油の研究4

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。そこで、「塩」に続き、さまざまな調味料を研究することになりました。
これまでとりあげたのは、「砂糖」「みりん」「酒(料理用)」「酢」など。さらに昨年は1年間にわたってさまざまな「だし」をとりあげました。そして、今年のテーマは「油」。さまざまな油について研究していく予定です。
4回目は、植物油脂の続きで、サラダ油とマーガリンをとりあげました。

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<サラダ油>

◉サラダ油は、日本にしかない油
日本で最初にサラダ油が登場したのは、1924(大正13)年に発売された「日清サラダ油」でした。当時、欧米で流行っていたのが生野菜に酢、塩、油をあえて食べるサラダ。それに対応する油を日清製油(現在の日清オイリオ)が開発したといわれています。
サラダのドレッシング、マヨネーズやマーガリンの原料、揚げ物や炒め物を前提に作られた油で、精製した食用植物油。味や匂いにクセがないことも特徴で、JASにより「低温の条件下で一定時間(0℃の温度で5.5時間)放置しても凝固や白濁の無いこと」をサラダ油の条件としており、JASの基準を満たした原材料&JASの認定工場で製造されたものが「サラダ油」と名乗れます。原材料は、菜種、大豆、とうもろこし、ごま、サフラワー(紅花)、ひまわりの種、綿実、米(米糠)、ぶどうの9種類で、2種類以上の植物油を混合して作られたものは「調合植物油」とされます。

◉キャノーラ油となたね油は同じもの?違うもの?
サラダ油によく使われる油がキャノーラ油。原材料名には「食用なたね油」と表示されおり、「キャノーラ油となたね油は同じものです」と記載されていますが、実際にはどうなのでしょうか。
①同じなたねでも、原材料が違う場合がある
なたね油もキャノーラ油も同じアブラナ科の植物を原料にしています。もともとなたね油は日本の在来品種のアブラナが原料で、かつては日本の自給率は100%でしたが、現在はというと、1%にも満たないため、ほとんどは海外産(そのうち90%はカナダ産)です。それら海外産の原料の中には、遺伝子組み換えで品種改良されたなたねが使われているものも多いといわれています(遺伝子組み換えでないなたねを使用しているものもあります)。

②製法が違う場合がある
日本の伝統的な製法は、玉締め機を用いて余分な圧力をかけず、摩擦熱を最小限にして搾る「玉締め搾り」でした。が、これは時間も手間もかかり、効率が悪いため、効率を重視した「ノルマルヘキサン抽出法」が開発されました。石油系の溶剤に浸すことで、大量に油を搾りとることができる方法ですが、加熱処理(脱臭、精製、漂白)をする際に、トランス脂肪酸発生することがわかり、問題視されています。対して、低温で抽出する低温圧搾製法(コールドプレス)を用いた油なら、トランス脂肪酸は発生しないことがわかっています。

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<マーガリン>

◉1869年、フランスで誕生したマーガリン
バターは中世以降、ヨーロッパに普及し、生活に欠かせないものとなっていましたが、戦争中に不足したため、その代用品として生まれたのがマーガリンです。ナポレオン3世(ナポレオン1世の甥)の時代、フランスはプロイセン(後のドイツ帝国)と戦争中にバターが不足したため、皇帝の命により、懸賞付きでバターの代用品を募集。メージュ・ムーリエ・イポリットの案を採用し1869年に誕生。当初はオレオマーガリン という名前がつけられましたが、後に省略して、マーガリンと呼ばれるようになりました。

◉マーガリンの語源は、“真珠”
マーガリンは、ギリシャ語のmargarite(真珠)が語源で、“真珠のように美しい油のかたまり”という意味。当時の原料の詳細はよくわかっていませんが、牛脂軟質油が多くを占め、あとは牛乳、オリーブ油などだったようです。

◉国産マーガリンの当初の呼び名は“人造バター”
マーガリンが日本に輸入されたのは明治時代中期の1887年で、もともとは日本に住む欧米人たちのためでした。その後は国産マーガリンを作る研究も始められ、1908年に国産マーガリンが誕生。ただ、誕生当初はバターの代用品ということで“人造バター”という呼び名で販売されていました。戦後、昭和27年以降は呼称を改め、「マーガリン」として販売されるようになりました。その後は、“動物性のバターより、植物性のマーガリンの方が健康にいい”といわれ、マーガリンの売れ行きは急激に増大。広く普及していきました。

◉マーガリンの主原料は「植物油脂」
バターの主原料は牛乳ですが、マーガリンの主原料は、精製された植物油脂。これに発酵乳、食塩、着色料、ビタミンAなどを加え、乳化剤を加えて乳化し、冷やし固め、練り合わせて作られます。
※日本のJAS規格では、「マーガリン類」のうち、油脂含有率が80%以上のものがマーガリン、80%未満がファットスプレッドと分類されている。
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◉植物油と植物油脂は、まったく別物
マーガリンに使われている油脂の原料は、ヤシ油、パーム油、大豆油、綿実油、コーン油、サフラワー(紅花)油、菜種油などです。一般には、油も油脂もひっくるめて「油脂」と記すことがあるため、誤解されやすいのですが、植物油と、植物油脂はまったく違うものです。

物油は植物の種や果実を搾った油ですが、植物油脂とは、植物油に別の成分を加えて加工し、人工的に作られたもの。作る過程で「トランス脂肪酸」が多く生成されることから、今、世界的な問題になっています。植物油のうたい文句は「コレステロール0(ゼロ)のヘルシーオイル」ですが、カロリーやコレステロ-ル値以外にも注意を向けたいですね。

◉トランス脂肪酸の規制、日本の動きは?
脂肪酸の一種で、炭素と水素の結びつきが”シス型”ではなくて、”トランス型”に結びついた構造をしていることから、トランス脂肪酸と呼ばれます。

反芻動物(羊や牛)の肉、ミルク、乳製品にも含まれる自然由来のものもありますが、主に問題になっているのは人工的に作られたもの。マーガリンやショートニングを作る過程で、独特の粘りや風味を付けるために使う「部分水素添加油脂」を作る際に多く生成されます。
トランス脂肪酸を摂取し過ぎると、細胞や細胞膜の働きを狂わせたり、ビタミンなどの栄養素を壊したり、コレステロールを増加させ、心臓病のリスクを高めるとされています。
※2015年6月、米食品医薬品局(FDA)は「部分水素添加油脂」を“安全とは認められない”として、今後は食品への使用を原則禁止すると発表。2018年6月から規制が実施される。

◉マーガリン以外にも含まれるトランス脂肪酸
植物油脂の加工過程でできるトランス脂肪酸が含まれるのは、マーガリンだけではありません。マーガリンやショートニングを使って作った菓子パンやケーキ、パイ、クッキーやビスケットにも含まれています。
また、サラダ油などで揚げたスナック菓子やドーナッツ、ファストフード店や居酒屋、スーパーやコンビニに並ぶ総菜や弁当類の揚げ物(ポテトフライ、フライドチキン、トンカツその他)にも含まれています。

<植物油、マーガリンの試飲、試食>
荏胡麻油(紅花食品)170g 1058円
亜麻仁油(朝日)170g 847円
菜種油(パルシステム)1250g 837円 
※オーストリア・カンガルー島産菜種使用、化学処理なし・圧搾一番しぼり、遺伝子組み換え原料不使用
キャノーラ油(京醍醐味噌Q66)

バターのようなマーガリン(雪印メグミルク)203円
べに花ファットスプレッド(雪印メグミルク)235円

荏胡麻油は少々黄色みのかった透明色だが、あとの油はほとんど透明に近い色。どの油もさらりとしており、香りはまったくなし。少々くせのあるイメージをもっていた亜麻仁油も、このメーカーのものは味、香りともにとくになし。
キャノーラ油に関しては、油のニオイさえ感じない。前回のごま油、1回目のオリーブ油とは大違いである。いい悪いは別として、くせも個性もない油です。

<植物油を用いた料理づくり>
それぞれの油を試飲したのち、それらを使ったマヨネーズと料理を作り、みんなでいただきました。

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◎マヨネーズ3種  蒸した新じゃがと春キャベツ/牧野作
今回試飲した菜種油、亜麻仁油と、1回目に試飲したオリーブ油(イタリア・トスカーナ ジャッキ社 エクストラバージンオリーブ油)。この3種類の油でそれぞれマヨネーズを作り、味や色その他を比べてみました。

3種の油各1カップ、卵黄各2個、白ワインビネガー各大さじ2、塩各小さじ1。
卵黄、ワインビネガー、塩をボウルに入れ、泡立て器で混ぜ合わせる。卵と酢が混ざったら、油を少量ずつ加えながら(分離しないよう)さらに混ぜ合わせ、クリーム状にとろみがついたらできあがり。

油が違う以外、あとは同じ分量で作った3種のマヨネーズを比べてみると・・・。3種の中では、菜種油を使ったものが一番酸味がまろやかになりました。が、味はオリーブ油を使ったものが一番人気。オリーブ油のグリーンがかったマヨネーズは、もともとのオリーブ油がおいしいのもありますが、いかにもオリーブ油らしい風味が感じられ、蒸した新じゃがにも春キャベツにもよく合いました。

亜麻仁油を使ったものは食べにくいくせは感じられませんでしたが、特別おいしいというわけでもなく、オメガ3系の栄養価に秀でた点がウリでしょうか。ただ、亜麻仁油自体、あまりに価格が高すぎるため、家庭で、亜麻仁油100%でマヨネーズを作るのは、現実的ではないなとも感じました。

今、スーパーなどでは、亜麻仁油入りのマヨネーズも市販されています。通常のマヨネーズよりも高めですが、それでも200g300円弱なので、おそらく亜麻仁油の配合は非常に少ないものと思われます。ちなみに味は、手作りのマヨネーズに比べると、油っぽさが口に残りました。

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◎フライ2種(エビフライ、アボカドフライ)/牧野作

普段、揚げ油として使用することの多い油(今回はキャノーラ油と菜種油)で、それぞれを揚げ、揚げ具合や味を比べてみました。

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実際に比べてみると、揚げ具合や味に関しては、残念ながらあまり大きな差は見られませんでした。キャノーラ油のラベルに「さらっとすっきり揚がる」と書いてあるように、菜種油で揚げたフライより、多少油切れがいいようにも思え、正直、少々複雑な気持ちになりました。

◎田野畑産“めかぶ”と“もってのほか”の酢の物/秋元作
サラダ油やマヨネーズを使った料理ではありませんが、秋元さんが先日、岩手県田野原村を訪ねたとき持ち帰った“めかぶ”で、もってのほか(菊の花びら)と合わせて酢の物を作りました。

めかぶは熱湯でサッとゆで、色が変わったら引き上げる。「これをせん切りにしますが、軸の部分は硬いので、あればミキサーにかけてしまうと簡単です」干し菊も熱湯でサッともどし、めかぶと合わせ、三倍酢であえる。

いろいろな油を試飲したため、めかぶや酢が口中の油分をさっぱりと流し去ってくれたようでした。

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“油の研究”の4回目。前回に続き、植物油。日本ではもっともポピュラーな油である「サラダ油」を中心にとりあげました。さらには、今いろいろと問題になっているマーガリンとトランス脂肪酸のこともみんなで勉強しました。 知っているようで、まだまだ知らないことも多い油の世界。油の製法についても、油の原料になる種子の産地や種子のトレーサビリティに関しても、消費者として、もっと知っておきたいことが多々あることにも気づかされました。

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<今日のおやつ>

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西荻窪「アテスウェイ」の焼き菓子。牧野さん、ごちそうさまでした。