醗酵の研究1

「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。そこで、「塩」に続いてとりあげたのが、「砂糖」「みりん」「酒(料理用)」「酢」などの調味料。また、昨年は「油」を多岐にわたってとりあげました。

さて、昨年までとは変わって、今年は「発酵、発酵食」がテーマ。さまざまな角度から“発酵や発酵食品”“発酵食品を使った料理”を研究しようと思います。

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<ラードで料理を作る>

<発酵とは・・・>
微生物の働きによって食材が変化し、人間の体にとって有益なものになることをいいます。微生物が食材のたんぱく質やでんぷんを分解し、アミノ酸や糖分といった新たな物質を作り出すことで、もともとの食材とは違う味になったり、香りや風味が変わったり、以前よりおいしくなったり、栄養成分が増したりもします。
使ったラードは、「掛川完熟酵母黒豚 脂挽(ラード用)」のみ(殺菌された酵母醗酵飼料だけで飼育された黒豚で、健康で腸内環境もいいピュアな豚。その上質の脂身だけをひいたもの)。これを用いて11月の食ラボで手作りした100%純粋ラードです。

また、発酵は昔から食材を保存するための賢い知恵であり、手段でもありました。
魚介類、肉類、乳製品、野菜・・・を発酵させることで、長期保存できるようにしたり、まったく違う味に変化させ、新たな食品を誕生させたものもあります。
一方、微生物の働きによるものでも、人にとって有害なものに変化することもあります。これは“腐敗”と呼ばれ、“発酵”と区別しています。

発酵と人の長い歴史。日本は有数の発酵大国!
世界にはさまざまな発酵食品があり、人は昔から発酵と上手につき合ってきたことがわかります。日本も昔から発酵とは長いつき合いがあり、いわば発酵大国です。
おなじみのものでは、しょうゆ、みそ、酢、みりん、日本酒、焼酎、納豆、漬物はどれも発酵食品。ほかにもなれずしや飯ずし、かつお節(枯節)、塩辛、魚醤類も発酵によってできた食品や調味料です。

発酵がもたらす効果や、驚きのパワー

発酵食品で注目したいのが、発酵することで加わったり、変化して新たにもたらされた効果やパワーです。

①食材をおいしくする効果
発酵によって、うまみや香り、風味が加わり、増大すること。また、発酵前の食材にはなかった複雑な味わいになるのも微生物のおかげです。

②食材の保存性を向上させる効果
魚介類や肉類、乳製品、野菜などを発酵させることで、腐らせずに保存できるのは、発酵ならではのものです。

③健康効果と美容効果
発酵によって、食材の持つ栄養成分が増したり、新たな栄養成分が生まれたりすることで、人の健康や美容にもたらす効果もわかっています。発酵食品をとることで、腸内の善玉菌が増えるため、腸内環境が改善されます。腸内の消化活動が促進され、栄養を吸収しやすくするので、免疫力がアップします。また、発酵食品に含まれるさまざまな抗酸化物質が、体内の活性酸素を除去するので、アンチエイジング効果も期待できます。

◎発酵食品の数も、発酵に関わる微生物も多数
発酵食品は世界中にあるため、その発酵に関わる微生物も多数あります。微生物の種類を大きく分けると、カビ、細菌、酵母菌の3種類。それらの中でも代表的なのが以下の5つです。

①麹菌 みそ、しょうゆ、酢、みりん、日本酒・・・他
日本の発酵文化を担ってきた微生物の代表。米、大豆といった穀物を加熱したときに繁殖する糸状菌(カビ)の一種。発酵過程で、2種類の酵素によって糖分とアミノ酸を作り出すため、食品に甘みとうまみが加わります。

②乳酸菌 ヨーグルト、チーズ、漬物・・・他
糖を分解して乳酸を作る菌で、細菌の一種。動物性と植物性があり、現在わかっているものだけで300種もあります。乳酸発酵によってできた食品の代表がヨーグル
トやチーズですが、みそやしょうゆ、日本酒の生産過程にも、麹菌のほかに乳酸菌が関わっています。

③酵母菌 日本酒、ワイン、パン、みそ、しょうゆ
糖を分解し、二酸化炭素とアルコールを生成するのが、酵母、酵母菌と呼ばれる真菌(カビ)で、適度な温度と湿度で発酵を始めます。アルコール発酵やパンの発酵のときの主役になるのがこの菌で、自然界に広く生息し、大気中に漂ったり、酒蔵の中に住みついたり、野菜の表面についていたりし、幅広く利用されています。

※パン酵母として適しているのは「サッカロミセス・セルヴィシエ菌」と呼ばれる菌で、イーストとはこの菌を純粋培養したもの。

④酢酸菌 酢、ワインビネガー…他
糖から作ったアルコールを酢酸に変える細菌が酢酸菌です。日本酒から米酢、ワインからワインビネガー・・・という具合に、酒の数だけ酢もあります。変わり種としては、発酵の過程で膜を作る性質を利用して作ったものにナタデココがあります。

⑤納豆菌 納豆
稲わらに生息する枯草菌(細菌)の一種。蒸した大豆にこの菌を付着すると、たんぱく質を分解してアミノ酸を作り、ビタミン類や特殊酵素(ナットウキナーゼ)を生み出します。温度変化や酸、アルカリにも強く、納豆を作るのに欠かせない菌。

<麹やみそで料理を作る>
今月は、日本の発酵文化を担ってきた微生物の代表ともいえる「麹菌」を使った料理を作り、みんなで試食してみることにしました。

◎やわらか肉だんごの麹鍋/久保田作
鍋の汁の味つけにみそと“寒麹(市販品)”を使い、具の肉だんごも寒麹を加えます。そ他の具は、白菜、長ねぎ、豆腐。
豚、鶏のひき肉を半々ずつボウルへ。長ねぎ(みじん切り)、しょうが(すりおろし)、寒麹、片栗粉を加えてよく練ります。昆布でだしをとった鍋に、白菜だけ先に入れ、寒麹
とみそを加えて煮込みます。白菜に汁の味が浸みこんだら、だんご状に丸めた肉を鍋に落とし入れ、長ねぎも投入。最後に豆腐を加えます。

※寒麹・・・麹、もち米、塩、砂糖を合わせて発酵させた調味料で、秋田県などでは昔からよく使われており、麹、水、塩で発酵させる塩麹に比べ、少々甘みもある。寒麹が手に入らない場合は、塩麹にはちみつか砂糖を足し、少々甘みを加えて使ってみてください。
参考:安藤醸造 http://www.andojyozo.co.jp

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みそ味の肉だんご鍋はおなじみですが、寒麹を用いることで、汁にも肉だんごにもうまみがしっかり加わります。しかも、肉だんごはふっくらやわらかく、白菜には味がしっかり浸みています。
「そうなんですよ。白菜は最初に加え、くたくたに煮た方がおいしくなるんです」と久保田さん。

◎厚揚げと野菜のみそ炒め/久保田作
厚揚げとピーマン、まいたけを炒め、合わせみそで味つけるだけ。合わせみそを作っておけば、あっというまにできる時短料理です。合わせみそは、みそ、おろししょうが、おろしにんにく、はちみつをボウルで合わせ、油少々入れて温めたフライパンへ。弱火で火を通しておく。フライパンに油を熱して厚揚げ(1㎝厚さ)を焼き、焼き色がついたら、いったん取り出す。続いてピーマン、まいたけを入れて炒め(途中で水少々加え、蒸し焼きにする)、厚揚げを戻し入れたら、合わせみそを加え、ざっと炒め合わせる。

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しょうが、にんにく風味の合わせみそが、厚揚げや野菜と相性抜群。合わせみそは冷蔵保存も可能なので、多めに作っておけば、長ねぎや里芋、こんにゃくなどにも合いそうですね。

◎大根、にんじんの寒麹漬け/久保田作
大根とにんじんを“寒麹”で漬け込んだ即席漬けです。拍子木切りにした大根とにんじんは半日程度干し、水けをとってからジップ袋に入れ、寒麹とゆず皮を加え、半日~一晩冷蔵庫へ入れるだけ。
「今回はゆず皮のはちみつ漬けを使いましたが、ゆず皮だけでもOK。寒麹が手に入らない場合は、塩麹とはちみつか砂糖を加えてください」

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◎なすの柚子みそあえ/牧野作
古島さんの叔母さまから手作りの“柚子(ゆう)みそ”をいただいたので、今回はそれを使ってなすのあえものを作りました。なすは多めの油で揚げ焼きにし(揚げてもよい)、油をよくきって、柚子みそであえました。

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いただいた柚子(ゆう)みそは、白みそ(西京みそ)、砂糖、卵、柚子皮(すりおろし)を鍋に入れ、先によく混ぜた後、弱火で30分ほど、練りながら火を通したものです。日持ちがするので、多めに作っておけば田楽や“ぬた”をはじめ、さまざまな料理に使えるすぐれもの。パンに塗って食べるのもおすすめだそうです。

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テーマ「発酵、発酵食の研究」の初回、まずは発酵についてみんなで座学したあと、みそや寒麹(麹の調味料)を使って料理を作りました。どちらも、日本の発酵文化を担ってきた微生物の代表ともいえる「麹菌」でできた発酵食品。みそ汁やみそ煮、甘酒は日ごろからおなじみですが、ほかにもまだまだおいしい使い方や、体にいい使い方があるはず。次回も引き続き、発酵や発酵食の奥深い魅力を探っていこうと思います。