油の研究11

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。
塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。そこで、「塩」に続き、さまざまな調味料を研究することになりました。
これまでとりあげたのは、「砂糖」「みりん」「酒(料理用)」「酢」など。さらに昨年は1年間にわたってさまざまな「だし」をとりあげました。そして、今年のテーマは「油」。さまざまな油について研究しています。
11回目は、先月に続き「ラード」を取り上げました。

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<ラード>

◎中国料理には欠かせないラード
昔から、世界各国でさまざまな料理や菓子類に使われているラードですが、中でも中国料理は、炒め物、麺類、ご飯類、スープ類まで幅広く使われています。点心類にもラードを使うものが多く、肉まん、ギョーザの皮やあんに加えたり、中華菓子類にも広く使われています。

そこで今回は、先月の食ラボで作った極上ラードを使って、中国料理の点心類を作る ことにしました。中華おこわ「米糕」と、蒸しカステラ「馬拉糕」、ごまだんご「芝麻湯圓」、そして先月のラードづくりで出た副産物の肉そぼろ(肉カス)を使い、シンプルな野菜炒めも作ることにしました。

◎米糕(ミーガオ)
日本でいう中華おこわ。台湾の台南地方が発祥の料理といわれ、おこわの上にワタリガニなどのカニをのせることも多いとか(「紅蟳米糕=カニおこわ」)。「粽子(中華ちまき)」が、生のもち米を具と一緒に笹に包んでゆでる(蒸すものもあり)に対し、こちらは先にもち米を炊き上げてから具と合わせ、それを蒸し上げます。ほかにも、もち米ではなく、うるち米と具を油で炒めてから炊き上げる、炊き込みご飯の「油飯」もあります。

馬拉糕(マーラーカオ)
中国の伝統的な甜点心の1つ。中国風蒸しカステラ。日本へは江戸時代に中国から伝わりました。中国語で馬拉(マーラー)はマレーシア、糕(カオ)はケーキという意味。その名前の由来は、“マレーシアから渡ってきたお菓子”という説と、焼き上がった菓子の色が“マレーシア人の褐色の肌の色に似ていた”という説があります。発祥の地も、中国の広東地方という説とマレーシアという説があり、マレーシア説が有力です。

薄力粉やベーキングパウダー、重曹、卵、砂糖(きび砂糖、三温糖など)を用いるほか、エバミルクを使うのが本場風。茶色い砂糖を使うのは褐色にするためですが、白砂糖を用い、かん水を加えて黄色っぽい仕上がりにする店もあります。また、生地に使う粉は、薄力粉以外に強力粉を加えるお店もあります。

生地ふっくらと膨らませるには、さっくり混ぜ、余分なグルテンを出さないようにするのがポイント。室温でガスを十分に発生させるとよいとされています。近年はバリエーションもいろいろあり、レーズンを加えたり、くるみやドライフルーツを加えたり、ココナッツ入りも。また、塩味を加え、甘さを控えたものも作られています。

<参考>エバミルクは牛乳を煮詰めて約2倍に濃縮したもの。無糖練乳。コクがありながら、生クリームよりずっとカロリーが低い。コンデンスミルクは加糖練乳。

◎芝麻湯圓(ヂーマータンユェン)
中国の伝統的な点心のごま団子。白玉粉で作る紅白の二色だんごを、旧正月15日に食べる風習があり、風物詩になっています。芝麻湯圓はごまあんのだんごですが、ほかにも小豆あんその他で作る甘い「甜湯圓」や、肉で作る塩辛い「鹹湯圓」もあります。お寺などで参詣者にふるまわれる湯圓もあり、“平安圓”と呼ばれますが、これは1つが小さく、あんは入っていません。

日本でごま団子というと「芝麻球(ヂーマーキュウ)」のほうがおなじみです。白玉粉に水とごま油を混ぜた生地でごまあんを包み、まわりに白ごままたは黒ごまをまぶし、油で揚げたものです。こちらも中のあんは、ごまあんや小豆のこしあん、蓮の実あんなどのバリエーションがあります。また、あんを入れず、中空のままふくらませながら揚げる「功夫麻球」もあります。

<ラードで料理を作る>
使ったラードは、「掛川完熟酵母黒豚 脂挽(ラード用)」を用い、前回の食ラボで手作りしたもの。殺菌された酵母醗酵飼料だけで飼育された黒豚で、健康で腸内環境もいいピュアな豚。その上質の脂身だけをひいたものです。

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先月の食ラボで作り、冷蔵しておいた手作りラード。
まるでバニラアイスのよう。臭みは全くありません。

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こちらは先月、ラードづくりで出た副産物の肉そぼろ(肉カス)を冷凍しておいたもの。そのまま料理に使えて便利です。

◎中華おこわ(米糕:ミーガオ)/久保田作
もち米3合、豚ロース肉(ポークソテー、とんかつ用)2枚、たけのこ水煮1/2本、にんじん1/2本、里芋(海老芋)2個、干ししいたけ小5個、蝦米(干しエビ)1/3カップ、合わせ調味料(しょうゆ、酒、砂糖、ごま油、塩、こしょう)、
ラード大さじ11/2、サラダ油 ※干ししいたけ、蝦米はあらかじめもどしておく。
もち米をといで炊飯器で炊く。肉と野菜はすべて1㎝角に切る。先に里芋だけ別にサラダ油で焼き色がつくまで炒めておく。中華鍋にラードを入れて溶かし、弱火で蝦米を香りが出るまで炒めたら、肉と里芋以外の野菜をすべて加え、炒める。
炊き上がった米と、里芋を加え、合わせ調味料を回しかけ、炒め合わせる。これを蒸し器に入れ、15分ほど蒸し上げる。
「里芋は、煮崩れしにくい海老芋がおすすめです。さらに蒸し上げたときに崩れてぐにゃっとならないよう、お芋だけ先にサラダ油で炒めて、周囲を焼き固めておきましょう」と久保田さん。

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見るからにもっちり蒸し上がった中華おこわは、表面ツヤツヤ。それでいながら食べると脂っこくないのは、やはりラードのおかげでしょうか。豚肉、干ししいたけ、蝦米から出たうまみに、ラードのうまみも加わって、口福!

◎馬拉糕(マーラーカオ)  径25㎝のせいろ1台分/久保田作
小麦粉2カップ、ベーキングパウダー大さじ1、重曹小さじ1、きび砂糖11/2カップ、卵5個、エバミルク1缶(170㏄)、バニラエッセンス少々、ラード1/2カップ ※ラードは常温または湯煎で溶かしておく。
※せいろの底にはクッキングシートを敷いておく。
ボウルに卵と砂糖を入れ、泡立てる。エバミルク、重曹、バニラエッセンス、ラードを加え、さらに泡立てたら、ふるっておいた小麦粉、BPを加え、素早くさっくり混ぜ合わせる。この生地を蒸気の上がったせいろに流し込み、30分蒸す。

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「褐色のマーラーカオに焼き上げるには、砂糖は、きび砂糖や三温糖を使うのがおすすめです。また、粉類を加えたら、さっくり素早く混ぜ合わせること。練ってしまうと余計なグルテンが出てしまい、ふっくらふくらまないので気をつけましょう」と久保田さん。
褐色に焼き上がったカステラは、ふっくらふくらみながらも存在感があり、一切れでも食べごたえがありました。

◎芝麻湯圓(ヂーマータンユェン) 径3㎝大10個分(1人3個程度)/久保田作
白玉粉100g、ラード30g、黒すりごま25g、きび砂糖25g。
ボウルに黒すりごま、きび砂糖、ラードを入れて混ぜ合わせ、練る。バットに入れるなどして15分ほど冷蔵庫に入れ、少し固める。取り出し、10等分して丸めておく。
鍋に湯を沸かす。ボウルに白玉粉、熱湯少々(20㏄程度)を加えてほぐしたら、水80㏄をほんの少量ずつ加えていき、練り合わせる。取り出して1本の棒状にのばし、10等分に切る。これをすばやく手で丸くのばし、中にごまあんを入れて包みこみ、だんご状に丸めたら、そのまま沸かしておいた湯の中に入れ、ゆでる。だんごが浮き上がってきても、そのまましばらくゆで、中まで火を通す。

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「練った白玉粉はすぐに乾燥し、割れてくるので、棒状にしたときから、常に上からラップをかけてください。また、だんご状に丸めたら、そのまま沸かしておいた湯に入れるほうが、割れたりくっついたりしないですみますよ。ゆで上がっただんごを器に盛るときはゆで湯も一緒に入れ、すぐに食べましょう」と久保田さん。

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だんごの中は、黒すりごまと砂糖、ラードで作ったごまあん。どちらも粒状のごまと砂糖。これだけではいつまでたっても丸まらず、ざらざらするだけ。それを一体化させる“つなぎの役目”を果たしているのが、まさにラードです。だんごがゆで上がり、つるんとしただんごの中からごまあんがじゅわっ!その瞬間を逃さず、熱々でおいしくいただきました。

◎ターツァイとそぼろ(肉カス)炒め/長島作 
中華鍋にラードを入れ、にんにくとしょうが(ともにせん切り)を入れて炒め、香りが立ったらそぼろを入れて炒め、調味料(塩、酒、砂糖、ナムプラー)と干ししいたけの戻し汁(または水)を加える。
沸いたらターツァイを軸から先に加えて炒め、遅れて葉も加えてサッと炒め、水溶き片栗粉を加え、こしょうで味を調える。

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ラードづくりで出た副産物の肉そぼろ(肉カス)を利用して、シンプルな炒めものをつくりました。11月のもやし炒めもよかったけれど、青菜もやっぱりよく合います。シンプルに炒めただけで十分おいしい!

『食ラボ研究室』の今年度のテーマ「油の研究」。前回は、集大成ともいえる“ラードづくり”に挑戦。その極上ラードを使って、今回は中国料理の点心類を作りました。
おこわにも、炒め物にもラード。そして、中華菓子類にもラード。さまざまな料理にラードが使われていることは知っていましたが、今までラードに抱いていたイメージといえば、“脂っこくて、なんだか臭みもありそう”というものでした。
ところが、実際にラードをつくり、料理し、食べてみて、ラードに対する見方がガラリと変わりました。上質の脂身でつくったラードに臭みなどなく、ラードで炒めただけで、コクやうまみが加わりました。
しかも、植物油で炒めるより、ずっとさっぱり仕上がるのには驚きました。まさに目からウロコ!ラードの魅力は、まだまだ奥が深そうです。