塩の研究4「“焼き塩”を作ってみる」

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塩の研究 6

しっとりした塩を、さらさらの焼き塩へ

“焼き塩”とは、文字通り焼いた塩のことで、昔は家庭でもよく作っていました。昭和30年頃までの塩はにがり分が多く、非常に湿気も多い塩だったからです。食ラボのK研究員によれば、「とにかくベタベタで、塩を入れた壺の一番下の方は必ずぬれていた記憶があります」。それゆえ、普段からよくほうろく鍋などを用いて塩を炒り、水分を飛ばしさらさらにしてから使っていたそうです。焼き塩は振り塩しやすく、食卓でも使いやすかったとか。昨今の塩は、昔のようなベタベタの塩ではないものの、にがりを含む塩はしっとりしています。しっとりした塩は、薄く塩を振りたい場合や、全体に均一に振りたい場合などは、やはり振りにくさを感じるという意見もあったため、食ラボでも実際に焼き塩作りをしてみることにしました。

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ほうろく(焙烙)
素焼きの雑器で、土鍋の一種。800~900℃で低温焼成されたもので、炒鍋(いりなべ)とも呼ばれる。昔からお茶や豆、ごま、銀杏、塩を炒ったり蒸したりするときに使われた。

使用する鍋によって、味に違いが出るか?

◎用意したもの
しっとりした塩、鍋3種(フライパン(フッ素樹脂加工)、アルミ鍋、ほうろく鍋)

◎作り方
1. しっとりした塩を、それぞれフライパン、アルミ鍋、ほうろく鍋に入れ、弱火で加熱。木べらなどで常にかきまぜながら焦がさないように炒り続ける。

2. 塩の水分が飛んで、さらさらになってきたら火からおろす。

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<食ラボの結果>

焼き塩byフライパン

「塩がフライパンにしみついた油を吸収してしまったのか、塩が油くさくなってしまった」「フッ素樹脂加工のフライパンでこの状態なら、鉄のフライパンはさらに無理だと思う」「油が回って臭みが出てしまい、だめでした」「塩が油くさくなってしまった。このまま調味料として使ったら、料理に影響するでしょう」「鼻に近づけただけで、すでに油臭さを感じた」

焼き塩byステンレス鍋

「フライパンよりずっといいが、少々金気を感じる」「金気を感じる」「金気臭さとと、苦味も感じる」「焼き加減もあるかもしれないが、少し苦味が出る気がします」「ほうろく鍋より手軽に、短時間で焼き塩ができる点は便利」

焼き塩byほうろく鍋

「最後まで臭みや余計なニオイがつかないまま、焼き塩ができた」「ほかの2つの鍋と、ここまで違うとは思わなかった。これはおいしい。ほうろく鍋ってスゴイ」「時間と手間はかかるが、やはりまろやかで一番おいしい」「臭みも苦味もなく、まろやかで甘みも出た」「香ばしく、おいしくなった」「こんなに差が出るとは思いませんでした」「昔の人の知恵を実感しました」「一度に少量しか作れず、手間と時間はかかりますね」

結果は一目瞭然。鍋の材質により、想像以上に違いが出ました。フライパンは日頃から使っているものだと油がしみこんでいるので、焼き塩を作ったものの、塩が油くさくなってしまいました。フッ素樹脂加工のフライパンでこれなので、鉄のフライパンはいっそう油くささや、鉄くささも吸収してしまうと思われます。まっさらな新品を使う以外、フライパンでの焼き塩作りはやめたほうがよさそうです。ステンレス鍋で作った焼き塩は、多少金気や苦みを感じたものの、油くささは感じませんでした。圧倒的においしかったのは、昔ながらのほうろく鍋。余計なニオイがつかず、まろやかでおいしい焼き塩ができました。とはいえ、ほうろく鍋はどの家庭にもあるものではないことや、素焼きのため割れやすいこと、一度に作れる(炒ることができる)焼き塩の量も少量なので、どうしても手間と時間はかかり、実用的ではないことも事実です。

焼いた塩と焼かない塩、味はどう違う?

◎用意したもの

A瀬戸のほんじお、Bゲランドの塩、鶏モモ肉適量

◎作り方

1. A瀬戸のほんじお、Bゲランドの塩ともに、ほうろく鍋を使用して焼き塩を作る。
瀬戸のほんじお(焼き塩)、B´ゲランドの焼き塩

2. 先に肉を焼いてから、A B A´B´とも、肉の重さに対しそれぞれ1.5%の塩を、できるだけ均一に肉に振りかけ、食味比較。

 

<食ラボの結果>

塩そのものの味比較

「Aは塩味が強くとがった感あり。A´の焼き塩はとがった感じが抜け、やわらかい味わいに。Bは塩味の中にやや苦味も感じる。B´の焼き塩は苦味がとれ、まろやかになった」「Aは塩辛さをストレートに感じる。焼き塩にすると塩角がとれ、まろやかな塩味に。Bはさっぱりした塩味で、苦味も感じる。焼き塩のほうはまろやかな塩加減で、旨味もある」「Aはそのままでは塩気が強く、舌を刺す感じ。焼き塩にしたらとがった感じがとれ、まろやかになった。Bも塩気を強く感じたが、焼き塩にしたらおいしく、そのままでも舐められる」「どちらも焼き塩にすると、あたりがまろやかになり、やさしい口当たりになる」「焼き塩はさらさらしているので料理にもふりやすく、食卓塩としてもよさそう」「どちらもそのままではかなり塩辛さが目立ったが、Bはとくに焼き塩にしたら、まろやかで甘くなった」「Aは塩辛さの中に甘みも感じるが、科学的な甘さで、口に残る。焼き塩にすると、その科学的な残味が消える。Bはやさしい甘み部分が、焼き塩にしたらさらに丸くなった」

焼いた鶏モモ肉で比較

「Aは焼いても塩をしっかり舌に感じるが、焼き塩を使うと味がまろやかになった。BはAほど塩気を感じないが、焼き塩を使うとやはりまろやかになり、ことにおいしく感じた」「Aは塩味をしっかり感じる。焼き塩を使うと肉のうまみがひきたつ。Bはそのままでも、鶏肉にまろやかな塩味とうまみが出る。焼き塩にすると少し塩気が弱くなり、追加で振りかけても塩味はあまり強くならなかった」「Bの塩は肉の味がいきる。焼き塩にすると、しゃきっとした甘さが出るが、塩味としては少し物足りない気も」「Bはちょうどよい塩味。焼き塩だと薄味になり、パンチがなくなる」「Aは可もなく不可もなく普通。焼き塩にするとやわらかい塩味に。BはAより塩味を薄く感じるが、バランスはよい。焼き塩にするといっそうまろやかになり、苦味もなくなった(塩だけで味をみたとき、少々苦味を感じたため)」

食ラボの結果は、想像以上に差が出ました。焼き塩にすると、しっとりした塩がさらさらになり、均一に振りやすくなること。塩そのものの味はとがった角がなくなり、同じ塩とは思えないくらいまろやかで、やわらかい塩味になりました。調理に使ってもこのまろやかな味は反映されましたが、少々塩をきかせてアクセントにしたい場合などには、塩によっては少々パンチが足りなくなる、塩味がききにくくなる、という傾向も見られました。

もともと“焼き塩”を知っていた食ラボ研究員たちも、実際に作って、使ってみた結果、ここまで違いがあるとは思わなかったようです。焼き塩の効果、あなどれません。ただ、家にほうろく鍋がない、あるいは焼き塩作りの時間がとれないときは、すでに“焼き塩”にしている市販品もあるので、それを使うのも1つの手かもしれません。

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