油の研究7

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。そこで、「塩」に続き、さまざまな調味料を研究することになりました。
これまでとりあげたのは、「砂糖」「みりん」「酒(料理用)」「酢」など。さらに昨年は1年間にわたってさまざまな「だし」をとりあげました。そして、今年のテーマは「油」。そして、今年のテーマは「油」。
さまざまな油について研究しています。
7回目は、「ココナッツオイル」を取り上げました。

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<ココナッツオイル>

◉ココヤシの実から作られるオイル
ヤシ科の高木“ココヤシ”の実を搾って作ったオイル。ヤシ油。精製せず、無添加&低温(40℃以下)で圧搾(=コールドプレス)した「バージンココナッツオイル」と、化学溶剤を用い、高温で精製、漂白工程や脱臭工程を加えた「ココナッツオイル」の2種類があります。ココナッツオイルの場合、高温で精製する過程で、ココナッツの味や甘い香りは抜けてしまいます。
※ヤシの木でも、種類の違う“アブラヤシ”から採れるのはパームオイル。オイルの成分が違い、中鎖脂肪酸もほんの少ししか含まれていません。

◉数年前大人気に。一時期は手に入らないオイルだった
ハリウッドセレブたちに大注目され、日本でも人気急上昇したココナッツオイル。一時は商品が不足して、店頭から姿を消したほど。その弊害として、品質の悪いオイルも出回ってしまいました。その後も、いまだにしっかりとした基準が定められていないことも関係していますが、鮮度のよいココナッツをすぐさま加工しているか…等、製造工程を具体的に明記している商品を選ぶことをおすすめします。また、ココナッツオイルはもともと工業用や化粧品に使われていたこともあり、同じ工場で食品用のオイルも作っている場合があります。食品としての安全性や品質が保証できるメーカーを選ぶことも大切です。

◉食用には、安全で高品質のバージンオイルを
木から採ったココナッツの胚乳(実を割った中の白い部分)を削り取り、水を加えて低温で圧搾。オイルの原液を搾り出したら、遠心分離法や自然発酵法によって、ここから油分だけを分離して抽出。
それを濾過して不純物を取り除いたものが、100%天然のバージンココナッツオイルです。
※オイルの原液には、油分のほか、ココナッツミルクや水が混ざっています。
※カビや劣化を防ぐためにも、ココナッツの実の収穫から48時間以内にオイルにする必要があり、この条件を満たしたものがバージンココナッツオイルです。

◉中鎖脂肪酸が60%以上も含まれる、ヘルシーオイル
 飽和脂肪酸の中でも、バターなどの単鎖脂肪酸やラードなどの長鎖脂肪酸とは違い、ココナッツオイルは「中鎖脂肪酸」が60%も含まれています。
中鎖脂肪酸は、長鎖脂肪酸などに比べると消化吸収が速く、すぐにエネルギーとして使われるため、体に脂肪がつきにくい、非常にヘルシーなオイルです。
また、飽和脂肪酸のため、酸化しにくく、加熱にも強いオイルです。24℃以下では白く固まり、それ以上になるとさらさらした透明の液体状に。
高温調理をしても177℃までは、体に悪いトランス脂肪酸に変わらないこともわかっています。
ほかにも、老化やガンなどを予防するといわれるビタミンEや、免疫力を高め、強い抗菌作用のあるラウリン酸(母乳にも含まれている成分)も豊富に含まれています。

<ココナッツオイルの味比較>

バージンココナッツオイル数種の風味や味を比較しました。

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(写真左から、「ハッピーココナッツ」「ココ・キュア」「チャオコー」、「ココロン」、「ココ・クメール」)

◎ハッピーココナッツ/1,348円(739g入り)
スリランカ産、有機、コールドプレス。水分量を極限の0.08%に減らし、味や風味を凝縮。生産工場は衛生管理の証の「HACCP」「ISO22000」を取得。
安全性の高い環境の工場で生産されていることがわかる。色は少々にごってスモ
ーキーな色をしている。水分を減らしている、と記されているように、実際に味が濃く、うまみも強い。
◎ココ・キュア/1,680円(412g入り)
フィリピン産、コールドプレス、有機JAS認定のほか、アメリカのオーガニック認証やヨーロッパのオーガニック認証も取得。
運搬はワインなどと同様のリーファーコンテナ輸送。2018年4月の新着商品。色は少々にごってスモーキーな色。ココナッツの風味があり、加熱するとさらに増す。
※ココナッツオイル生産量が世界一のフィリピンには「ココナッツ庁」という官庁があり、製造業者に技術や品質管理を指導しているそうだ。
◎チャオコー/734円(157g入り)タイ産、真空オイルクリーナー使用)無色透明。甘い香り、あっさりしてクセのない味。
◎ココロン/1,019円(185g)スリランカ産、コールドプレス。スリランカ産のココナッツオイルを日本国内の有機JAS工場で瓶詰している。
インドネシア産乾燥糸こんにゃく「ぷるんぷあん」などのフェアトレード商品で知られる「トレテス」の製品。 
◎ココ・クメール/お土産品のため価格不明
カンボジア産、カンボジアのナチュラルメイドプロダクツブランドの製品。無色透明ノクリアな色。

<ココナッツオイルで料理を作る>

ココナッツオイルを比較した後、これを使った料理を作り、みんなで試食しました。

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◎ゲーン・パネーン・ムー(パネーンカレー)&ライス/長島作            
ジャスミンライス(タイ米)を炊く。炊き上がったらココナッツオイル(米3合に対し、大さじ1)を加えてほぐす。クロック(石臼)にピーナッツを入れ、叩いてつぶす。
そこにレッドカレーペースト(市販のもの)を加え、カー(タイのしょうが)も加え、叩いてすりつぶし、混ぜ合わせる。
フライパンにココナッツオイルを熱し、豚肉を炒め、いったん取り出しておく。先ほどの混合ペーストを弱火でじっくり炒め、香りが立ったらココナッツミルクを数回に分けて加える。
水、バイマックル(こぶみかんの葉)を加え、肉を戻し入れ、しばらく煮たらナムプラーで味を調え、最後にパプリカを加える。皿に盛り、香菜を添える。

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タイカレーといえば、日本でもすっかりおなじみなのがグリーンカレーやマッサマンカレーですが、これはまだあまり知られていない「ゲーン・パネーン・ムー(パネーンカレー)」で、
タイ南部などでよく食べられているカレーです。赤唐辛子入りのカレーペースト、タイのハーブ類、ココナッツミルクのほかに、つぶしたピーナッツがたっぷり入るのがこのカレーの特徴。
さらさらのグリーンカレーに比べ、このカレーはとろっとしたソースなので、肉ともよくからみます。ココナッツオイルの甘さに加え、ピーナッツが加わるからでしょうか。
煮込み時間が短いのにコクがあり、辛味はやや穏やかでした。

◎ソムタム(青パパイヤのサラダ)/牧野作 
青パパイヤは種とワタをくり抜き、皮をむいてせん切りにし、いんげんは2~3㎝長さに切る。干しえびはもどしておく。
クロック(石臼)にピーナッツ、いんげん、干しえび、赤唐辛子を入れ、叩いてつぶす。ココナッツシュガー、ナムプラー、レモン汁を加えてさらに叩き、
ミニトマトも加え、最後に青パパイヤを加えて叩く。パパイヤがしんなりしたら味を調え、皿に盛る。

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ソムタムのソムは“酸っぱい”というタイ語。タムは“叩く、つぶす”というタイ語。材料を次々とクロックに入れていき、叩いたり、すりつぶしたりして作るタイの代表的なサラダです。
材料を切る以外は、叩いたり、つぶしたり、混ぜたりが、全部クロックの中で完結するのが本場のタイ流。叩いてつぶすことで、具の表面積が大幅に増え、
調味料もしみこみやすくなるのがポイントでしょうか。また、クロック1つで完結するソムタムは、日本でいえば“ボウル1つでできる”料理。少ない調理器具で作れる点もうれしいですね。

◎ガーリックトマトライス/牧野作
フライパンにココナッツオイル、にんにく(みじん切り)を入れて弱火で熱し、にんにくがうっすらきつね色になるまで炒める。
ここに米3合(タイのジャスミンライス)を加え、米が透き通るまで炒めたら炊飯器に入れる。塩少々加え、トマト(丸ごと)を中央におき、米3合分の水加減で炊きあげる。
炊きあがったらトマトをくずし、ご飯と混ぜ合わせる。器に盛り、粗びき黒こしょうをふる。

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トマト1個を丸ごとお米の上にのせて炊き上げるという、見ためもインパクト大の料理。でも、見ためだけの料理じゃありません。
ココナッツオイルやガーリック、トマトの風味やうまみがしっかり浸みこみ、それでいてチャーハンよりさっぱり仕上がります。
これだけで食べてもいいですし、パネーンカレーと合わせてもおいしくいただけました。

◎焼きバナナ/食ラボ作
縦半分に切り、グラニュー糖をまぶしたバナナを、ココナッツオイルをしいたフライパンで焼く。
中火で両面焼いたら皿に盛り、ココナッツスライス(乾燥)とシナモンをふりかける。
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タイやインドネシアなどでも見かける、焼きバナナのデザート。ココナッツオイルで焼いたら、最後に強火にして表面をパリッとさせ(キャラメリゼ)たかったのですが、
バナナがやわらか過ぎて、パリッとならずに終わりました。あちらでは、もっと青くて硬いバナナを使うのですが、日本では手に入らないので、キャラメリゼ状態にするのは無理のようです。
でも、ココナッツオイルとシナモンの風味がよく合いました。アイスクリームなどを添えてもいいですね。

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“油の研究”の7回目。今回は「ココナッツオイル」をとりあげました。摂取すると、体内ですぐにエネルギー源になり、体脂肪になりにくい点が注目され、数年前大人気に。一時は品切れで買えない時期もありました。
ブームのときは、粗悪品も出回っていた記憶がありますが、今はだいぶ淘汰され、品質管理の行き届いた製品が多くなった印象もあります。
ただ、あまり安いものは要注意。食用に使うなら、“コールドプレス”と表示のある「バージンココナッツオイル」がおすすめです。

一方、流行当時はダイエットにいいという情報がひとり歩きして、スプーンでそのまま飲むなどして積極的にとる人もいましたが、いくら体にいいといっても油は油。
とりすぎはカロリーオーバーにつながります。改めてココナッツオイルのよさを見直し、料理に上手にとりいれたいですね。

ココナッツオイルは、ふわっと甘い香りが特徴のオイル。どんな料理にもオールマイティに合う油ではありませんが、今回のようなタイカレーに用いたり、
ライスにサラダにデザートに、エスニック料理に使うとさすがに相性抜群で、現地で食べる味に近づきました。