油の研究12

「食のラボラトリー」は、普段からおなじみの食材や調味料をもっとよく知り、おいしい使い方を研究しようという思いから始まりました。その第1弾が“塩の研究会”。塩そのものの味を比較したリ、調理してみると、新しい発見がいっぱいありました。そこで、「塩」に続き、さまざまな調味料を研究することになりました。
これまでとりあげたのは、「砂糖」「みりん」「酒(料理用)」「酢」など。さらに昨年は1年間にわたってさまざまな「だし」をとりあげました。そして、2018年のテーマは「油」。さまざまな油について研究してきましたが、12回目の今日はいよいよ最終回。「ラード」の総集編です。

_DSC5239_1

<ラードで料理を作る>

◎各国でさまざまな料理や菓子類に使われているラード
昔から、世界各国でさまざまな料理や菓子類に使われているラード。先月は極上ラードを使って、中華おこわ「米糕」と、蒸しカステラ「馬拉糕」、ごまだんご「芝麻湯圓」などの中華点心を作りました。

使ったラードは、「掛川完熟酵母黒豚 脂挽(ラード用)」のみ(殺菌された酵母醗酵飼料だけで飼育された黒豚で、健康で腸内環境もいいピュアな豚。その上質の脂身だけをひいたもの)。これを用いて11月の食ラボで手作りした100%純粋ラードです。

そして今回もこのラードを使い、ラード研究の総まとめとして、以下の3品を作ることにしました。代表的な中国点心「包子」、イギリスの「ミンスミートパイ」、イタリアの「ピアディーナ」です。さらに、スペイン菓子店で購入した、ラードを使った伝統菓子「ポルボロン」と「マンテカード」もみんなで試食してみることにしました。

_DSC5997_2

◎包子(パオズbāo zi)/岩﨑作
包子は、小麦粉の生地を蒸して作る中国の点心の1つで、日本では“中華まん、肉まん、あんまん”で知られています。包子には、ローパオ(肉包)=肉まん、ドゥパオ(豆包)=あんまん、ツァイパオ(菜包)=野菜まん・・・他があり、今回作った包子はローパオ=肉まんです。

材料
肉あん:豚肉(塊を細かく刻み、たたく)、白菜(かためにゆで、小さめ角切り。水気をしぼる)。干ししいたけ(もどす)、干し貝柱(もどす)、長ねぎ(みじん切り)、しょうが(みじん切り)、調味料(砂糖、酒、しょうゆ、オイスターソース、塩、こしょう、ラードで作ったねぎ油、ごま油、片栗粉)
包子皮:小麦粉(薄力粉)、ラード、砂糖、老麺、ベーキングパウダー、かん水

作り方
肉あん:豚肉(塊)を細かく刻んで入れてよくこね、粘り気が出てきたら調味料を順に加え、他の具も加えて混ぜ合わせる。 包子皮:ボウルにぬるま湯、ラード、砂糖、老麺を加えて混ぜ合わせたら、これを粉に加えて、混ぜ合わせる。水が回ったら台に取り出し、なめらかになるまでよくこねる。冬場なら5~6時間程度寝かせて発酵させる。倍くらいの大きさに膨らんだら、かん水、BPを加えこね、棒状にし、個数に合わせて等分に切り分ける。径8㎝大に丸く伸ばし(真ん中を厚めにする)、肉あんを包み込み、蒸し器に並べて蒸し上げる。

「皮にも肉あんにもラードを使っています。また、生地の発酵は、近年はドライイーストを使うのが一般化していますが、今回は昔ながらの“老麺”を使いました」と岩﨑さん。
※老麺(ラオミェン) 中国に古くから伝わる自家製天然酵母を使った生地の“元だね”。添加物は一切使わず、自然発酵させて作った発酵種を維持し続けることでつないでいく。
市販品はない。岩﨑さんが以前、中国料理のプロから譲り受けたものを大事に維持し続けており、今回はそれを使用。

ラードと老麺を使った、正統派の本格肉まんは、口の中でうまみがじゅわっと広がり、皮は、イーストを使った肉まんとはまったく違う食感。もっちりとしてかむほどにおいしく、食べ応えもありました。

_DSC5787_3_DSC5805_2

_DSC5992_3 _DSC6026_2

肉まんと一緒に、桃まん(桃包)も手作りしてくれた岩﨑さん。桃包は、中国では誕生日のお祝いなどによく食べられるので、“寿桃”とも呼ばれるとか。中はやさしい味のカスタードあんでした。見た目もかわいい!
_DSC6007_2

◎ミンスミートパイ (mincemeat pie)/鈴木作
イギリスで、昔から食べられてきたパイ菓子「ミンスミートパイ」にもラードが使われています。ミンスミートパイとは、クリスマスと新年をお祝いする縁起物のパイで、数㎝大の小さいパイをたくさん焼いておき、クリスマスから十二夜にかけ、1日1個ずつ食べていくと、新年に幸運が訪れるという言い伝えがあります。
パイの中に、りんごやドライフルーツ、ナッツなどの具を、砂糖やスパイスと一緒にラム酒やブランデーに漬けておいた具(ミンスミート)を詰めて焼き上げたもの。もっとも、その昔は“ミンスミートパイ”という名の通り、ミンス(みじん切り)したひき肉が入っていたそうですが、次第に肉は入らなくなり、フルーツやドライフルーツ、ナッツ類が入ったものに変わりました。ラードはパイ生地を作るときに使われ、さらに、具にもラードを混ぜ込みます。
作り方は、粉(薄力粉と強力粉)と塩、細かく切って冷蔵庫で冷やしておいたラードを加えて混ぜ、卵黄水も加え、練らないようにしてまとめたら、たたんで重ねる。これを3~4回ほど繰り返して層状にしたら、冷蔵庫へ。1時間以上休ませる。これを取り出し、麺棒で叩いてから3mm程度の厚さまで伸ばす。これを30分ほど休ませたのち、型で抜く。型に生地を敷きつめ、ピケしてから具を詰め、フチに卵白を塗って同じ生地でフタをし、はみ出したフチを切り取り、周りをフォークで押さえ、卵黄を塗り、再度30~40分休ませたのち、オーブンに入れて焼き上げる。

「今回の具(ミンスミート)は、刻んで約2か月コニャックに漬け込んだドライフルーツ(レーズン2種、レモン、オレンジ、アプリコット、クランベリー、イチジク、ジンジャー)。これに蜜煮りんごと、ローストしたクルミ、そして刻んだラードも加えました」と鈴木さん。
これを全部パイ生地に閉じ込めて焼くなんて、なんてぜいたくなミンスミート!

_DSC5862_1

また、鈴木さんは「ラードを用いた生地は、バターを用いたものより粘度が低いのか、生地がまとまりにくい気がしますね」とも。生地を伸ばすところを見ていても、まとまりにくそうでした。のちほど焼き上がった生地を食べても、サクッとする分、くずれやすかったです。
一方で、ラードを用いたパイ生地は、バターのような甘い香りはないものの、具のミンスミートとの相性は抜群。スパイスをきかせた具ならば、ラードの生地の方がスパイス香が際立つのかもしれない、とも思いました。

_DSC5708_3_DSC5711_3_DSC5716_2_DSC5724_1_DSC5742_1_DSC5914_1_DSC5916_1_DSC5625_2_DSC5768_1_DSC5783_1_DSC5879_1

◎ピアディーナ (Piadina)

古くからイタリア北部エミリアロマーニャ地方で食べられてきた郷土料理の1つで、酵母(イースト菌など)を使わない無発酵の平焼きパン。近年は街のピアディーナ屋などで気軽に食べられているストリートフードです。お店ではいろいろな具が用意してあって、注文すると、焼いた生地に好みの具をのせ、サンドしてくれます。
作り方は、ボウルに粉(強力粉)、塩、ベーキングパウダーを入れ、真ん中を少し開け、ラードと温めた牛乳、ぬるま湯を入れたら混ぜ合わせ、まとまったらこねる。表面がなめらかになったら15~20分ほど休ませる。これを麺棒で丸く伸ばし(径15~20㎝)、フライパンで焼く。油はひかず中火で焼き(途中、生地がふくらみかけたらフォークでつついて穴をあける)、焼き色がついたら裏返し、裏も同様に焼いたらできあがり。
この皮に好きな具をのせ、半分に折って食べます。今日の具は、定番のルッコラ、トマト、生ハム、モッツァレラ。具はしっかり水気をとってからのせ、塩少々とEX.バージンオリーブオイルを回しかけました。

_DSC5674_2_DSC5698_1_DSC5707_1_DSC5817_1_DSC5937_2_DSC5946_1_DSC5956_1_DSC5963_2_DSC6004_3

「最近は、イタリアでもラードの代わりにオリーブ油を使って作る人も多いんですが、やっぱりラードを使う方が、皮がサクッと香ばしく焼き上がるんです」と秋元さん。 半分に折ると、パリッと割れそうで割れないのは、もっちりとして伸びもあるから。
「ピアディーナの皮はね、サクッとしながらも、割れてはいけないんですよ」
発酵させないから、短時間でできるところも魅力。家でも気軽に作れそうですね。

◎ポルボロン(Polvoron)、マンテカード(Mantecado)
ラードを用いるスペイン・アンダルシア地方の伝統菓子といえば、ポルボロン。粉(小麦粉、アーモンドプードル)、ラード、砂糖、ナッツ類、シナモンなどの香料で作ったシンプルな焼き菓子です。スペイン語でポルボロンは、“ホロホロとくずれる粉”という意味で、その名の通り、ホロホロ崩れる食感が特徴的です。

一方、マンテカードは、このポルボロンのもとになったお菓子。「Manteca(動物油脂)でできた」という言葉に由来しており、もともとは小麦粉とラード、砂糖、シナモンだけを原料にした、シンプル過ぎてあまりおいしくない焼き菓子でしたが、最近のスペインでは、ナッツを加えたり、生地をチョコレート味にするなどして、進化させたマンテカードを出している店も増えているとか。

ところで、ポルボロンがこの食感になったのは、アーモンドプードルがグルテンを生成しにくいのと、小麦粉を色づくまで煎ってから使っているため、粘りのもとになるグルテンが生成しにくくなるからです。

そんなくずれやすいポルボロンは、クリスマスには欠かせない伝統菓子。口に入れて、溶けてしまう前に「ポルボロン、ポルボロン、ポルボロン」と3回いえれば願いが叶う、といわれているそうです。

みんなで口々に「ポルボロン、ポルボロン・・・」といいつつ試食しましたが、やはり3回は無理よね~というほどのやわらかさ。ホロホロの口どけは、焼き菓子というより和三盆の和菓子のよう。シナモンの風味とやさしい甘みも印象的でした。

今回、ポロボロンとマンテカードを食ラボが購入したのは、茨城県にある「ドゥルセ・ミーナ」。スペイン菓子専門のパティスリーです。包み紙までステキですね。
※「ドゥルセ・ミーナ」

_DSC5856_4_DSC6030_2

テーマ「油の研究」の最終回は、食ラボメンバーで手作りした極上ラードを使って、中国料理の点心「包子」、イギリスのパイ菓子「ミンスミートパイ」、イタリアの平焼きパン「ピアディーナ」を作りました。料理にお菓子に、昔から各国で使われてきたラードの奥深い魅力を学び、その味をみんなで堪能しました。

料理もお菓子も、暮らしや人の嗜好に合わせて次々と変わっていきますが、「油の研究」を通し、さまざまな油を学んでみると、昔ながらの製造法や味、調理法には、時代を超えた素晴らしいものが多いことに、改めて気づかされた1年間でした。