だしの研究

『身近な調味料をもっとよく知り、おいしく使おう!』

「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。
塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。
そこで、今年は塩に続き、さまざまな調味料を研究することにし、砂糖、みりん、甘味料、料理酒などの身近な調味料を改めて見直し、比較研究をしてきました。
そして、11月からは「だし」をとりあげています。

7.だしの研究①
今月は「だし」の研究の1回目です。いくつかの「だし」の風味や味を比較したり、資料をもとに、改めて“だしの歴史や効果”を学ぶことにしました。

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「だし」の歴史

一口で「だし」といっても、さまざまです。日本料理に使う「だし」だけでもかつお節、昆布、干ししいたけ、煮干し・・・・などがありますし、中国や東南アジア料理、西洋料理・・・などでもさまざまな「だし」を使いますが、まずは身近な日本料理の「だし」からスタートすることにしました。

現在の「だし」に相当するものが、文献(料理書)に最初に登場したのは室町時代といわれていますが、そこに記されていたのは、“白鳥を煮て調理する際、かつお節を用いた「だし」を使う”ということでした。その後、江戸時代になると、北海道の開発に伴い、北前船で昆布が運ばれるようになり、昆布も使われるようになりました。その後、かつお節と昆布をともに使う“合わせだし”も登場しました。
一方、しいたけは有史以前から食べられてきましたが、「だし」として、そのとり方が文献に紹介されたのは江戸時代後期(1800年頃)になってからでした。

文献に登場したといっても、江戸時代までの料理書はプロの料理人向けのもので、家庭向けの料理書が出版されるようになったのは、明治時代に入ってからです。時代とともに庶民の生活は徐々に向上していきましたが、かつお節でだしをとるのはお正月などのハレの日。普段は煮干し(西日本)だったり、さば節、宗田節(東日本)などを使って「だし」をとっていたようです。

また、同じ日本でも、地方によって使う「だし」には違いがみられます。理由はいくつかあるようです。かつての昆布の流通経路や水質の影響もありますし、うどんやそば文化、薄味や濃味・・・など、料理や味の好みによっても違いが出たようです。

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◉かつおだし
さまざまなだしの中から、今回はまずかつお節でとった“かつおだし”に焦点をあて、味比べをすることにしました。かつお節の製造法は時代により、地域によっても変わってきましたが、現在は大きく分けると、燻した段階で加工を止める「荒節(あらぶし)」と、そのあとにカビ付けをし、熟成させる「枯節(かれぶし)」に分けられます。
荒節はカビ付けと熟成を行わない分、短期間ででき、コストがおさえられるため、大量生産にも向いています。スーパー等で買える「花かつお」と書かれたかつお削り節(大型パック)はこの荒節を用いたものです。
一方、枯節は数回に渡ってカビ付けと乾燥の作業を行うため、手間がかかり、できあがるまでに最低半年以上。中には、それをさらに寝かせ熟成させた1年物や2年物もある枯節は、その分値段にも影響しますが、熟成段階で脂肪分が分解されるため、よりまろやかで上品な風味のだしがとれるといわれています。
今回は、まずこれらのだしの味の違いを比べてみることにしました。

その前に、食ラボメンバーに日ごろかつお節からどのようにだしをとっているか聞いてみました。すると、今はみな“節(ふし)”ではなく、“削り節”を使用していることがわかりました。自宅にかつお節削り器がある人でも「ずいぶん前から使わなくなってしまいました」という答え。築地のかつお節屋「伏高」でも話をうかがうと、「昔に比べ、業務用の削り節製造機の性能や、包装パック技術が格段に進化し、削りたてに近い状態を保てるようになりました。ですから近年はうちの店あたりでも、ご家庭でだしをとるという方に、削り節の状態での購入をおすすめすることが多いですね」と、ご主人の中野さん。そこで食ラボのだし研でも、最初から“削り節”を用いて、味比べをしてみることにしました。

今回はこの方法でだしをとりました。
かつおだし(一番だし)のとりかた
材料:水、削り節
1.鍋に水を入れて火にかけ、煮立ったら削り節を加える。箸で湯の中に沈めたら、すぐ火を止める。
2.ザルに取り出し、箸で押さえて漉す。
※一番だしは“絞ってはいけない”と言われますが、削りたてのものであれば、ザルに取り出した削り節を漉す際、箸で押さえる程度ならいいそうです。
その方がうまみも出るからですが、日がたった削り節は、逆に臭みやアクが出るのでやめた方がよさそうです。

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1.かつおだけを使っただし汁で種類別の味比べをしました(④はまぐろ…参考品)。
<だし比べ/種類別>
※削り節の量は5%で統一                         
①かつお(花かつお=荒節)
水500ml、削り節25g(80g/407円)
②かつお(荒節)
水500ml、削り節25g(500g/1,922円)
③かつお(本枯節)
水500ml、削り節25g(500g/2,139円)
④まぐろ 血合い抜き
水500ml、削り節25g(500g/2,354円)

※①はスーパーで購入。②③④は築地「伏高」で購入。

◎食ラボメンバーによる、味の感想は・・・・、
①多少生臭さを感じる。酸っぱさを感じる。飲んだあと、舌に少し渋みが残った。
②かつおの風味が感じられる。あっさりしているがおいしい。
③まろやかで、なおかつすっきりしている。うまみや甘みを感じる。
④色は最も白っぽい。まぐろの風味を感じる。上品であっさり薄め。
家庭料理用に普段使いするのは、むずかしいかもしれない。

2.削り節は統一し(上記の②のかつお(荒節)使用)、だし汁の濃さを変えて味比べをしました。
<だし比べ/濃さ別>   
①3%
水500ml、削り節(荒節)15g
②5%
水500ml、削り節(荒節)25g
③8%
水500ml、削り節(荒節)40g

◎食ラボメンバーによる、味の感想は・・・・、
①色の濃さは、3%と5%はほとんど変わらない。味は薄めで、少し物足りない。多少、酸味も感じる。
②ほどよくコクがあっておいしい。うまみを感じる。
③色が濃い。5%のだし汁よりいっそううまみを感じ、おいしい。ずっと飲み続けたい。

3、上記のだし汁に、それぞれ一晩水出しした昆布だしを加え、合わせだしの味比べをしました。
◎食ラボメンバーによる、試飲の感想は・・・・、
①かつお味より、昆布の風味の方が勝ってしまう。
②かつお味と昆布味、どちらも強すぎず、バランスがよく、非常においしい。
③かつおの風味がどこまでも勝ってしまう。

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◉冬瓜と鶏肉のスープ煮・ほうれんそうのおひたし・かつおだしのみそ汁

以上、今回は“だしの研究”の第1回。普段は「合わせだし」を使う人が多いと思いますが、あえて「かつおだし」にしぼって、味を比較してみました。すると、荒節と枯節の風味や味の違いもくっきりわかって、とても興味深かったです。3%、5%、8%と濃さを変えた味比べも、普段はなかなかできない比較でおもしろかったですが、そのあとで参考までに昆布水を加えてみたところ、かつおだしだけとは違う評価になりました。

家庭向けの料理レシピでは単に“だし汁”と書いてあることが多いですが、実際にだしをとるとき、かつお節(削り節)の量はどのくらい使えばいいか、みなさんよく迷うところ。料理教室などで質問されることも多いようです。料理屋さんになると5%でだしをとるお店も多いようですが、ご家庭ならだいたい3~4%程度が多いでしょうか。ただ、かつおだけでだしをとるのと、昆布などとともに合わせ出しにする場合は、味や風味は当然違ってくると思います。正解は1つではないと思いますが、この先何回かにわたりさまざまなだしを比べ、“おいしい家庭向けのだしと、そのとり方”を探ってみたいと思います。

<おまけ>

築地のかつお節屋「伏高」さんに“家庭における削り節の保存法”をうかがったところ、冷凍保存をすすめられました。かつお節そのものは酸化しにくいのですが、削ってしまうとたちまち酸化が始まります。1日放置すれば風味は半分以下に、色もどんどん変わり、1週間で風味はほぼなくなってしまうとか。窒素充填のパック包装された削り節であっても、一度開封すれば同じこと。空気を抜いて冷凍保存し、できるだけ早く使うようにしましょう。