油の研究1

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。そこで、「塩」に続き、さまざまな調味料を研究することになりました。
これまでとりあげたのは、「砂糖」「みりん」「酒(料理用)」「酢」など。さらに昨年は1年間にわたってさまざまな「だし」をとりあげました。そして、今年のテーマは「油」。さまざまな油について研究していく予定です。

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<油の歴史>
人類が最初に使い始めた油は、動物油脂だったとされています。狩猟した動物を食べたあと、脂肪を燃やし、灯りとして使った跡が旧石器時代の遺跡などに残っています。

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◉最古の植物油は、オリーブ油、ごま油か?
一方、最古の植物油は、オリーブ油やごま油ではないかといわれています。

オリーブは、旧約聖書(「ノアの箱舟」の話)やギリシャ神話(アテネの街の由来、勝利と栄光の証に使われるようになった話)にも登場するように、神話の時代から存在していた植物でした。

紀元前3000年代には、エジプトなどの中近東地域でオリーブの栽培が行われ、オリーブ油が作られていたこともわかっています。古代エジプトでは、オリーブ油は主に医薬品や灯り用、あるいはミイラを作る際の香料の原料として使われていましたが、のちにギリシャなどの地中海地域に伝わると、食用として使われるようになり、古代ローマの繁栄、拡大とともにヨーロッパ各地に広まっていきました。

◉ごま・ごま油は、エジプトからインド、中国へ
ごまの原産地はアフリカのサバンナ地域とされ、オリーブと同じく古代エジプトが、サバンナから持ち帰ったごまの種子をナイル川流域で栽培していたことがわかっています。ごま油は、エジプトでは食用にも使われていたほか、クレオパトラが香料や化粧品として使っていたという話もあります。その後、ごまはエジプトからインド、中国に伝わりました。

古代のインドにおいて、肉食を禁じられていた仏教徒にとって、ごまは栄養源として重要だったうえに、伝統医学アーユルヴェーダでも使用されました。  古代の中国では、ごまは不老長寿の薬として最古の薬物書「神農本草経」にも紹介され、珍重されました。手に入りやすくなった後は、ごまやごま油は料理にも多用されるようになりました。

◉日本における最初の植物油は「ハシバミ油」か?
日本で最初に使われた油は、魚か獣の動物油脂だったと考えられていますが、
最初の植物油に関しては、神功皇后11年(211年)の頃だといわれています。
摂津の国の住吉大明神(現在の住吉大社)において行われた神事で灯火を使うため、ハシバミの実から搾油されました。これが日本における搾油の始まりでもあり、のちの歴史書「日本書紀」(720年完成)の中にも記されています。
※ハシバミ(榛)・・・ブナ目カバノキ科。ハシバミの仲間のセイヨウハシバミ(西洋榛)はヘーゼルナッツのこと。
ごまの日本への伝来は非常に古く、すでに縄文時代の後半には日本でも栽培されていたことがわかっています(中国から入ってきたか、朝鮮半島を経由してきたかは定かではないようです)

◉米に匹敵する貴重品だった「ごま」
天武天皇が「大宝律令」を公布(701年)した際、田では稲作を、畑ではごまが栽培されました。当時、ごまは貴重品で、身分の高い家だけに供されており、米に匹敵するものだったため、米が不作の時はごまによる代納が認められました(当時の庶民には、ごまより荏胡麻(えごま)のほうが身近な油脂でした)。

灯火用は、長い間ハシバミのような木の実から搾油していましたが、ごまが灯火用として用いられるようになったのは、清和天皇(在位858~876)の頃からで、のちにはこれは菜種(ナノハナ、アブラナ)を原料とした搾油が中心となっていきました。ただし、いずれも食用ではなく灯火用でした。

安土桃山時代には「南蛮料理」と呼ばれる、南蛮人(ポルトガル・スペイン人)とともに渡来した異国風の料理が登場しました。その中には、油で揚げる珍しい手法の料理もありましたが、まだ庶民は知るすべもありませんでした。

ごまは江戸時代に入ると、薬用や精力剤としてもてはやされました。切り傷や火傷用の軟膏にごま油が使われたり、髪につける油などにも用いられました。

◉食用油が庶民に普及したのは明治時代以降
食用油としての油が庶民にまで普及したのは、明治時代以降です。天婦羅や中国料理も食べられるようになり、文明開化後の日本には、西洋の料理だったカツレツやコロッケを出す店が増えていきました。
そして、大正末期にはサラダ油も登場。以後、食用油は一般家庭でも広く使われるようになっていきました。
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<油を用いた料理づくり>
油研究の初回は、油の世界史や食用油の種類を学んだ後、最古の植物油であるオリーブオイルからスタートしました。今回は、メンバーが自宅で使っているオリーブオイルを持ち寄り、それぞれを試飲したのち、オリーブオイルを使った料理を作り、みんなでいただきました。今回使用したオリーブオイルは、イタリア・トスカーナ、ジャッキのEX.バージンオリーブオイル(写真 後列左から2番目)です。 

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◎ブロッコリーとアンチョビのショートパスタ /秋元作

たっぷりの湯をわかし、塩を加え、パスタをゆで始める。小房に分けたブロッコリーは、パスタをゆでている湯に時間差で加え、一緒にゆで上げる。その間に、フライパンにオリーブオイルとにんにく(みじん切り)、赤唐辛子(小口切り)、アンチョビのフィレを入れて極弱火で熱し、香りとうまみをオイルに移したら、ゆで上がったパスタとブロッコリーを加え、ブロッコリーを軽くつぶしながら、サッと炒め合わせる。
「この場合はショートパスタがおすすめです。今回はフジッリを使いましたが、イタリアではよくオレキエッテを使いますね。ブロッコリーをパスタと一緒にゆでると、野菜のうまみがパスタにしみこみます。ブロッコリーはやわらかめにゆで上げ、軽くつぶすのもポイント。パスタの溝や穴の中に入り込んでよくからむからで、だからロングより、ショートパスタなんです」

日本では、見栄えがいいからと、具を大きめのまま使うお店なども多いですが、実際には、イタリアでそうするように軽くつぶしてショートパスタにからめる方がぜったいにおいしいと思います。

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◎きのこたっぷりリングイネ/秋元作

乾燥ポルチーニ(ぬるま湯でもどしておく)、エリンギ、しいたけ、しめじなどのきのこ類をたっぷり使い、うまみだしにドライトマト(熱湯でもどし、刻んでおく)を加えたオイルパスタ。たっぷりの湯をわかし、塩を加え、パスタをゆで始める。フライパンにオリーブオイル、にんにく、赤唐辛子を入れて極弱火で熱し、香りとうまみをオイルに移したら、きのこ類とドライトマトを加え、さらにゆで汁も加えて混ぜ合わせたら、ゆで上がったパスタを加えてあえる。器に盛り、削ったチーズをふりかける。「さまざまなきのこを使っていますが、基本は最もシンプルな“アーリオ・オーリオ・エ・ペペロンチーノ”と同じで、風味高いオイルソースが決め手ですね」

ちなみに、パスタを加える前にゆで汁を加えるのは“乳化”させるためです。パスタのゆで汁にはでんぷんやグルテンが含まれているため、その成分によって、本来は混ざり合わない水と油が混ざり合い(=乳化)、おいしいソースになります。シンプルなパスタといっても、きちんと乳化されていないと、水と油が分離してしまい、水っぽい、あるいは油っぽいパスタになってしまいます。

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◎トスカーナの豆サラダ/秋元作
白いんげん豆(一晩水にひたし、もどしたもの)を、ひたした汁ごと鍋に入れて火にかけ、コトコトゆでる。基本的には日本と同じですが、イタリアの家庭で豆をゆでるときは、「つぶしたにんにく1かけ分、セージの葉(4~5枚)、塩少々、さらにオリーブオイル大さじ1を鍋に加えてゆでます」そして、「豆がゆで上がったらセージ、にんにくを取り出し、豆を器に盛って、あたたかいうちにエクストラバージンオリーブオイルをたっぷり回しかけてできあがり。シンプルすぎるサラダですが、それだけに豆の味やオイルのうまみが際立つんです」

イタリア・トスカーナ地方といえば、よく豆を食べる地域でも知られますが、家庭で昔から食べられているのがこれ。トスカーナの豆はもっと小さいそうですが、サラダといっても、ほかの具はなく、葉野菜を添えたりもせず、それこそゆでた豆だけ。ただ、ゆでるときにセージの葉やにんにく、オリーブオイルを加えるのはいかにもイタリアですね。豆が冷えてしまったり、たくさんゆでて冷蔵保存していた場合は、いったん豆をあたためてからオイルをかけるそうです。

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◎ロメインレタスとパルミジャーノ・レッジャーノのサラダ/秋元作
ロメインレタスは大きめの一口大にちぎって器に盛り、まず塩、こしょう、好みのビネガーをふりかけてあえたら、最後にEx.オリーブオイルを回しかけて全体をざっくり混ぜ合わせ、大きめに削ったパルミジャーノチーズをたっぷりのせる。

こちらもシンプルなサラダ。イタリアの家庭では、あらかじめドレッシングを作っておかず、もっぱら食卓でマンマ(お母さん)が「塩、こしょう、ビネガーをかけ、オリーブオイルをかけ、その場で混ぜ合わせる」ことが多いとか。

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油の研究”の1回目。油といっても、植物油脂、動物油脂ともに非常に多くの種類があるため、これから毎月テーマをしぼって、少しずつ学んでいこうと思います。油の味の比較だけでなく、油の栄養や、近年問題になっている加工油脂の製法やトランス酸のことなども発信していく予定です。

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