食の仕事人ものがたり 第2回

食の仕事にかかわるさまざまなプロたちにお話をうかがいます。
シリーズ第2回は、米穀店「スズノブ」代表取締役 西島豊造さん。

西島豊造さん写真 (1)

東京都目黒区の米穀店「スズノブ」代表取締役。北里大学獣医畜産学部土木工学科卒。農業近代化コンサルタント会社への就職を経て、家業の米屋を継ぐ。現在は米屋の経営のほか、米作農家の生産者の指導や米の品種改良、地域活性活動、調理師学校の講師まで幅広い。またお米博士、五ツ星お米マイスターとしてTVや雑誌等でも活躍中。

―――お米屋さんとしてはユニークな経歴をお持ちですね

大学の学部は土木工業科で、ここで土について研究していました。卒業後は北海道の農業土木のコンサルタント会社に就職し、水田の設計やダムの構造計算などの仕事をしていました。当時は、大学や仕事で学んだ知識がまさか家業の米屋に活かせるとは思いもしませんでしたが、実際には大いに役立つことになりました。土を学んで、農業土木の知識を得たことは、今の自分の強みになってます。

―――小売業の枠を超えて活動し始めたきっかけは?

以前から小売の米屋の中には、スーパーなどと差別化するため、生産者から直接仕入れして、こだわった米を販売する店はありました。自分が産地を見てまわったのは、そういった仕入れ目的もありましたが、それ以前に、米の品種や産地の勉強のためでもあったんです。ところが、全国を見てまわる間に、産地の後継者不足や、田の衰退している実態をまのあたりにして愕然としました。

街がさびれると、若い人や若い家族に必要な仕事や場所が減るため、元気な街へと出ていってしまう。そうなるとさらに町は衰退してしまいます。その負の現象をくい止めるためには、魅力ある街、存在価値のある街にしなくてはならないんです。

自然を相手にしている米作は、必ず豊作や不作があり、大雨などの災害もあって、田植えから稲刈りまではひとつの大きなストーリーなんです。だから、これらを消費者にしっかり伝え、なんとか産地の活力を取り戻すシステムを作れないかと考えたんです。

―――具体的にはどのような活動を始めたのですか

生産者とだけつながるのではなく、JAや地域全体と手を結び、その地域でしかできないブランドづくりを始めました。生産者と地域農協や全農その他、市町村や県、米屋が一体となって、今までの概念にとらわれず、自由な発想で、新しい栽培法や銘柄米づくりに取り組み、時代に合った新しい米づくりを目指そうと思いました。また途切れてしまった農業の後継者をもう一度育て、産地を活性化しようと・・・。そのためにも、独自のプロジェクトを立ち上げ、各地の環境を活かした米の栽培方法を探り、差別化できる特徴や味をもった新しいブランド米を誕生させています。将来的には、米の産地の格差をなくし、消費者が産地イメージでお米を選ぶのではなく、自分の好みでお米を選ぶ、そんなふうになるのが理想ですね。

―――日本中の産地から声がかかりませんか

休みなしですよ、飛び回っています。自分は小売なので、消費者の声が聞こえるし、流通や経済の流れもわかるから、意見を言わせてもらっています。一方で、個人で生産から流通まですべてやっているような、がんばっている農家ほど末端の情報が入ってこなくて、古い考えのまま「俺の作る米が一番うまい」と言い続けていることも多い。が、個人ですべてできる時代は終わっています。今は地域全体が一丸となって取り組む時代です。だからこそ、地域密着の農協の活性化をしていかなくてはなりません。

―――いまの農業の現状をどのように見ていますか

中山間地が大半の日本では大規模農業は無理だと思っています。コストが下げられないため、価格では外国から入ってくるものに対抗できない。そうなるとまず何が起こるかというと、農業をあきらめる人が増えていき、農業の崩壊が始まります。手間がかかる中山間地ほど、農地が捨てられ荒れていきます。手入れをしていない水田は、乾燥するだけでなく、樹木が生えることで基盤の土がひび割れ、水を蓄えるダムとしての機能を失ってしまいます。その結果、大雨の時にはひび割れた部分から地中に雨水が一気に流れ込み、表面的に崩れるだけに収まらず、山が削り取られるような大きな土砂災害となってしまいます。そうなった場合は、肥えた土や何十年もかけて作り上げた貴重な農耕地までも失うことになり、復活させることはほぼ不可能となってしまうのです。日本人にとって農地とは何なのか、お米とは何なのかを、もう一度考える時期にきていると思います。

―――最後に、西島さんにとってお米とは何でしょう。

自分はお米をお米として見ていないかもしれません。お米をきっかけとして、さまざまな地域が元気になることを望んでいるし、土地を活気づけたいと思っています。たとえば、新しいブランド米がきっかけとなって若者が農業に価値を見いだせば、地域の力がつき、活性化にもつながると思うんです。また、自然を相手にしている米作は必ず豊作や不作があり、大雨などの災害もあって、田植えから稲刈りまでは大きな大きなストーリーなんです。これらを消費者にしっかり伝えていくことも、自分のやるべきことだと思っています。