「残したい!伝えたい!日本の味!我が家の味!」⑫

『残したい、伝えたい、日本の味!我が家の味!』

食ラボで研究中の家庭料理シリーズ。
1月は、“から揚げ”をとりあげました。

今回、食ラボ研究員に披露してもらったのは、
①思い出の味やふるさとの味
②我が家の味や人気の味

今回もさまざまなから揚げが集まりました。

考えてみれば、から揚げは昔ながらの日本の家庭料理にはなかったはず。ところがある日、家庭料理に鶏のから揚げが登場すると、ご飯のおかずやお弁当のおかず、さらにはビールの友にもぴったりとあって、知名度も人気も急上昇。ふと気づけば、鶏のから揚げはみんなが大好きな家庭料理ベスト3に確実に入る
人気メニューになっていたのです。

最初に“から揚げ”の定義を調理用語辞典で調べてみました。すると、材料に何もつけずに油で揚げたもの、あるいは粉(小麦粉、片栗粉、上新粉など)をまぶしつけて揚げたもの、下味をつけてから粉をまぶして揚げたものとなっており、肉類、魚介類、野菜類などを材料に用いるとなっています。つまり、肉や魚のから揚げも、立田揚げも、野菜の素揚げや揚げ豆腐も、パン粉を使うフライ以外はみな“から揚げ”仲間ということがはっきりしました。

また、今“から揚げ”といえば、最初に鶏のから揚げが思い浮かびますが、日本では鶏のから揚げより、魚の揚げものや野菜の精進揚げ、あるいは揚げ豆腐のほうがずっと古くからありました。鶏のから揚げが日本で広く普及したのは戦後のことで、終戦後の食糧難を見越した政府の国策により、1953(昭和28)年から各地に養鶏場が作られ、ブロイラーが生産されるようになったからです。そして、鶏を自分でさばかずとも、さばいた鶏肉を部位別に販売するようになると、たちまち一般家庭に広く普及し、鶏肉料理が食卓にのぼるようになったのです。 ※(一部は日本唐揚げ協会HPより抜粋させていただきました)

集合

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでは、まずは“思い出の味、ふるさとの味”から。
「子供たちが小さいころは、学校のお弁当に、また遠足、運動会のお弁当には必ず入れたのが鶏のから揚げでした。子供たちはみな好きでしたね」というのは久保田さん。「最近はから揚げのバリエーションも広がっているようですが、当時はから揚げというと、ほとんどがしょうゆ味のごくオーソドックスな味つけだったのではないかしら」。久保田家のから揚げは、しょうゆ、酒、砂糖、にんにく、しょうが、長ねぎ、レモン汁、卵の黄身をボウルに入れて混ぜ合わせ、ここに鶏モモ肉を入れてもみこんだら1時間はおき、小麦粉をまぶしてカラッと揚げる、というもの。
「子供たちが独立し、夫婦2人の生活になった今は、なかなか登場する機会がなくなりましたが、思い出すとなつかしいですね」。

牧野さんの場合、「子供のころからから揚げは、私の大好物。たとえば私の誕生日ともなると、その日の夕飯のおかずはから揚げ、と決まっていたくらいです」。当時、ご実家のお母さまのから揚げはしょうゆ味が定番。アレンジした味のから揚げは食べたことがなかったとか。肉はたいがい鶏モモ肉でしたが、一時は“チューリップ”と呼ばれる手羽元で作っていたこともあったそうです。

揚げ物といえば、今はもっぱらフライや天ぷら派で、から揚げが登場することはめったにないというのは岩﨑家。とはいえ、岩﨑さんにとってから揚げは思い出の味。昔、お母さまの作るお弁当に、ときどき「鶏のから揚げ」が入っていて、好きだったそうです。

池田さんの子供のころは、から揚げといえば、実家のお母さまの作る「鶏モモ肉の立田揚げ」。それゆえに、和食であり、お箸で食べるものであり、ご飯のおかずと思っていた池田さんですが、「昔、上京して初めてケンタッキーフライドチキンに出合ったときは衝撃的でした。大きいし、骨がついてるし、食べたことのないスパイシーな味つけがまさにアメリカン!」

秋元さんの子供時代、夏は野尻湖の別荘で過ごしていましたが、ある年、来る日も来る日も雨が降り続けたときがあったそうです。車もない時代で、買い物にも出られず困っていると、お豆腐屋さんだけが近くまで売りに来てくれたので、なんとか豆腐だけは買えたとか。そこでお母さまは、豆腐を丁寧に水切りし、片栗粉をまぶして揚げ豆腐を作ってくれたそうです。「当時、山の生活は質素で、買い置きの食料もなかったため、揚げた豆腐がまるで魔法のごちそうに思えたことを覚えています」。

からあげ3

からあげ1
 
次は、“我が家の味や、最近我が家で人気の味”。
飯塚家でもから揚げは息子さんの大好物。やはりお弁当の定番ですが、あるとき息子さんから突然、「レモンから揚げが食べたい」といわれたのだとか。息子さんは普段から酸味のあるものが好き。現在は中学生ですが、そのレモンから揚げは給食だった小学校時代に食べたものだったとか。作り方はわからないまま。さっそく作ってみたそうですが、簡単そうにみえてなかなか思ったような味になりません。当初は肉をレモン汁に漬け込んでおき、それを揚げてみましたが、その方法だと、から揚げに思ったほどレモンの酸味が感じられなかったといいます。そこで塩レモンを使ってみたり、何度か違う方法で試行錯誤。ようやく思い通りの味になったのがコレ。まず鶏モモ肉に塩と酒で下味をつけ、片栗粉をつけて揚げ、あとからレモン汁、しょうゆ、砂糖(1:1:1.5)を合わせたたれで煮からめます。こうすることでレモンの酸味と風味が立ち、さっぱりとした味わいになるそうです。もちろん息子さんも大のお気に入り。「レモンから揚げ」は今やお弁当の定番になっているそうです。

レモンからあげ

 

 

 

 

 
レモンからあげ
 
もう一品、飯塚家でよく作るのが「さばの香味から揚げ」。三枚おろしのさばの切り身に酒、塩、カレー粉で下味をつけ、片栗粉、小麦粉、カレー粉を混ぜ合わせた衣をまぶして揚げる、魚のから揚げです。これはもともとさばが苦手だった息子さんのために作ったものですが、カレーの風味とカラッと上がった香ばしさからか、今では息子さんも抵抗なく食べてくれるそうです。

さば

 

 

 

 

 
さばの香味から揚げ
 
大学生の食べ盛りの息子さんが2人いる長島家でも、から揚げは月に数回登場するメニューです。一番人気はやはり鶏肉で、モモ肉なら一度にまとめて3枚は揚げるとか。それでも食べている途中、足りなくなるのでは?と不安なときもあるそうです。肉はモモ肉のほかにムネ肉を使う場合や、骨付きのモモ肉を使う場合もありますが、たまにパーティなどのときにケンタッキーフライドチキンに対抗して、ダイナミックに1羽を丸ごと揚げることもあるとか。自身で配合したオリジナルの香辛料をまぶして揚げるから、その名も「ママフライドチキン」。
一方で、魚介類にもうるさい長島家では、魚のから揚げもよく作ります。小あじ、たこ、わかさぎ、かじき、かれい、かさご・・・など、そのとき手に入るものを使い、衣もそのときどきで変え、ほかのおかずとのバランスをとっています。
この中から今日作ってくれたのは、「自家製たれの鶏モモから揚げ」と、「ごま油風味の塩から揚げ」、「たこのゆず風味から揚げ」です。「自家製たれの鶏モモから揚げ」は自家製ママだれで肉に下味をつけたら、片栗粉をまぶしてカラッとあげるだけ。「たれは、しょうゆ、塩、こしょう、酒、 はちみつ、白ごま、赤唐辛子にすりおろし野菜(玉ねぎ、りんご、にんにく、しょうがなど)を加えたもの。多めに作って冷蔵保存しておけば、から揚げに限らず、焼き肉や炒め物などにも使える万能だれです」。

自家製たれ

 

 

 

 

 
自家製たれの鶏モモから揚げ
 
「ごま油風味の塩から揚げ」は、鶏はムネ肉に塩、こしょうをして下味をつけ、片栗粉で揚げてから、長ねぎ、白ごま、ごま油、塩にゆずの皮を加えたたれをまぶします。

ごま油風味

 

 

 

 

 
ごま油風味の塩から揚げ
 
「たこのゆず風味から揚げ」のたこは一口大に切ってよく水気をふきとり、塩、こしょう、パプリカ、すりおろしゆずで下味をつけたら、上新粉をまぶして揚げるのがポイント。
つるっとした魚介類でも、しっかり衣がついてはがれないからだそうです。

たこゆず風味

 

 

 

 

 
たこのゆず風味から揚げ
 
牧野家は、牧野さん自身がから揚げ好きなのに加え、サッカー部で食べ盛りの高校生の息子さんももちろん大のからあげ好き。夕食のおかずにお弁当に、から揚げは大活躍のメニューです。さまざまな味つけのから揚げを作りますが、中でも定番は「しょうゆ味のから揚げ」。鶏モモ肉はしょうゆ、酒、しょうが汁、おろしにんにくで下味をつけ、片栗粉をまぶして揚げているそうです。「下味をつけた肉は冷凍保存もできるので、普段から多めに保存しておくことが多いですね。前夜に冷蔵庫に移しておけば、朝は衣をつけて揚げるだけ。お弁当のおかずにも重宝しますよ」。
もう一品、牧野家の定番になりつつあるのが「塩・レモン味のから揚げ」。息子さんが塩麻婆豆腐や塩焼きそばなど、塩味が好きなので、レパートリーに加わったそうです。こちらも鶏モモ肉を使います。塩と酒、薄切りのレモン、おろしにんにくで下味をつけたら、片栗粉をまぶしてカラッと揚げます。「もし、から揚げが残ったら、小さく刻んで冷凍ストックしておき、もっぱらおにぎりの具にしています」。

醤油・塩レモン

 

 

 

 

 
しょうゆ味のから揚げ/塩・レモン味のから揚げ
 
池田家で最近よく作るから揚げはというと、「鶏ムネ肉のから揚げ “そるとまと”風味」。手作りしたトマトの塩漬け“そるとまと”で肉の下味をつけたものだそうです。トマトを皮ごと八つ切りにして10%の塩を加え、冷蔵保存しておいた“そるとまと”は池田さんのオリジナル。塩レモンとはまた違う風味とうまみでおすすめだそうですが、この汁に、こしょうや刻んだバジルを加え、鶏ムネ肉を1時間ほど漬け込んでおき、小麦粉と片栗粉を半々で合わせた衣でカラッと揚げます。「“そるとまと”はうまみがたっぷりなうえ、肉をやわらかくするため、ムネ肉もジューシーになるんですよ」。

そるとまと

 

 

 

 

 
鶏ムネ肉のから揚げ“そるとまと”風味
 
一方、インドネシアに在住経験のある久保田家では、ときどき無性にエスニックなものが食べたくなるといい、そんなとき気軽に作るのがスイートチリソース(市販品)を使ったから揚げだそうです。揚げるものは鶏ムネ肉だったり、かじきまぐろだったりしますが、今日はかじきまぐろで作ってくれました。「かじきまぐろのから揚げ エスニック風」は、魚に塩、こしょうしてから小麦粉をまぶし、カラッと揚げてから、スイートチリソースをからめ、香菜をたっぷり散らせばできあがり。衣は、小麦粉の代わりに上新粉を使うこともあれば、衣の中にチリパウダーを混ぜることもあるとか。

カジキまぐろ

 

 

 

 

 
かじきまぐろのから揚げ エスニック風
 
秋元さんは今回、ご専門のイタリア料理のフリットから発想した「ビール入りパルミジャーノ衣のささ身フリット」を作ってくれました。フリットはイタリア版のから揚げ。素揚げもあれば、衣をまぶして揚げる洋風てんぷらもありますが、今回は小麦粉と片栗粉にすりおろしたパルミジャーノを加え、さらに卵の白身とビールを加えた衣にしたそうです。ささ身はたたいて薄くのばし、塩、こしょうを強めにしてから衣をつけて揚げるだけ。さっぱりしたささ身にチーズの風味が加わるうえ、衣にビールが入るので、サクッ、フワッと軽く揚がり、それこそビールもすすむそうです。

ビール入り

 

 

 

 

 
ビール入りパルミジャーノ衣のささ身フリット
 
食ラボメンバーたちの“から揚げ”や、から揚げにまつわるエピソード、いかかだったでしょうか。普段からから揚げをひんぱんに作る家庭もあれば、反対にほとんど登場しない家庭もありました。それは世代によっても、あるいはお弁当世代のお子さんがいるいないによっても違ってくるようです。12月にとり上げた“カレー”は今や国民食。日本の家庭料理においても人気料理ですが、ひょっとすると、“から揚げ”も今やカレーと同じくらい人気料理といえるかもしれません。から揚げの強みは、何といってもお弁当に欠かせないメニューだということ。それだけ比べたら、カレーより人気度は上といえるでしょう。そして、下味をつけて揚げるだけというシンプルな調理と、材料費の安さも、まさに家庭料理の鏡!外食店のメニューをはじめ、スーパーの持ち帰り総菜やコンビニのお弁当でもおなじみのから揚げですが、全体的に味の濃さが気になります。家庭料理だからこその味つけで差をつけたいですね。