みりんの研究

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

もともと「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。そしてその第1弾が“塩の研究会”。塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。そこで、今年は塩に続いて、さまざまな調味料を研究することにしました。

2.みりんの研究
「みりん」と一口にいっても、さまざまなメーカーから多種類のみりんが出ています。ラベルには「本みりん」となっていても、価格には大きな開きがあり、気になるところです。また、ひところよく見かけた「みりん風調味料」と「みりん」の違いとは?私たちは何をポイントにして「みりん」を選べばいいのでしょう。そこで、「みりん」の製法の違いや味の違い、さらに調理に使ったときどう違いが出るのか、研究してみることにしました。

みりん集合

 

 

 

 

 

 

まずは資料をもとに、みりんの起源や歴史、製法をみんなで勉強しました。
一般に、「みりん」の原料は蒸したもち米、米麹、本格焼酎を長期間かけて糖化、熟成させたもの。この間に米麹の酵素が、もち米のでんぷんやたんぱく質を分解。糖類やアミノ酸、有機酸その他を生成し、みりんならではの風味をつくり出します。また、みりんはアルコール分を約14%含むため、酒類に分類されます。
一方、「みりん風調味料」は、戦後の米不足と高額な酒税対策のために作られたのが始まりで、米に限らず、雑穀を原料にしたり、塩水の中でアルコール発酵させたあと、水あめやぶどう糖、化学調味料などの甘みを添加し、みりんに似せて作った調味料。アルコールは含まないため、酒販免許のない店でも販売できることや、価格も安いため、一時期は店頭に多種類の「みりん風調味料」が出回りました。

ところが、最近はスーパー等の店頭からこの「みりん風調味料」が減りつつあり、再び「本みりん」の種類が増えてきました。店頭でざっと見ただけでも10種類以上。価格は200円台~1000円以上のものまであります。この価格差は何からくるのでしょうか。  厳選した原材料と、手間や時間をかけてつくる、昔ながらの伝統的製法の「本みりん」は、やはりそれなりに高価です。一方で最近は、原材料や製法の一部を変更した製品も増えています。米や米麹を外国産に変えたり、本格焼酎を醸造アルコールに変えたり、香味を調整し、短期間でつくることでコストを抑え、使いやすくしたものです。これらも「本みりん」と名乗ることができるため、「本みりん」の内容と価格には大きな開きが生じているようです。

価格の高い本みりんと、手軽な本みりん、みりん風調味料、これらを実際に調理に使った場合、どんな効果や差が出るのでしょうか。実際に調理をして確かめてみたいと思います。

その前に、まずは今回購入した5種類のみりんをブラインドで並べ、各自、みりんの味を直接試飲して比較してみることにしました。

みりん

みりん液体

 

 

 

 

 

 

みりん5種の試飲比較
※製品により容量に違いがあったため、価格は比較しやすいよう、以下は500ml換算したものを
のせています。

本みりんA 
岐阜のメーカーの製品。国産のもち米と自家製米麹、米焼酎のみを使用。
仕込みに90日、その後3年間熟成して作られる。
アルコール分13.5度以上14.5度未満。エキス分40度以上。500mlあたり約473円

本みりんB
愛知のメーカーの製品。国産減農薬栽培のもち米と、米麹、自家製米焼酎のみを使って作られる。
熟成期間は2年。
アルコール分13.5度、エキス分43度以上。500mlあたり約494円

本みりんC
大手メーカーAの製品。タイ産と国産のもち米、米麹と、醸造アルコールを使用。
アルコール分13.5度以上14.5度未満。エキス分45度以上。500mlあたり約228円。

本みりんD
大手メーカーBの製品。タイ産もち米、国産米米麹、醸造アルコール、糖類使用。
アルコール分12.5度以上13.3度未満。エキス分51度。500mlあたり約241円。

みりんタイプ
兵庫のメーカーの製品。ラベルの品名は「有機醸造調味料」となっている。
国産有機米、食塩、有機砂糖使用。酒税法上の酒類に含まれない。
500mlあたり約278円。  

食ラボメンバーによる試飲結果は、以下の通りです。
本みりんA
黄金色。とろみはやや強め。米や米麹の香りを感じる。
すっきり上品で、まろやかな甘さあり。余韻は長い。

本みりんB
Aよりさらに濃い黄金色でとろみも強い。紹興酒やポートワインのような香りあり。濃厚な甘さ。カンロ飴のような味。
Aよりお酒っぽさを強く感じる。余韻は長い。食後や寝酒にちびちび飲み続けたいおいしさ。

本みりんC
多少黄みをおびた色。とろみは少なく、さらさらしている。AやBに比べると甘みが少ない。
スッとする揮発性(接着剤風)のアルコールの香り。

本みりんD
多少黄みをおびた色。麹の香りを感じる。とろみは少なく、さらさらしている。
あっさりして、AやBに比べると甘みは少ない。

みりんタイプ
多少黄みをおびた色。ややとろみあり。しょっぱい(塩っぽい)。
甘みより塩気がまさっているような味。使用するときは塩味が強くなりすぎないよう注意が必要。
酢のようなニオイや味がしたり、ほかにもいろいろな味がする。乳酸菌飲料のような味も。

では、実際の料理ではどう違いが出るのでしょうか。今回は3種類の「肉じゃが」を作り、比較してみることにしました。同条件になるよう、3種類とも食材や調味料、火加減や煮込み時間を同じにし、みりんだけを替えて行いました。

クッキング

 

 

 

 

 

 

材料は牛肉200g、じゃが芋3個、玉ねぎ1/2個、にんじん1/2本、だし汁11/2カップ、みりん大さじ3、砂糖大さじ1/2、しょうゆ大さじ2。
※今回使用したのは、みりんタイプ、本みりんC,本みりんBです。
その結果はというと・・・、今回も予想以上に違いが出ました。

にくじゃが3種

 

 

 

 

 

 

みりんタイプ使用(写真手前中)
肉じゃがの色が浅く(白っぽく)あまりおいしそうに見えない。実際の味もそっけなく、よそよそしい。
じゃが芋がおいしく煮えず、味が十分しみこんでいない。後味が多少すっぱい。肉の臭みが感じられる。
ほかの2つに比べ、じゃが芋が煮崩れしやすかった。

本みりんC使用(写真奥右)
色は若干浅めで白っぽい。じゃが芋は煮崩れなかったが、味は少々よそよそしく、水っぽく、
甘みもしょうゆ味もぼやけている。

本みりんB使用(写真奥左)
色よく煮上がっている。食べても、見た目通りにおいしく、甘みと塩気のバランスもいい。
とくにじゃが芋がおいしい。
肉は少々硬くなったが、味はよくしみている。にんじんは、ほどよくにんじん臭さが抜けた。
にんじんのグラッセを作ってもおいしいかもしれない。

今回の調理比較をするまでは、みりん(大さじ3)が違うだけで、見た目や味に大きな違いが出るとは思っていませんでした。
食ラボメンバーたちもみな、これまで何度も作ってきた肉じゃがですが、今回のようにみりんを替えて同時に比較をしたことはなかったので、この結果には驚いていました。

昔から煮物などのときに使われてきたみりんですが、今回の結果を見ますと、砂糖の代理でもなければ、
縁の下の力持ちでもなく、みりんにはみりんの重要な役割や効果があり、それはみりんにしかできないことに、改めて気づかされました。