『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』
「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。
塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。
そこで、今年は塩に続き、さまざまな調味料を研究することにし、砂糖、みりん、甘味料、料理酒、酢などの身近な調味料を改めて見直し、比較研究をしてきました。
そして、昨年11月からは「だし」をとりあげています。
だしの研究⑭(最終回)
「だし」の研究の14回目。かつお節や昆布などの単体のだし、合わせだし…その他の研究や味比較をしてきましたが、今回のテーマは、先月に続き「魚醤」です。最終回の今回は日本の新しい魚醤「鮎魚醤」にスポットをあてることにしました。
◉淡水魚を用いた、初の魚醤
世界各地の魚醤は海水魚を使って作られるのに対し、淡水魚のアユを使って作られた初めての魚醤。アユと塩を原料に、8カ月間発酵・熟成させて作ったもの。大分県日田市のみそ・しょうゆの醸造業者が開発した商品で、アユだけの魚醤のほかに、しょうゆとブレンドした魚醤も作られています。
◉“規格外”のアユを有効利用するために開発
この地の三隈(みくま)川や玖珠(くす)川などでは、昔からアユ漁やアユの養殖が盛んでしたが、体長が規格外だったり、傷がついて売り物にならないアユは、今までずっと廃棄されてきました。
そんなアユを何とか利用できないかと、養殖業者から相談を受けた地元のみそ・しょうゆの醸造業者がアユで魚醤を作ることを思いつき、タンパク質分解酵素の研究を行っていた大分県産業科学技術センターと共同で開発を進めました。ただ、海水魚を使う魚醤と違い、淡水魚であるアユの魚醤は世界でも例がなく、4年間試行錯誤を繰り返した結果、うまみを残しながら、臭みを低減することに成功し、鮎魚醤が完成。2004年から発売されています。
魚醤のイメージを変えた、新しい魚醤
鮎魚醤は、発酵食品としてのうまみが十分ありながら、魚醤としては臭みが少ない点が特徴です。これによって、和食をはじめ、フランス料理、イタリア料理などさまざまな料理の隠し味にも使われるようになり、イタリア料理などのシェフたちからも高い評価を受けました。近年は、パリやニューヨークなど、海外のレストランでも使用されるようになり、地元の規格外のアユだけでは原料魚が不足するほどになっています。
<「魚醤」を使った料理づくり>
魚醤を使った料理を作り、みんなでいただきました。今回使用した魚醤は、大分県日田市の「鮎魚醤」(まるはら200ml1,404円)です。
合名会社まるはら
◎あんかけ茶わん蒸し/長島作
卵液に昆布だしを加えて蒸し上げ、茶わん蒸しを作る。小鍋に昆布だし、鮎魚醤、みりん、酒を9:1:1:1の割合で入れ、砂糖も少々加えて火にかける。ここに百合根としめじを加え、サッと煮たら水溶き片栗粉を加えてとろみをつけ、あんを作る。蒸し上がった茶わん蒸しにあんをのせ、三つ葉を飾る。
茶わん蒸しには具を入れず、また、かつおだしは使用せずに昆布だしと卵液だけでプレーンな味の茶わん蒸しにしました。その代わり、あんかけのあんの方に百合根としめじの具を入れ、さらに鮎魚醤を使って味つけました。シンプルな茶わん蒸しだからこそ、うまみたっぷりのあんがよりひきたちました。
◎鶏のから揚げ 青ねぎ、にんじんの鮎魚醤ソース/長島作
一口大に切った鶏モモ肉に塩を軽くふり、片栗粉をまぶしてカラリと揚げる。青ねぎは小口切り。にんじんはみじん切り。これらを合わせて鮎魚醤であえ、揚げたてのから揚げにたっぷりのせる。
ソースといっても、青ねぎとにんじんを鮎魚醤少々であえたもので、汁気はほぼなし。いつものから揚げが、ひと味違う味に。このソース、薬味代わりにもなるため、鶏肉以外の肉や、魚などにもいろいろ使えそうです。
◎大根ステーキ 鮎魚醤風味/長島作
大根は2㎝幅に切り、隠し包丁を入れ、多めの油でフタをして中弱火でじっくり蒸
し焼きに。焼き色がついたら裏返し、軽く塩をふって裏面もさらに焼く。中までほぼ火が通ったら酒少々をふりかけてさらに焼く。最後に鮎魚醤少々を回しかけ、エリンギをのせて一緒に焼く。
みずみずしい冬大根をじっくり焼いたステーキ。最後に鮎魚醤で味をつけるのがポイントでしょうか。香ばしさと魚醤のうまみが浸み込み、極上の味わいでした。
◎冬野菜と柿のマリネ/長島作
柿は皮をむいて1㎝大に切る。れんこん、赤かぶは薄切りにし、カリフラワーとしめじは小房に分け、サッと湯通ししてザルに上げ、しっかり水けをきっておく。ジップ付きの袋に酢、オリーブ油、昆布だし、はちみつ、鮎魚醤を入れ、ここに柿と野菜類を入れてマリネする。1~2時間おけば食べごろに。
先月は浅漬けを作りましたが、今回はマリネ。オリーブ油や酢に、昆布だしと鮎魚醤を加えたマリネ液に漬けました。れんこんや赤かぶといった和野菜には、やはり今日のような和洋折衷のマリネ液がよく合います。柿の甘みもおいしいアクセントになりました。
“だしの研究”の14回目。最終回は、「鮎魚醤」を用いていくつかの料理を作ってみました。食ラボのメンバーはみなもともと魚醤が大好き。魚醤ならではの独特の臭みも、炒めたときに漂うニオイも平気です。エスニック料理などはむしろこういうニオイや風味があってこそのおいしさだとも思っていました。
けれども、「鮎魚醤」はまったく違う概念の魚醤でした。開発当初から“臭みのない魚醤を目指した”というように、調理に使っても、あの独特のニオイは漂いません。けれどうまみはしっかりとあり、これによって料理にコクや深みが出ました。よって、素材の香りや味をじゃますることなく、さまざまな料理に使え、隠し味としても活躍しそうです。
ただ、今回1つの料理を6~8人分ずつ、4種類の料理に用いたら、ほぼ1ビン(200ml)がなくなりました。一般家庭で使う調味料としては、かなりお高いと思います。食ラボメンバーからも、「もう少しこなれた価格になれば、もっと日常的に使えるのだけれど・・・」という感想が出ました。