発酵、発酵食の研究2

『発酵、発酵食をもっと知ろう、おいしく使おう!』

今年は「発酵、発酵食」がテーマ。さまざまな角度から“発酵や発酵食品”そして“発酵食品を使った料理”を研究しています。
2回目は、発酵食品の中から「みそ」をとりあげ、その起源や歴史をみんなで学び、みそを使った料理も作ります。

もう1つ、今回から毎月、日本各地の郷土食の中から、みそを使った「ご当地汁」にスポットをあて、その汁ができた背景や文化、気候風土などを知り、実際に作って試食してみることになりました。

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<みそのはじまり>
みそはどこからきたのか・・・は明確にはわかっていませんが、古代中国で生まれた「醤(しょう/ひしお)」が、朝鮮半島を渡って、飛鳥時代(7世紀頃)に日本に伝わったという説が有力です。
※醤 獣肉や魚肉を潰し、雑穀の麹、塩、酒を混ぜて壺に漬け込み、熟成したもの

◎奈良時代には、醤や未醤を売る店が登場
日本で初めて、醤という文字が登場するのは701年に発布された「大宝律令」の中です。さらに、そこには中国にはない言葉、「未醤(みしょう)」が登場しています。
“醤になる前の熟成途中のもの”という意味で、日本人が醤に工夫を加えたもので、奈良時代の平城京には、すでに醤、未醤を売る店がありました。
未醤こそがみその前身で、「みしょう→みしょ→みそ」に変化したのではないかと推定されています。

◎平安時代には、限られた層の贅沢な食べ物
平安時代には、「味噌」という表記が文献にも登場。みそは貴族階級や寺社関係者など、限られた層の食べる贅沢品でした。
この時代のみそは乾燥しており、そのままなめておかずにしたり、食べ物にかけたり、つけたりしました。
このほか、高価で貴重なみそは、高級官僚の給料になることもあり、麻、絹、塩、鉄などと同様に税金としても認められていました。

◎鎌倉時代には「みそ汁」が登場、「一汁一菜」が確立
禅僧の影響ですり鉢が使用されるようになると、粒のみそをすりつぶし、水に溶かした「味噌汁」が登場するようになりました。
そして、鎌倉武士の食事の基本として「一汁一菜」が確立されました。

◎戦国時代は、武士の“兵糧”として重用された
兵糧は戦いのときの戦陣食。兵糧の内容は、武士の階級によっても違いましたが、基本は干飯(強飯を乾燥させたもの)と副菜(小魚、野菜、漬物、梅干し・・他)、みそでした。
みそは、干す、焼くなどして“みそ玉”にし、他の食料とともに竹の皮や手拭いで包んで腰につけ、持ち歩きました。そして食事の際はこれに湯を加えて飲むか、そのままかじるかして食べていました。
戦国時代、各地の武将たちは米と同様、保存性も栄養価も高いみそを珍重し、みそづくりを奨励しました。たとえば、武田信玄。当時は米を栽培しにくく、大豆の産地だった信濃の地で、信玄はみそづくりを奨励し、つくらせたのが「陣立(じんだて)みそ」。豆を煮てすりつぶし、麹を加えて団子状にしたもので、これを腰につけて出陣すると、行軍途中で徐々に発酵し、みそができあがる、というもの。そしてこれが、のちに信州味噌になりました。
伊達政宗は、城下に日本初のみその醸造所「御塩噌蔵(おえんそぐら)」を設け、軍用のみそづくりを始めました。そしてここでつくったみそを朝鮮出兵の際に携行。
すると、ほかの藩のみそが腐敗する中、味も風味も変わらなかったことから、“仙台みそ”の質の高さは評判になったといわれています。

◎江戸時代、武士にも庶民にもみそ文化が浸透
戦国時代にはみそづくりが奨励されましたが、武士だけでなく、庶民の間にも広がり、みそ文化が花開いたのは、世が安定した江戸時代でした。
中でも、徳川幕府がおかれた江戸は、全国の大名が集まり、人や物資、情報が集まる中心地。さまざまな地方のご当地みそが集まり、みそ屋の数も500軒以上に大幅に増えました。
みそ汁やみそ料理も広まり、みそはなくてはならない食べ物として江戸に浸透しました。

◎徳川家康は毎日欠かさず飲むほどみそ汁好きだった?
家康が生まれ育った地は三河地方。尾張の信長、秀吉とともに、豆みそ文化圏の武将です。そんな家康は、かなりの健康マニアだったようで、毎日の食膳にみそ汁を欠かさず、家訓にもしていたそうです。しかもそのみそ汁は葉菜5種、根菜3種が入る具だくさん汁。だからでしょうか、平均寿命が40歳弱だった時代に、75歳まで生きた家康。長寿の秘訣は具だくさんみそ汁にも関係あったのかもしれません。
※参照:みそ健康づくり委員会編「昔と今のみそレシピ」、稲垣栄洋著「徳川家の家紋はなぜ三つ葉葵なのか」、東洋経済オンライン(記事)「信長・秀吉・家康の強さの秘密は”みそ”にある」…ほか。

<今月のご当地みそ汁>
◎納豆汁(山形、秋田、岩手など)
山形や岩手、秋田など、東北地方で親しまれている郷土色豊かなみそ汁に「納豆汁」があります。納豆は、かつては家庭でも作られていたといい、これをすり鉢ですってみそ汁に入れたのがはじまりでした。
とろとろ、あつあつの納豆汁は冬の風物詩。寒い地方では、野菜が不足しがちになる冬、納豆で栄養を補う役目もありました。山形では1月7日“七草粥”の日も、納豆汁が七草粥の代わり。“春の七草”はまだ雪に埋もれてとれなかったからです。
地方や家庭によっても、納豆汁の作り方や入れる具は少しずつ違うようです。
たとえば、山形のアンテナショップや市役所のHPによると、納豆汁には、納豆のほかに豆腐、油揚げ、こんにゃく、せり、きのこ類が入りますが、ぜったいに欠かせない具が“芋がら”。芋がらは、里芋の茎を干した乾物ですが、これを必ず入れるのだとか。(「芋がら」は、関西では「干しずいき」「割り菜」。熊本では「肥後ずいき」などと呼ばれ、もどして煮物や炒め物などにも使われます)
※参照:「おいしい山形」HP
「山形市役所」HP

<みそで料理を作る>
今月は、さまざまな「みそ」の中から、米みそを使った料理を作り、みんなで試食してみることにしました。
なお、今回使用した野菜は、木更津の農家・地曵さんが作っているザーサイです。漬物になったザーサイは中華料理などではおなじみですが、国産の生のザーサイはまだ珍しく、一般スーパー等にはまず出回っていません。
食ラボメンバーも生のザーサイを実際に見るのは初めてという人がほとんどでした。ザーサイは、今注目のアブラナ科の野菜。漬物になるのは茎の下方のふくらんだ部分ですが、青々とした葉も見るからにおいしそうなので、葉も茎も使うことにしました。

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◎鶏ムネ肉と青菜(ザ-サイの葉)のみそ炒め/長島作
材料:鶏ムネ肉1枚、青菜(ザーサイの葉)、生しいたけ、A(りんごのすりおろし大さじ2、つぶしたにんにく、塩、米油、片栗粉各適量)、B(みそ大さじ1、酒小さじ2、砂糖、しょうゆ各小さじ1、一味唐辛子適量)、しょうが(せん切り)1かけ分、米油、ごま油
※青菜は、ザーサイの葉の代わりに小松菜やチンゲン菜などを使ってもよい。

作り方
①肉は一口大に切ってAの中につけ、2~4時間おいて下味をつけておく。
②フライパンに油を入れて温め、青菜としいたけをザッと炒めたら、いったんザルに取り出しておく。油を足してしょうがを入れ、中火弱で①をじっくり焼きつける。
火が通ったら野菜をもどし入れ、Bを加えて炒め合わせ、最後にごま油を少々たらす。

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ザーサイの葉は少しの苦みと、さわやかな辛みもあって、驚くほどおいしい野菜でした(もしまたチャンスがあれば、ぜひ食べたい)!今回は、下味をつけた鶏肉と一緒に中華風のみそ炒めにしましたが、
甘辛のみそ味とよく合って、ご飯がすすむ一品になりました。

◎ザ-サイの茎のごまみそあえ/長島作
材料:ザーサイの茎部分、ごまみそだれ(みそ大さじ1、白すりごま小さじ1、りんごのすりおろし大さじ3、しょうがのみじん切り、小ねぎ各適宜)
作り方:
①ザーサイの茎は薄切りにして2%の塩をし、しんなりしたらサッと洗ってしぼる。
②ごまみそだれの材料を混ぜ合わせ、①をあえる。
※今回は、ザーサイのふくらんだ茎部分(漬物になるところ)を使用しましたが、手に入りにくいので、代わりにブロッコリーの茎や、キャベツ(芯に近い茎部分)を使うのがおすすめ。

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中華料理でおなじみのザーサイ漬けになるのが、このふくらんだ茎のところだったんですね。みんなでしっかり観察してから、料理しました。「一見すると硬そうに見えた茎ですが、塩をしたらまもなくしんなりし、生のままでも十分いけると思い、ごまみそだれであえました。でも、もしブロッコリーやキャベツを使う場合は、サッとゆでて使う方がいいいかもしれませんね」と長島さん。

◎今月のご当地みそ汁 山形の「芋がら入り 納豆汁」/久保田作
今回は、前述の山形のサイトの「納豆汁の作り方」を参考にして作ってみました。
材料(4人分)
納豆2パック(80g)、芋がら1本、木綿豆腐1/2丁、油揚げ1枚、こんにゃく1/2枚、きのこ類(まいたけ、しめじ)、せり、長ねぎ各適宜、だし汁(昆布)5カップ、みそ大さじ5
作り方
<下準備1> 芋がら(乾物)はもどしておく。
よく洗って、ぬるま湯に1時間ほどつける。お湯の中でよくもんでから取り出し、水洗いする。塩一つまみ加えた湯でゆでこぼす。軽くしぼって味をみて、アクを感じるようなら、酢を数滴加えた湯で再度ゆでこぼす。
※実際にアクを感じたので、2回目からは酢を加え、計3回ゆでこぼしました。
<下準備2> 納豆はすり鉢で豆の形がほぼなくなるまでよくする。
※参考サイトには、「豆の形がまったく残らないまですりつぶす」とありましたが、食ラボメンバーが山形の知人から聞いたのは、「多少粒を残した方がおいしいよ」というもの。そこで、今回はこちらでやってみることにしました。
①もどした芋がらは1㎝幅に切り、こんにゃく、油揚げ、豆腐はさいの目(1㎝角)に切る。きのこ類は石づきをとって小房に分け、半分程度の長さに切る。せりは1~2㎝長さに切り、長ねぎは小口切りにする。
②鍋にだし汁を入れ、先に芋がらを煮る。芋がらがやわらかくなったら、こんにゃく、油揚げ、きのこ類などの具を入れ、最後に豆腐、みそを溶き入れる。
③すりつぶした納豆を加えたら、火を止める。器に盛り、ねぎとせりをのせる。

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納豆汁は、本来もっと寒い時期の汁料理なのでしょうが、それを知ったのは2月の終わり。そこで今回は、冬の名残りに作ることにしました。
“納豆をすりつぶす”のが最大のポイント。粒を一切残さず、クリーム状まですりつぶしている写真もありましたが、今回は1割程度粒を残してみました。
簡単そうにみえたすりつぶし作業ですが、やってみると、結構な力仕事だということも知りました。納豆のねばねばによって粘着力が増すためです。
あまりに大変だったので、だし汁を少量加えたら、すりまぜがぐんとラクになりました。また、ぜったいに入れるとなっていた具材が芋がら。食物繊維も豊富なうえ、みそ味ともよく合い、欠かせない脇役です。
具だくさんで栄養たっぷり。すりつぶし納豆が入ることで、とろっとして冷めにくい点もいいですね。ほかほか、とろとろの納豆汁は、あったかくて親しみやすいソウルフードでした。

★座学・試食カット

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テーマ「発酵、発酵食の研究」の2回目は、「みそ」をとりあげました。最初は中国から伝わった説が有力ですが、その後、日本で独自の発達をとげたみそ。
戦国時代には兵糧として大いに役立ち、それがもとで、各地にみそ文化が花開いたこともわかりました。
そして、今月から毎月1品ずつスポットをあて、作ってみることにしたのが、みそを使った「ご当地汁」。今回とり上げた「納豆汁」は、山形や秋田、岩手の人たちにはおなじみの故郷の味ですが、
食ラボメンバーは1人を除き、初めて食べる人ばかり。納豆の粒がほとんどなくなるまですりつぶすことや、芋がらを必ず入れること・・・など、知らないことばかりで大変おもしろく、勉強になりました。