だしの研究8

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。
塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。
そこで、今年は塩に続き、さまざまな調味料を研究することにし、砂糖、みりん、甘味料、料理酒、酢などの身近な調味料を改めて見直し、比較研究をしてきました。
そして、昨年11月からは「だし」をとりあげています。

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8.だしの研究⑧
「だし」の研究の8回目。かつお節や昆布などの単体のだし、合わせだし…その他の味比較をしてきましたが、今回のテーマは先月に続き「干しいたけ」です。

◉干しいたけのうまみはグアニル酸
さまざまな食材の「だし」の3大うまみ成分として知られるものには、グルタミン酸、イノシン酸、グアニル酸などに分けられます。グルタミン酸はたんぱく質を構成するアミノ酸のうちの1つで、昆布をはじめ、しょうゆ、みそ、チーズのほか、トマト、玉ねぎ、ねぎや白菜などの野菜に含まれています。一方、かつお節や煮干し、干貝柱などの魚介類や、豚肉、鶏肉、牛肉などの肉類に含まれるのが、核酸に分類されるイノシン酸。そして、干しいたけなどきのこ類のうまみはグアニル酸という核酸に分類されます。
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◉乾燥や熟成でうまみが増加 
干しいたけのうまみ成分グアニル酸は、生しいたけにはあまり含まれていませんが、干すことで10倍にも増加することがわかっています。
このほか、トマトは赤く熟すにしたがってグルタミン酸が増加。肉類や魚類、あるいはそれらを加工・熟成したチーズや生ハムなども、
時間の経過や熟成によってたんぱく質が分解されてアミノ酸が増え、うまみ成分のグルタミン酸が増えることが知られています。

◉うまみの相乗効果で、うまみは飛躍的にアップ
うまみ食材は単独で使うよりも、2つ以上合わせて使うほうがうまみが増すといわれています。その効果のほどは1+1=2ではなく、場合によっては7~8倍にも増加します。
とくにグルタミン酸(アミノ酸系)とイノシン酸、あるいはグアニル酸(ともに核酸系)を組み合わせると、うま味は飛躍的にアップすることが知られています。
例えば日本料理のだしは昆布(グルタミン酸)とかつお節(イノシン酸)の組み合わせ。西洋料理のフォンは玉ねぎ(グルタミン酸)などの野菜類と、
牛スネ肉(イノシン酸)が使われるなど、昔から理にかなった使い方がされてきました。
さらに、なまぐさものを使わない精進料理などで、昔から干しいたけとともに使われてきたのが昆布(グルタミン酸)でした。
昆布が海の野菜なら、干しいたけは山の肉。この両者を組み合わせ、料理の味を引き立てたのです。

◉干しいたけの方が、栄養もうまみ成分も驚くほど増加!
しいたけにはビタミンDやカリウム、食物繊維が豊富に含まれています。これらの栄養分は、干しいたけになるとビタミンDは約8倍に、カリウムは7.5倍に、食物繊維になると12倍にも増えることがわかっています。
このほかのも、コレステロール値や血圧を下げる効果のあるエリタデニン、がん治療に期待の成分レンチナンなども含まれています。

しいたけのうまみ成分はアミノ酸の一種であるグアニル酸で、昆布に含まれるグルタミン酸や、かつお節、煮干のイノシン酸と並ぶ成分です。
グアニル酸は細胞の核を形成するリボ核酸の一つで、新陳代謝を促進し、脳の活動にも欠かせない栄養素です。実はこのうまみ成分、生しいたけにはあまり多く含まれませんが、
干しいたけになると約10倍にも増加します。干して乾燥することによって細胞膜が破れ、酵素が自由に働けるようになるため、干しいたけをもどすときと、加熱する間にうまみが飛躍的に増えるからだといわれています。

<干しいたけの料理> 
先月に続き、干しいたけを使った料理を作り、みんなでいただきました。

◎干しいたけのトマトパスタ/秋元作   
もどした干しいたけ、玉ねぎ、ベーコン、トマト(水煮缶)でトマトソースを作り、ゆでたスパゲッティとあえました。干しいたけを水でもどすかわりにトマトジュース(無塩)でもどしたのもポイント。
厚みのある干しいたけでしたが、トマトジュースでもどすことで、芯までトマトのうまみが浸み込んでいたこと。そして、干しいたけとトマトのうまみの相乗効果で、味にさらなる奥行きが生まれました。

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◎干しいたけのクリームソースパスタ/秋元作
イタリア料理でよく使われるフンギ・ポルチーニ・セッキ(乾燥ポルチーニ茸)のかわりに、干しいたけを使ってみました。「もどした干しいたけ、玉ねぎを、にんにくの香りをつけたオリーブオイルで炒め、
もどし汁と生クリーム、白ワインを加えてサッと煮込み、最後に生ハムとチーズ(パルミジャーノ・レジャーノ)、無塩バターを加え、これをゆでたてのタリアテッレとあえます」。
イタリアと日本の干しいたけ対決は、甲乙つけがたいものがありました。

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◎干しいたけのステーキ/長島作
実はこれ、先月のリベンジ料理です。先月はもどした干しいたけをじっくり弱火でむし焼きし、しいたけの水分をとばしたつもりでしたが、最後のバター&しょうゆの味がなかなかしみ込まず、
結果的に少々薄味すぎて物足りなかった・・・というのが正直な感想でした。
そこで、「今回は、干しいたけのもどし方を少々変えてみました。先月と同じくらい肉厚の干しいたけは丸2日かけてもどしますが、
最初の1日は水でもどし、2日めは塩を加えて2%の塩水に。これでもどして干しいたけ自体にあらかじめ塩けを入れました。
当日はしいたけを軽く絞って水けをきり、薄くオリーブ油をしいたフライパンでじっくり蒸し焼きに。両面焼いて水けをとばし、ふっくらしてきたらバター(無塩)&しょうゆで味付けて仕上げます」。

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◎干しいたけ入りオムレツ/久保田作
オムレツの中にきのこ類を入れると、きのこの香りが閉じこめられ、切り口からふわーっと香りが立ちます。日頃、生しいたけでそう感じていたので、干しいたけはどうなのか、今回試してみたくなりました。
その結果はといいますと、残念ながら香りは生しいたけの方が上かな~ということになりました。とはいえ、干しいたけならではのうまみはたっぷり。オムレツはおいしくいただきました。

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“だしの研究”の8回目。前回に引き続き、テーマは「干しいたけ」。干すことによってグアニル酸が10倍にも増えるという干しいたけのうまみを満喫しました。
干しいたけというと、やはり最初に和食や中華料理に使うイメージがわいてきますが、今月はイタリアンで使ってみました。
たとえばパスタに用いてみれば、トマトやチーズ、生クリーム類との相性も抜群でした。
そして、先月のリベンジで、今月も再び干しいたけのステーキに挑戦。2日間のうちの1日を塩水につけてもどしたことで、驚きの結果になりました。
“山の肉”といわれるだけあって、まさに極上肉のステーキにも負けないおいしさ!うまみたっぷりの肉汁まですべて余さずに味わうことができました。