起き、香りとうまみが増加してできる漬け物です。発酵して酸味が強くなると、他の菌は繁殖できず、乳酸菌が野菜の栄養分を分解してアミノ酸をどんどん増やし、うまみも強くなります。泡菜には、生きた乳酸菌や食物繊維が豊富に含まれるため、消化を助け、おなかの調子を整えます。

四川地方は内陸部にあって海に面しておらず、高温多湿の気候が特徴です。また、野菜は豊富にとれますが、水産物資源に乏しく、高温多湿ゆえ、食材を生で保存するのはむずかしかったため、漬け物文化が発展しました。野菜を漬け物にすることで保存性がアップ。発酵食品ならではのうまみも栄養もアップするため、一石二鳥。
※四川地方には漬け物以外にも、空豆と唐辛子を原料にした「豆板醤」や大豆を塩漬け発酵させた「豆鼓」などの発酵食品があります。

四川料理 嶋 典雄シェフより
泡菜の作り方はいろいろありますが、オーソドックスなものをご紹介します。
水1㍑ 紹興酒 200cc 唐辛子 5本 花椒 20 粒を加熱し、沸いたら塩 36g(3を溶かして冷ます。野菜の端切れを浸して泡が出るまで密閉し、常温保存。泡が出たら、切った野菜を漬ける。野菜は先に干してから漬けた方が漬かりやすく、うまみも増えます。漬ける時間は野菜の大きさにより変わります。細切り、薄切りは4~6時間。きゅうり、なすは丸のままなら24時間くらい。塩分濃度は、季節と漬け時間によっても変えてくだください。また、3回ほど漬けたら塩水が野菜の水分で薄くなるため、最初に作った濃度の発酵塩水で塩分を補充してください。お酒も香りの好みで試してみてください。大根、にんじん、カリフラワー、かぶ、ブロッコリー、白菜、キャベツ、プチベール・・・なんでもおいしいです。

◎乳酸発酵の漬け物② ザワークラウト
キャベツに塩を加えて漬け込んだもので、代表的なドイツ料理の1つ。ドイツ語で“すっぱいキャベツ”という意味ですが、ピクルス(酢漬け)とは異なり、酢は一切用いません。キャベツの表面についている乳酸菌の働きによって発酵(乳酸発酵)が進み、酸味が生まれたものです。

もともとは古代ローマ時代(1世紀)に原型ができたといわれていますが、現在のような形で定着したのは16~18世紀にかけてのヨーロッパです。以後、ドイツ以外でもフランス(アルザス地方)、イギリス、オランダ、ポーランド、ロシアなどの国々で広く親しまれてきた伝統料理。また、ドイツ移民の多いアメリカやカナダなどでもよく食べられてきました。 ※フランス語ではシュークルート、英語ではサワークラウト、オランダ語ではズールコール、ポーランド語ではキショナ・カプスタ、ロシア語ではクヮーシェンナヤカプースタ。
漬け込むことで、保存食としても活躍。とくに冬が寒い地方においては、不足しがちな生野菜の代わりにビタミン補給の役割も果たしてきました。ビタミンUやビタミンC、カルシウム、食物繊維などの栄養も豊富。加熱しないため、ビタミンCが壊れないほか、発酵によってキャベツのもともともつ栄養分がさらに増加します。基本の材料はキャベツ(せん切り)と塩(キャベツの重さの2%程度)ですが、風味づけや保存性を高めるために、キャラウェイシードやこしょう、ローリエ、ディル、クミンシード、ジュニパーなどのスパイスを加えることも多いようです。また、塩と一緒に白ワインを加えるところや、キャベツを丸ごと漬け込むところ(ルーマニアからブルガリアにかけて)もあります。

<今月のご当地みそ汁>
◎沖縄 みそ汁

沖縄の食堂の定番メニューに必ずあるのが「みそ汁定食」!他の地域では、たとえば「しょうが焼き定食」や「焼き魚定食」を頼めば、ご飯とみそ汁がついてくるのが普通ですが、沖縄には、大きなそばどんぶりで出てくる、みそ汁が主役の定食があります。

6月原稿 発酵⑤ 20190613
西表島の某食堂の「みそ汁定食」

みそ汁の具材は店によっても違いますが、とにかく具だくさん。人参やもやし、青菜、大根などの野菜がたっぷり入るほか、肉類(豚肉、スパム)や島豆腐(または、ゆし豆腐)、わかめやかまぼこなども入っています。さらに小鉢の生卵は、汁の真ん中に割り落とすのだとか。みそ汁というより、まるで鍋料理!これにおかずか小鉢が1~2皿とご飯。ボリュームも栄養もたっぷりの定食です。

<料理を作る>
ザワークラウトと、ザワークラウトを使った料理を作り、みんなで試食しました。今日作ってすぐには食べられないので、料理用には、あらかじめメンバーの久保田さんが作ってくれたザワークラウトと市販品(瓶詰)を用いることに。作ったザワークラウトは、メンバーみんなで分けて持ち帰り、それぞれが家で発酵、熟成させることにしました。

◎ザワークラウト/秋元、鈴木、長島、牧野作
材料 ※キャベツ1㎏に対し、塩(粗塩)2%が基本の分量
キャベツ6個(約7㎏)、塩(粗塩)140g、ローリエ(ちぎる)3枚分、キャラウェイシード(好みで、黒粒こしょうでも)適量
※その他用意するもの 瓶、重石、ラップ

作り方
下準備:瓶やボウル、まな板や包丁をすべて熱湯消毒し、よく乾かしておく。
①キャベツは汚れた外葉を取り除き、丸のまま外側だけ洗う。水気をしっかりふきとってから、太めのせん切りにする。ボウルに入れ、分量の塩とキャラウェイシードを加え、水気が出るまでもむ。
※カビの発生を防ぐため、キャベツには水気を残さないこと。
②①を瓶に詰める。スプーンなどでギュッギュッ押しながら、すきまができないようにし、汁ごと詰める。キャベツの上面(瓶の内側)にぴたっとラップをのせて空気が入らないようにし、重石をのせ、軽くフタをしてそのまま1日置く。
※発酵するので、フタは固くしめすぎないこと。
※瓶でなく、ジップ袋に詰める場合は、キャベツを汁ごと詰めたら、できるだけ袋の中の空気を抜いてジップを閉じ、袋を寝かせて、上に重石をのせ、そのまま1日おく。その間も袋がふくらむので、ときどき開けて空気を抜き、再びジップを閉じる。

③キャベツの水が上がってきたら重石を取り除いて2~3日(冬場は1週間)おく。ときどき様子を見て、泡が出始めたら冷蔵庫へ入れて保存する。
※夏場は2週間くらいで味がのるが、おいしくなるのは1か月くらいから。

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◎アルザス風シュークルート/飯塚作
材料(8~10人分)
ザワークラウト800g、塩豚500g、ベーコン400g、ソーセージ10本、玉ねぎ(薄切り)大1個分、にんにく(皮つきのまま)1かけ、ラード50g、白ワイン2カップ、水1ℓ、ローリエ1枚、塩、こしょう各適量、粒マスタード

作り方
下準備:前日に塩漬け豚を作り、冷蔵庫で一晩保存する。
(豚背ロース肉(塊)500gに粗塩10g(肉の2%)をまぶし、手でよくもみこんで塩をすりこむ。ラップでぴっちり包んで冷蔵庫へ。)
①鍋に塩漬け豚とたっぷりの水を入れて火にかけ、沸騰したら弱火で5分ゆでて火を止める。そのまま15分おいて肉を取り出す。
②別の鍋にラードと玉ねぎを入れ、弱火で20~30分炒めたらザワークラウトとローリエを加え、白ワインを加える。アルコール分を飛ばしたら分量の水を加え、1時間ほど蒸し煮する。
③②の塩豚、ソーセージ、ベーコンを丸ごと加え、フタをして15~20分蒸し煮し、塩、こしょうで味を調える。塩豚その他を取り出して切り分け、ザワークラウトとともに器に盛り、粒マスタードを添える。

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シュークルートは、フランスのアルザス地方の名物料理。現地では、大量のザワークラウトと一緒に、豚のすね肉や、骨付きの塩漬け背肉、ベーコンやハムの塊、数種類のソーセージを丸のまま、白ワインと水(またはブイヨン)でダイナミックに煮込みます。今回、食ラボでも、塩漬けした豚の背ロース肉(塊)やベーコン(塊)、ソーセージをザワークラウトと一緒に煮込みました。「先に、玉ねぎをラードで20~30分じっくり炒めてから、白ワインその他で煮込みます。また、塩漬け豚やベーコン、ソーセージは、うまみを逃がさないよう、丸のまま煮て、盛り付ける直前に切り分けました」と飯塚さん。

◎ザワークラウト入りポテトサラダ/久保田、鈴木作
材料(4~5人分)
ザワークラウト300g、じゃが芋大6個、パセリ(みじん切り)適量、A(マヨネーズ、サワークリーム各大さじ5)、塩、こしょう少々

作り方
①じゃが芋はゆでて皮をむき、ボウルに入れて粗くつぶす。
②汁気をきったザワークラウトを①に加え、Aとパセリも加えて混ぜ合わせ、塩、こしょうで味を調える。

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あえ衣に、マヨネーズとともにサワークリームを加えるのがポイント。ザワークラウトの酸味がやわらぎ、やさしい味わいのポテトサラダになります。

◎今月のご当地みそ汁 沖縄 みそ汁/久保田作

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沖縄産のみそ 左から、麦みそ(宮古島)、米みそ(沖縄本島)、油みそ。

※油みそは、アンダンスー、アンダミシュなどとも呼ばれ、みそと豚肉などを炒め、砂糖を加え甘めに仕上げたなめみその1種。みそ汁には使用せず、ご飯にのせたり、おにぎりの具にしたりする。今日のみそ汁に使用したのは、上の米みそ。

材料(10人分)
スパム(ランチョンミート)1缶(340g)、島らっきょう7~8本、島豆腐大1丁、かまぼこ1本、わかめ適量、青菜1わ、にんじん大1本、もやし1袋、だし汁(水2ℓ、昆布、かつお削り節各適量)、みそ大さじ5

作り方
①スパムは拍子木切り、かまぼこ、島らっきょうは薄切り、にんじんは短冊切り、わかめは一口大、青菜は3~4㎝長さに切り、島豆腐はさいの目に切る。
②だし汁とにんじんを入れて中火にかけ、その後、島らっきょう、わかめ、豆腐、青菜、もやし、かまぼこ、スパムも加え、ひと煮立ちしたらみそを溶き入れる。

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沖縄では、肉類はスパム以外に、豚バラ肉などを入れる店も。また、葉野菜はシロナー(山東菜)やフーチバー(よもぎ)、キャベツなどを入れる店もあるようですが、今回は小松菜を用いました。かまぼこやわかめ、島豆腐(最近は沖縄でなくとも手に入る)、島らっきょう(メンバーが沖縄旅行から持ち帰ったもの)を入れたら、より現地のみそ汁風に近づきました。「汁の全体量からすると、使用するみその量があまりに少ないので、薄すぎないか心配しましたが、スパムやたくさんの野菜からいいだしが出るので、物足りなさはなかったですね」と久保田さん。

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テーマ「発酵と発酵食の研究」の5回目は、「乳酸菌、乳酸発酵」をとりあげ、乳酸発酵によってできる漬け物の1つ、「ザワークラウト」を作りました。作ったザワークラウトは、メンバーみんなで持ち帰り、それぞれが自宅で発酵、保存することになりました。もとは同じキャベツの塩漬けが、それぞれの環境でどう発酵&熟成していくのか、どんな味になっていくのか、楽しみです。

今月のご当地汁は、沖縄の“みそ汁定食”の「みそ汁」。他の地域にはない、みそ汁が主役の定食が食堂のメニューにある沖縄。そんな沖縄の「みそ汁」は、汁椀ではなく、大どんぶりで登場。その具は、店によっても違いますが、肉や肉加工品、魚加工品や海藻類(かまぼこ、わかめなど)野菜類、豆腐や卵・・・まで入った驚くほどの具だくさん汁。
だし汁にさまざまな具から出るうまみが加わり、薄味でもちょうどよい味加減でした。それにしても、「みそ汁定食」というだけあって、この定食の主役は、まさに“みそ汁”でした。