料理酒の研究

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

もともと「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。そしてその第1弾が“塩の研究会”。塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。そこで、今年は塩に続いて、さまざまな調味料を研究することにしました。

4.料理酒の研究
砂糖、みりん、その他の甘味料に続き、今回は“料理酒”をとりあげることにしました。なぜ“お酒”?と思われるかもしれませんが、とくに日本料理では、昔から調理に砂糖やみりんとともに日本酒が使われてきた関係で、家庭でも昔からよく使われてきました。ただ、料理酒自体の選び方や使い方は、結構いい加減だったように思います。ご主人の晩酌で残った燗冷ましを使ったり、飲みきれなかった冷酒を使ったり・・・というご家庭は昔も今も多いことでしょう。そこで、改めて料理酒のことを詳しく学び、いくつかの料理酒を実際に調理比較してみることにしました。

その前にまず、“料理酒”の正しい知識から。
調理や味つけの際、酒はみりんとともに使われることも多いいですが、この2つの共通点といえば、どちらもアルコールで、アミノ酸を含むこと。このため、料理に加えるとうまみやコクが増し、食材の臭みを消したり、しょうゆや塩など他の調味料のカドや辛みを丸くする役割りもあります。
酒とみりんの違いはというと、酒はみりんに比べ糖分が少ないこと。また、みりんと逆で、酒には素材をやわらかくする効果があります。このような特徴を知れば、酒とみりんは作る料理によって加えるポイントが違うことがわかってきます。

次に、どんなお酒を選べばいいのでしょうか?
日本酒といっても色々あります。醸造アルコールを使ったお酒から純米酒、吟醸酒や大吟醸酒もあり、味も価格もさまざまです。そして、“料理酒”と表記して販売しているお酒が酒造メーカーその他から出ていますが、こちらもさまざまです。料理酒と、飲むためのお酒はどう違い、使うと料理にどう影響が出るのでしょうか?

“料理酒”の製造元によれば、料理酒とは料理をおいしくするための酒。“飲むための酒”とはそもそも目的が違うため、飲んでおいしいお酒が、料理をおいしくするとは限らないといいます。というのも、おいしく飲むのが目的のお酒は、雑味のないクリアな味わいが求められるため、雑味のもととなる“米の外側部分”を磨いて(削って)しまいます。どのくらい磨くかはお酒によっても違いますが、吟醸や大吟醸ともなると、3割~5割も削り取る場合があります。けれども、この雑味のもととなる“米の外側部分”にこそ、実は、料理用のお酒に必要なうまみ成分が含まれているのです。米の外側部分にあるうまみ成分とは、アミノ酸です。この部分を削り、少なくすると、すっきりクリアな味わいになるため、冷やで飲む吟醸や大吟醸には向いていますが、逆に、料理のためにはこの部分を削らずに残したほうが、うまみやコク、甘みが出るようになります。
料理酒の製造元の杜氏も次のように言っています。「料理を味わい深く仕上げるには、原料の米の使い方に、飲む酒とは違う工夫が必要です」

今回、食ラボでは、いくつかの料理酒と、吟醸酒(飲むための酒)を使い、同じ条件で調理比較してみました。

料理酒

 

 

 

 

 

 

 

 

 
料理酒A  
京都伏見の酒造メーカーの作る料理用の清酒。料理のうまさを演出する20種類以上のアミノ酸を、通常の純米酒の約5倍も含む。720ml 950円前後。
料理酒B  
福島県の酒造メーカーの作る料理用の清酒。玄米と酒粕を使用。うまみ成分となるアミノ酸を豊富に含み、料理にコクと照り、うまみを醸し出す。720ml 950円前後
料理酒C  
兵庫県の酒造メーカーの製品。米と米麹のほかに、食塩やブドウ果汁が入っている。600ml 260円前後。
吟醸酒  
宮城県の酒造メーカーの純米吟醸酒。

◎そのまま試飲  
本来、料理酒はそのまま飲むものではないですが、どんな味なのか、一応みんなで試飲してみることに
しました。

コップ4種

 

 

 

 

 

 

・料理酒A・B お酒としては濃く、べたっとした味。少々辛い。
・料理酒A・B まずくはないし飲めなくはないが、飲み続けたいという味ではない。
・料理酒C 塩が入っているからかしょっぱい。お酒としてはまずく、飲むのはつらい。
・吟醸酒 鼻を近づけたときから違い、いい香り。すっきりした味わいで、飲んでもおいしい。やはりそのまま飲むならこれが一番。

◎「豆腐とわかめ、絹さやの吸いもの」で比較  
だし汁(かつお、昆布)、豆腐、わかめ、絹さや。味つけは、塩と酒だけにして比べてみました。
・料理酒A かつおの香りが引き立つ。だしの香りをじゃましない。まろやか。
最後に、お酒の風味を感じる。青っぽい風味。くせがなく、さわやか。
・料理酒B かつおの香りが引き立つ。甘みやうまみが強い。酒粕っぽい風味を感じる。酸味と少しのエグミを感じる。白身の魚などの淡白な椀種にいいのではないか。
・料理酒C だしの風味が隠れてしまった。塩味が強く、少々苦みを感じる。
・吟醸酒 あっさりした味だが、“酒”の味が残り、全面に出てしまう。かつおの風味はなぜか消えてしまった。うまみはあまり感じられない。

◎「新じゃがと鶏肉の煮もの」をつくり、比較   
<材料>
新じゃが芋600g、鶏モモ肉250g、酒大さじ4、水350ml、砂糖大さじ2、塩小さじ
1/4、サラダ油小さじ2

材料

なべ1

<作り方>
①新じゃがはよく洗い、皮つきのまま小さめの一口大に切る。鶏肉は余分な皮と脂肪を除き、小さめの
一口大に切る。
②鍋にサラダ油を熱し、中火で①の新じゃがと鶏肉を炒める。肉の色が変わったら酒と水、砂糖を加え、フタをして中火で煮る。煮立ったら弱火にし、塩を加え、アクを取りながら肉と新じゃがやわらかくなるまで煮る。

煮物

 

 

 

 

 

 

 

 

 
試食後の食ラボメンバーの感想は次の通りです。
・料理酒A さっぱり煮えていて、くせがない。全体的にあっさり煮えているが、肉のおいしさを感じる。素材の味が引き立っている。
・料理酒B じゃが芋にうまみが入っておいしい。コクがあり、甘みも感じる。
・料理酒C じゃが芋にうまみを感じない。鶏肉が硬く、しまったように感じる。この料理酒には塩が入っているからそうなったのか?
・吟醸酒  あっさり煮えている。料理酒AやBを使用したものに比べると、うまみは弱い気がする。煮上がったじゃが芋は多少水っぽく感じる。

以上、今回は“料理酒”をテーマに取り上げ、いくつかの方法で、料理に使うとおいしくなるお酒を研究してみました。普段から料理にお酒を使うことも多い食ラボメンバーですが、料理酒そのものを飲んだり、料理酒どうしを比較する機会はあまりなかったため、みな興味しんしんで取り組みました。そして、比較してみると、なるほどその違いがわかってきました。
すっきり飲みたい吟醸酒や大吟醸酒から取り除かれているのが、米の外側部分ですが、この部分は、料理用にはうまみに変わる成分(アミノ酸)として必要だということも、実際の調理比較でよくわかりました。
料理に使用するならやはり“料理酒”を。ただ、市販の料理酒の中には、塩分や糖類を加えたり醸造アルコールを用いたものもあります。今回の食ラボの調理比較では、少々お高くても、米や米麹だけで作った純米酒の“料理酒”がいいということになりました。